知らぬは本人ばかりなり

イラスト:粉雪さま
文:龍詠

1.狼帝くん視点
 とっ冬哉‥‥
 冬哉が可愛らしいのはいつも通りなのに、それでも俺は正視出来ずにいた。
 やはりとてつもなく恥ずかしい‥。冬哉がよく「恥ずかしいから止めて」と言っているが、何故止めて欲しいのか、今その気持ちが分かった気がする。俺はあまりそう言う気分を経験したことが無かったのだ。
 俺が話しかけようと一歩を踏み出したとき、先に虎王が冬哉に声をかけた。
「冬哉、その手袋どうしたんだ?」
「えっ、これ? 狼帝にもらったんだけど」
 虎王は俺の方を向いて訳知り顔でニヤリとした。その瞬間、全てを悟られてることに気が付いて一気に身体が燃え上がった。
「なあ、その手袋。よく見てみろ。薬指の所に‥」
 そこまで冬哉の耳に届いたかどうかで俺は虎王に殴りかかっていた。恥ずかしさに耐えきれなかったのだ。
 しかし予測していたのか、あっさりとそれは避けられた。虎王は前と違ってクスリと笑う。そしてとんでもないことを言う。
「狼帝。やっぱりお前も可愛いな」
 顔から火が出るほどの思いを味わわされる。
 遊ばれてる。
 俺は虎王に完璧に遊ばれてる。
「狼ちゃん、真っ赤になってるよ」
「珍しいね。でもどうしたわけ?」
 龍将も鷹神も首をかしげる。
 普段はそれが嫌だから虎王の策略には引っ掛からないよう注意しているのだが、今はそこまで考える余裕がなかったのだ。

 今日は虎王の車でドライブに来ていた。湖が凍ったというのでそれを見に来たのだ。
 そして昨日。俺は美姫姉から何を考えてるんだ、と言いたくなるブツを渡されていた。
「狼ちゃん、見てみて。最近の傑作。これをあげるから、狼ちゃんから冬哉くんに渡してあげたら?」
 確かに市販品のように綺麗に出来ているが、何故冬哉にやらなくてはならないのか。俺には分からなかった。
「受験だって言うのに、こんなことやっていていいのか?」
「気分転換よ。センター試験が済んだ所だし」
 余裕綽々の態度は虎王を思わせる。しかし都築の人間は皆そうかもしれない。
「で、何故これを冬哉に渡さなきゃならないんだ? 冬哉にやりたいのなら自分で渡せばいいだろう?」
「ええ〜っ、そんなこと言うならこれ、王ちゃんにあげちゃうんだから。いいのかなぁ。王ちゃんならきっとこれ見ただけで全部分かって、狼ちゃんの前でわざわざ渡したりして、それから見せびらかすようにわざわざ自分の手で冬哉くんに嵌めてあげたりすると思うんだけどなぁ」
 意味深なその態度におまけに虎王の名を出されて、俺の神経が尖る。
「だからこれがなんだって言うんだ?」
「ふぅっ、まだ分からないかな。まあ男ってそんなものなのかしら。ほら、ここ見てよ」
 手袋を間に挟んで美姫姉の顔がグッと近づいた。男が冷静でいられなくなる美人‥らしいのだが、虎王に似た面影では俺にはそうは思えない。
 美姫姉は片方の手袋を広げ、別れている指の一本を掴んでその根元を指す。何故だかひとつだけ根元に模様が入っていた。
「ここは何の指が入るでしょうか?」
 質問されてついと答える。
「薬指」
「まだダメなの? じゃあね、結婚するときに指輪を嵌めるのはどこでしょう?」
 みなまで言われてようやくと理解出来た。
「そ‥それを、冬哉に渡すのか?」
「狼ちゃんがそこまで気が付かなかったんだから、冬哉くんじゃ全く気が付かないでしょうけど。でもその方が渡しやすいんじゃない?」
 悪役のように笑う顔はマジで虎王に被さってしまう。そして俺は冬哉がその手袋をしている所を想像して、顔に血が集まってくるのを感じていた。

 それからは夢の断片のようにしか記憶にない。一緒に下校した冬哉に俺の家の前で手袋と、揃いでもらったマフラーとを渡した。不思議がる冬哉を無視して手袋もムリヤリ嵌めてみた。ダメだ。指輪のように入った模様が俺を狂わせる。
冬哉くんに手袋とマフラーを渡す、メチャクチャに焦る狼帝くん。粉雪さんに内緒でアップ(^_^;) おっ怒らないでね‥(汗) このイラスト、大大大大大好きなんです〜v
 冬哉を置き去りにしてそのまま速攻で家に逃げ込んだ。さぞかし冬哉は疑問に思ったことだろう。しかしその言い訳すら出来なかったのだ。


