「犬夜叉‥」 弥勒は口に出してそう呟いた。決して助けを求めていたわけではない。ただ、観念したと思ったら自然に口から出ていたのだ。 消えた奈落の気配を追ってここまでやってきた。奈落ではなかったが強大な邪気を感じこの屋敷に入った。敵は自分たちの一行を分散させた。そして弥勒は一人、中にいた鬼に食われそうになっているのだ。 「身体が動かない」 鬼の強い邪気は弥勒から自由を奪った。まさかこれほど強い者がいるとは思わなかったのだ。 脂汗を浮かし歯を食いしばる。何とか手だけでも動かせることが出来たなら‥。右手の風穴で吸い込んでしまえただろうに。 邪気から逃れようと焦り、何とかしようと藻掻く顔は鬼でも見惚れるほど色気があった。 「くくっ、ただ喰らうのは勿体ないのう」 鬼はすぐさま食すのは止め、弥勒の衣を引き裂いて剥ぎ取った。 「なっ何をする」 鬼は大きな顔でニヤリと笑う。 「こうなったらやることは一つだろう」 姫に取り憑いていたはずの鬼は男の証を弥勒に見せ付けた。 弥勒は息を呑んだ。 ‥それは人間では決してあり得ない尋常ならぬ大きさだった。大人の男の腕と同等と見ていいだろう。そんなモノで犯されたら自分は間違いなく壊されてしまう。いっそひと思いに喰われた方がましだった。 見た瞬間に恐怖が襲うが何処にどう力を入れても指一本動かせなかった。かろうじて顔の表情だけが読み取れ、それが逆に鬼を煽っていた。 そして弥勒は観念した。希望も期待も何もかもを手放したら、勝手に残りが口から漏れてしまったのだ。 その弥勒の呟きを聞き留めた者がいた。 「半妖など呼んでも仕方ないだろう」 「なっ何故ここに」 鬼のそばにいつの間にか居たのは、変わらずに貴公子然とした殺生丸であった。 「犬夜叉が恋しいくせにこんな下等なモノと楽しんでいるとはな」 弥勒は自分が素っ裸なのに気が付いた。しかし隠すことも身を捩ることも出来ない。 「この状況でそう言うことを言いますか」 「ふふっ、楽しんでいるわけではないのか。ならば助けて欲しいか」 「何を勝手なことをぬかすか。きさま生きてられると思うなよ」 鬼が殺生丸に手を掛けたと同時に、殺生丸の闘鬼神が空を舞った。 鬼は砂のように粉微塵になってあっさりと消えた。 「つっ強い」 前に見た時よりもさらに強さが増している。いきなり解けた邪気に固まっていた身体が投げ出される。それでも弥勒は裸のままで殺生丸を見つめた。 「死ぬかもしれないという時に、あいつの名前をその口端に乗せるのか」 殺生丸はすいっとそばによると肩を引き起こし弥勒の下唇を親指でなぞった。弥勒は尖った爪のあるその指先にぞくりとした。 犬夜叉と同じ‥、同じ指が一番想いが伝わるであろう口に触れ、未だ引いていかない手に熱くなる。 「人が最期に呼ぶ名前は、そのとき一番未練が残りそうな相手‥だと思います」 「未練‥‥。あの半妖相手に未練が残ると言うのか」 殺生丸はその考えが解せぬようだ。 「あなただって近頃小さなおなごを連れているではありませんか」 話しながらも殺生丸の指は弥勒の下唇を右へ左へとゆっくり往復する。その確かめるような緩慢な動きが弥勒を上昇させる。 「この殺生丸がたかが人間の小娘一匹に未練が残るというのか」 「ぁあっ、もう離して下さい‥」 弥勒は殺生丸の手を押しのける振りをする。 「なら何故、人間をくだらない存在だと見下していたのに一緒にいるのですか」 本気で押しのける気のない手は殺生丸の腕を掴む。