鋼の錬金術師 ハボ×ロイ
万里様からのプレゼント
龍詠の書いた電話の続編を書いて下さいました〜v

文章:万里様

◇◇ 正しい犬のしつけ方 ◇◇


 それはまるで奇跡のような出来事。
 ずっと憧れて追い求めていたあの人をこの腕に抱くことができたのだから…。

 始まりは、よくある酔ったイキオイってやつで。
 飲み会の帰り、珍しくしたたかに酔った大佐を家まで送ったついでに介抱するふりで部屋に上がりこんだ。もちろん、俺としてはシタゴコロ有りまくり。スキあらば、なんて思ってたんだけど、たとえ錬金術を抜きにしても、大佐と俺の体格はほぼ互角。純粋な力勝負なら俺にも勝機はあるが経験値に格段の開きがあるため、本気で抵抗されたら俺なんかが敵う相手じゃない。
 しかし、壊れ物を扱うようにそっとベッドに運んで、上着を脱がせシャツのボタンを外しても大佐は抵抗らしい抵抗を見せなかった。
 酔って意識を無くし俺に全てを委ねた大佐は壮絶に色っぽくて、それはまるで誘っているようにしか見えず、たまらなくなって俺は吸い寄せられるように薄く開いた桃色の唇にそっとキスした。
 熱い舌が俺に応えるように絡み付いてきて、なけなしの理性に揺さぶりをかける。
 唇を離すと大佐からは艶を帯びた吐息が漏れ、無意識だろうがねだるように両腕が俺の首に回される。
 惚れた相手の色っぽい姿を見せられて、正常な男だったらここで引くワケにはいかないっしょ? 
 千載一遇のチャンスに我慢のメーターなんて簡単に吹っ切ってしまい、俺は欲望のままに大佐を抱いた。

 それから、俺達は何度か身体を重ねている。あの部屋に自由に出入りする許可ももらった。
 たとえそれが身体の快楽に押し流されただけの行為の延長であったとしても、最初は触れられるだけで幸せだった。大佐が俺の腕の中にいる、その事実だけで幸せでいられた。
 しかし、吐息を絡めあい、肌に触れ、その身体を抱き締めるたび俺の中に尽きない欲望が生まれる。

 あの日、大佐の親友のヒューズ中佐に見当違いの嫉妬をして、敵うはずはないと知りつつ、それでも大佐の心の何処かに俺を…ジャン・ハボックを刻み付けたくて、わざと中佐と電話中の大佐を抱いた。
 嫉妬の焔に煽られて、やや強引に抱き寄せた大佐の熱に、いつしか不安に固まっていた俺の心の方が溶かされてゆく。一度抱いてしまえば、嫉妬も不安も独占欲さえも消え去り、後にはもう目も眩むほどの幸福感しか俺の中には残っていなかった。
 大佐が誰を思っていても構わない。今、ここで大佐を抱き締めている腕は俺のものなのだから…。

 そう開き直った俺は、大佐に『俺とのセックスに満足しているのか』という今まで聞きたくても聞けなかった俺にとっては最重要な質問をして、えらい剣幕で怒鳴られた上に、あやうく消し炭にされるところだった。
 結局の所、大佐とヒューズ中佐との間には深い信頼で結ばれた友情以上のものは無く。大佐に言われて無い知恵振り絞ってようやく俺がたどり着いた答えは、抱かれてもいいと思うくらいに大佐も俺のことを思ってくれている、という信じられないくらいに幸せなものだったのだが。
 