 そして素直な冬哉は今日ちゃんと手袋を嵌めてきていた。

 虎王にかまうのは向こうの思惑にかかるだけなので止めて、冬哉に向かう。冬哉は小首をかしげて俺に質問してきた。
「なに? この手袋に何かあるの?」
「いいんだ。俺が悪かったから、それを返してくれないか」
「どうして? せっかくくれたのに」
 冬哉にしてみれば訳が分からないうちに押し付けられて、また取り返されたら混乱が増すだけだろう。俺のことを変な奴と思ってるだろう。だが耐えられそうになかった。
「いいから、頼むから返して欲しい。それかせめてそれを外してくれ」
 手袋を嵌めた冬哉を見続けるのは拷問にでもあってる気分だった。
 冬哉はとてもいい奴なので俺の必死の形相をすぐに分かってくれた。

「冬哉、今はまだ勘弁してやってくれ。そのうち本物をもらうといい」
 そこへまた虎王が馬鹿なことを言い出した。
「本物? この手袋って偽物なの?」
 ‥‥‥‥‥俺は今すぐ冬哉の目の前から消えて無くなりたかった。


 それから一時間後。疑問で一杯のあどけない顔だった冬哉は、切なげに眉を寄せて大人顔負けの色気で俺を圧倒していた。
 手袋を外して「寒いね」、と呟いた途端「暖めてやろうか?」、とみんなが一斉に迫ったのは言うまでもない。

 そしてその手袋は時折登場しては俺を脅かせている。
 勿論冬哉はまだ何も気付いていない‥。

--終わり--


2.虎王先輩視点
 冬哉。
 冬哉が愛くるしいのはいつもと同じなんだが、何故かその姿を見て狼帝は強張っていた。普段から冬哉のことを見るときは睨んでると勘違いするくらいに必死で見ているのだが。どうも今はそれとは違うようだ。

「わ〜、ほんとに凍ってるね」
 冬哉は両手を合わせて感嘆している。この冬一番の寒さで家からわりと近い湖が凍ったと聞いてドライブがてら見に来ていたのだ。
 狼帝の視線を観察していると冬哉の手袋が目に付いた。スッと伸ばした指から手袋の全貌が明らかになり、少し変わったところがあるのが分かる。
 これか‥。
 昨日美姫から電話がかかってきたのだ。狼帝に、冬哉へプレゼントするものをあげたと。何をやったのかはお楽しみ、と言って教えてくれなかったのだが‥。よくもこんなことを思いついたな。美姫も大概いい根性しているがやはり少女のようだ。男ではこの意味に気が付くのすら無理のような気がする。
 それにしても狼帝はよく渡したな。薬指に指輪のような模様が入った手袋を。永遠の愛を誓っているのだろうか。いや、こいつならそれほど思い詰めていても不思議ではない。ただ冬哉自身にその気持ちを明かす事はないと言っていたのだが。一体どんな顔をして冬哉に渡したのだろうか。
 その顔を見たいと考えていたら、何の苦労もなく見れた。ぎこちなく動くと冬哉に向かう。ふ〜ん、渡したのを失敗だったと思うくらいに恥ずかしいのだな。それが分かったら悪戯心がむくむくと育ってきた。

 狼帝が話しかけるより先に俺が冬哉に声をかけた。
「冬哉、その手袋どうしたんだ?」
「えっ、これ? 狼帝にもらったんだけど」
 やはり冬哉には何も言ってないのだ。そして冬哉はこの手袋の持つ意味に全く気が付いてなかった。狼帝が焦る。思わず俺は狼帝に向かって意地の悪い笑みをこぼしていた。

「なあ、その手袋。よく見てみろ。薬指の所に‥」
 冬哉には分からないようわざとゆっくりと言った。それに誘われるように狼帝が殴りかかってきた。と言っても高校に入ってからボクシングを習ってるこいつにしては遅い。俺を黙らせることが出来ればいいと言うことなのだろう。予定通り狼帝のパンチを避ける。
 俺の弟はいつからか可愛げがなくなっていた。昔はもっと甘えん坊で我が侭も言って可愛かったのに。弟の言うことは何でも聞いてやりたいと思うほど。年齢と共になくなってくるのは分かるのだが、何もこんなに無愛想にならなくてもいいだろう、と愚痴の一つも言いたくなる。しかしその仮面を剥がせばまだ子供だった。
「狼帝。やっぱりお前も可愛いな」
 素直に感想を聞かせてやったら真っ赤になってその場に立ちつくした。
「狼ちゃん、真っ赤になってるよ」
「珍しいね。でもどうしたわけ?」
 龍将も鷹神も首をかしげる。こいつらも分かってないな。二人には狼帝が一人で足掻いているようにみえたのだろう。その狼狽する姿が余りにも可愛くてほくそ笑んだ。