まるで離したくないかのように。 「ただの‥」 「ただの?」 「気まぐれだ」 そう呟くと殺生丸は弥勒のあごを少し上に引き、今まで撫でていた下唇を今度は舌で舐めた。そのまま下唇だけを甘噛みする。 犬歯が‥長い。 犬夜叉と違って大口を開けたりしない殺生丸からは、尖った牙が見えることはあまりない。それが触れてやはり妖怪であると再認識する。 「この口は犬夜叉の名を呼ぶ」 「あなたの口もそのお連れの名を呼ぶでしょう」 互いに平行線な想いを抱えたまま、それでも一度繋がった身体は惹き合ってしまうのか。 「妬いて‥いるのか」 「ばっ馬鹿な」 馬鹿なことをいう、弥勒は本気でそう思った。しかしどうして自分は殺生丸が連れている少女のことが気に掛かってしまうのだろうか。自分には犬夜叉がいる。珊瑚もいる。なのに何故。指摘されて行き着いたところは言われた通りのことであった。 妬いている‥。そうだ。この美しい妖怪の気に掛かりたいと思ってる自分がいることに愕然とする。 「馬鹿な‥というわりには誘っているな」 混乱していた頭は一気に現実に引き戻された。先ほどの一連の動作で勃ち上がってしまった所を掴まれたのだ。 「あっ‥、ちっ違い‥ま‥す」 否定しつつも逃げないその身体は、触られて扱かれた先から透明な液体を滲ませた。 「どうだ、半妖とどちらが良かった。言ってみろ」 ゆるゆると扱かれて座っていられなくなった。弥勒は両手を付いて上半身を支え、激しく上下する胸を晒す。 「そっ‥そん‥な、こと。答え‥られ‥ま‥せんっ」 殺生丸はまだ犬夜叉に敵愾心を抱いているのだろうか。妖怪になりきってしまうのを阻止したのは殺生丸自身なのに。自分への興味は犬夜叉への対抗心だけなのだろうか。 「言えるようにしてやろうか」 殺生丸はあと少しで頂に登ることができそうなモノから手を離すと、胸の小さな突起を摘んだ。 「ああっ‥」 下への名残惜しさと胸への刺激とで複雑な感覚が身体で渦を巻く。弥勒は知らずのうちに自分で脚を摺り合わせ艶めかしく身体を動かしてしまう。 「あっ」 強く突起が潰された時に殺生丸の目の前に喉を晒け出してしまった。 そこを狙ったように啄まれた。 きつく‥。 あまく‥。 それでいて切なく‥。 また花びらを散らされてしまった。 しかしそれは前回と違って弥勒の気持ちに嬉しさが混じる。 これは殺生丸の刻印。犬夜叉への見せしめでもいい。いま、この瞬間は殺生丸が見ているのは自分なのだ。犬夜叉でもあの少女でもなく、自分に所有者の印を刻んだのだ。 犬夜叉のものでありながら殺生丸のものでもありたい。そう願ってしまう淫らさが自らをたかめる。 いまは夢の時なのだ。夢の中では何をしても、言っても許されるだろう。 「あな‥た、の方が‥」 殺生丸は不敵に微笑むと弥勒を追い込んだ。 そしてその滾ったモノを弥勒の後ろに塗り込め自分の雄を突き刺した。 「あああっ、いい‥です」 殺生丸は表情一つ変えずに弥勒を突き上げる。永遠ではないかと思うほど突かれると弥勒だけがまた頂上をみる。それに連動して後ろがギュッと締まると殺生丸もようやく達した。 「法師‥やはりおぬしは楽しめるな」 殺生丸はそう言い残し前回と同じようにあっさりと立ち去った。 「夢の時間は終わったのですね」 弥勒は火照る身体で未練たっぷりにそう呟く。 「弥勒ーっ」 そして犬夜叉の弥勒を呼ぶ声で我に返ったのだった。 「さて、どうしましょうか」 終わり |