 ……だからといって、堂々と恋人ヅラして余裕かまして安心していられるワケじゃねぇんだよなぁ。
 デスクの上に足を組んで煙草をくゆらす俺の姿は、どう見ても真面目な軍人とは言いがたい。
 だからって、あんなの見せつけられちゃ、仕事する気も出ねぇっての。
 俺の視界の端には、大佐とホークアイ中尉の姿。
 中尉は大佐の腹心の部下で、美人で有能。おまけに俺なんかと違って真面目な軍人の鑑って人だ。もちろん、上官としては俺も尊敬しているわけだけれども……。
 仲睦まじく語り合う二人の姿に俺はじっとしていられなくなる。
 例の電話の一件で、俺は大佐にとって特別な位置に存在しているのを知った。が、それはあくまで男の中であってのこと。
 元々、大佐はかなりの女好きだ。それに国家錬金術師の資格を持った将来有望な軍部のエリートでハンサムとくれば女のほうが放っておくはずが無い。
 それに、中尉ほどの美女ならば大佐でなくても男ならば誰でもお願いしたいと思うだろう。
 確かに大佐と中尉が並んでいる姿は文句無くお似合いだと思うけれど……黙って見てるってのは俺の性に合わねぇ。
 「あー、大佐。この書類のここんとこなんスけど……」
 デスクの上に山積みになっていた書類の中から適当に1枚抜き出して、俺は大佐と中尉の間に割り込む。
 質問?ンなもんあるわけねぇだろ。あくまでこれは口実だ。
 「では、私はこれで。コツは甘やかしすぎない事。あくまで厳しく!が原則です」
 ……甘やかさないで、厳しくって一体何の話だ?
 仕事の話ではなさそうだがどうやら、俺が想像していたような話とはちょっと違うようだ。
 「それにしても大佐が犬を飼っていらしたとは初耳でした」
 犬?中尉の言葉に俺は首をかしげる。大佐の家には犬なんていないはずだが……
 「ああ、最近家に居着いてしまったんだよ。尻尾を振って擦り寄ってくる姿などなかなか可愛い所も有るんだが、これがまた『待て』の出来ない奴でね」
 ニヤリと笑った大佐の瞳が俺を捉える。
 待ての出来ない犬って…もしかしなくても俺の事っスか。
 「ならば私がブラックハヤテと一緒にしつけましょうか?」
 顔に似合わずめちゃくちゃ厳しい中尉のしつけを思い出し、俺の背中に冷たい汗が流れる。
 「いや、中尉。それには及びません。待てはちょっと覚えらんないみたいっスけど番犬としては十分っスから」
 「あら?ハボック少尉は大佐の犬を知ってるの?あんまり甘やかしちゃダメよ。しつけは早いうちにきっちりしておかないと」
 そう言い残して去って行く中尉の背中に、俺はホッとため息をつく。ブラックハヤテ……俺はお前を尊敬するぜ。
 「番犬、ね。それではせいぜい頑張って私を不届き者から守ってもらうとしようか」
 確信犯めいた大佐の笑みに俺は心の中で白旗を上げる。はいはい、飼い主様の言う事は絶対っスからね。
「そのかわり大佐、飼い犬は責任持って最後まで面倒見て下さいよ。あー、それから頑張って働いた時には、ご褒美も忘れずに。もちろん『待て』は無しっスよ?」


 ……その後、大佐の飼い犬が待てを覚えたと言う話は誰も聞かない。


END


 ヒャー! 最高ッス! 万里さん!!
 『電話』をイラストを描かれたシュリさんに捧げるのに、なるべくミスが少なくなるよう万里さんにチェックをお願いしておりました。そしたら的確な指示を頂けて、それだけでも感謝しておりましたのに、あの話しを読んでご自身でも書きたくなったと仰って、こんな素敵なお話を頂いてしまいました!
 ああん、もう幸せ〜v
 実はどうやってハボと大佐がこんな関係になったことにしようかなぁ、なんて考えていたんですが、結論は出ておらず。(^^;;;
 大事な初めも考えずに、よく話しを書くな? と言われそうですが、まとまっているカップルは最初からそのように扱うのが好きなんです。あんまり出会いとかはその時は考えてなくて、後から辻褄合わせる事の方が多いんです‥。(^_^;)
 えへへ、でもしっかり出会いまで書いてもらって、しかも職場でもラブラブしてる姿が微笑ましいですねぇ。大佐、実は嬉しくて仕方ないんじゃないでしょうか。誰かに自慢したい、そんな感じに思います。(笑)
 でも御褒美を約束してしまった? 大佐は後から一体何を言われるのか。これまた楽しみです。
 ヘタレ攻めが大好きなんですが、毅然とした人を焦らせるのも楽しいですね。

 万里さんのハボは本当はもう少し嫉妬心と独占欲が強い男だったのですが、私の話しに合わせて下さいました。本当に有り難うございます〜vv
 我慢のメーターとか、黙ってみてるのは性に合わないとか、ハボらしくて大好きです。(^^)
 また万里さんのお話も期待していいですか? 是非是非読ませて下さいねv
 この度はまことに有り難うございました!!



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