 それから狼帝は俺のことをわざと無視してして冬哉に話しかける。冬哉は小首をかしげて狼帝に質問する。
「なに? この手袋に何かあるの?」
「いいんだ。俺が悪かったから、それを返してくれないか」
「どうして? せっかくくれたのに」
「いいから、頼むから返して欲しい。それかせめてそれを外してくれ」
 必死で頼み込む狼帝と、本当にわざとじゃないのかと疑いたくなるくらいにおとぼけな冬哉と。いつもは狼帝の方が優位に立ってる風なのに、こうして本音が出れば冬哉の方が圧倒的に強い。
 でも俺はもっと狼帝をいじめてその滅多に見れない年相応な可愛い姿を見ていたかった。

「冬哉、今はまだ勘弁してやってくれ。そのうち本物をもらうといい」
「本物? この手袋って偽物なの?」

 くっくっく、冬哉。お前って大物だよ。
 赤くなったり青くなったりしてる狼帝と、残酷なほど無邪気な冬哉を見て、俺は久しぶりに腹の皮がよじれるほど笑った。


 それから一時間後。車の後部座席を全部折り畳んで出来たスペースに、冬哉は下半身をさらけ出して鷹神と龍将に嬲られていた。後ろの窓からそれを覗く。さすがに5人は入れない。
 冬哉が手袋を外して「寒いね」、と呟いた途端「暖めてやろうか?」、と狼帝を除くみんなが一斉に迫ったのだ。ズボンからシャツを引きずり出して、それぞれに手を突っ込んだ。冬哉は冷たいと騒ぐ。こすっていれば暖かくなると屁理屈を言う。冬哉が我慢出来なくなるまで追い上げて、車に乗せた。それに参加していなかった狼帝と、せっぱ詰まっていない俺が2番手として残ったのだ。

「いい加減言ってしまえばいいだろう」
「俺はそんなつもりはない。冬哉を困らせることはしたくないんだ」

 そうだな。冬哉は天然と言われるくらいに色恋沙汰には疎いが、本来はよく気が付く聡い奴だ。狼帝といつも一緒なので自分のことを頭も悪いと思い込んでるが、そうではない。そもそもバカにはうちの学校の受験資格すらない。中学で10番には入ってないと合格の可能性はほぼないのだ。そしてそんな連中がごろごろ集まってきたここで平均点を保っているのだから頭が悪いわけはないのだ。
 そして冬哉は狼帝のことを心の底から親友だと思っている。まだ‥これだけ身体の関係を持っても冬哉から親友という言葉は抜けない。なのに狼帝の方が冬哉のことを想っていると知れば、ひどく心を痛め、狼帝から離れていくだろう。惚れてる奴のそばで友達することがどれだけ残酷なことかきちんと分かる奴だから。

「まだ‥早いな」
 これが俺ならば戸惑いながらも寄り添ってくるだろうが。狼帝もそれは分かっているのでそれ以上は何も言ってこなかった。
 それから鷹神たちと交代して車に入ると、狼帝は言葉に出来ない分を冬哉にぶつけていた。

 そんな思いを知ってか知らずか、冬哉はいつもよりも妖艶に喘いでいた。

--終わり--


 初めてこのイラストを見せて頂いたときは余りの冬哉くんの可愛らしさに目眩がしました。(笑) こっこんなに冬哉くんって可愛かったの? って。
 でもそれは少年特有の可愛らしさで女の子のとは全く違います。それと頭の形が凄いイイ! 思わずかいぐりかいぐりしたくなる。(笑) そしてメッチャ無理&我が侭を言ってこちらに飾らせて頂きました。 本当にありがとうございます!!

 四人衆とドライブに出かけた冬哉くん。いつもと違って(笑)何事もなく、目的地まで着けてのんびり一息。
 あ〜、あったかいものが飲みたいなあ…
 なんてぼんやり考えている冬哉くんの口元に、じっと視線が集まっていることに本人は気付きません。「寒いね〜」なんて言ったが最後、皆がよってたかって暖めてくれるでしょう…。
 そんなお楽しみまであと何秒か、知らぬは本人ばかりなり…

 と言うシチュでした。そして手袋に秘密があると‥(笑) 粉雪さんのシチュ、アイディア。共に最高! もうそれを考えたらどうしても話が付けたくなりました。 いっいかがでしょうか?(^^;;;  お忙しいところをほんとにありがとうございました! 可愛い冬哉くんで幸せです〜vv

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