「冬哉、今から賭けをしないか?」 虎王先輩はそう言って俺に笑いかけた。 「賭けって?」 「狼帝にチョコを食べさせることが出来るかどうか、だ」 「狼帝、甘い物嫌いだからチョコだって食べないじゃん」 「だから、食べさせたらお前の勝ち。食べなかったら俺の勝ち、と言うことだ」 「でも、そんなら俺だって狼帝は食べない、に賭けたいよ。けど、何を賭けるの?」 「冬哉が勝ったら何でも言うことを聞いてやるぞ。だが俺が勝ったら逆に何でも言うこと聞いて貰おうか」 えっ、先輩の言うことを聞くのは何を言い出すか想像が付かないから、怖そうだけど、けど先輩に好きなこと言えるのは凄く嬉しいかもしれない。 「ドライブ連れて行ってくれる?」 「いいぞ。しかも一日中冬哉の言うことを聞いてやる。だがお前が勝ったらの話しだ。どうだ?」 「うっうん‥それならやる」 先輩の話は何だか旨すぎる気がしたんだけど、ドライブに連れて行ってくれて、我が侭言いたい放題ってのは凄く魅力的だった。先輩は口にして言ったことは絶対だから、どんな我が侭でも聞いてくれると思うから。 「その代わり、狼帝にチョコを食べて、とかお願いするのは違反な。俺も食べるな、とは言わない」 「うん、分かったよ」 大量にある先輩宛のチョコの一つを選ぶ。それはあんまり甘くないビターチョコ。これなら狼帝だって一つくらいは口にするかもしれない。俺はさっきまで結構食べていたので、もうチョコは見たくない。狼帝、早く帰ってこないかな。一体何をしてるんだろう。 1時間前は先輩と狼帝の2人が俺の中に入ってきて‥、俺も3回もイかされて。腰がだるいけど、勉強の最中だったので再開したばかりなのに。先輩はどうして突然こんなことを言い出したんだろう。今日の先輩は姿形も普段と違うけど、中身も少し違ってるんだろうか。けど、普段だって先輩が何を考えているかなんて、全然分からないんだけどね。 すっかり日が暮れるまで待つと、ようやく狼帝が帰ってきた。 「狼帝、お帰り。一体どこへ行っていたの?」 「えっ、いや、そこら辺に散歩へ‥」 なんだか目が狼狽えているような‥。変な狼帝。 「ずっと女の子が周りにいたんだよ。狼帝目当ての女の子だって沢山いたのに。勿体ないよ」 「冬哉、それは俺に彼女がいてもいいってことなのか?」 「だって、いる方が自然でしょう? いない方がおかしいよ」 「俺に特定の相手が出来たらお前はどうする?」 「ちゃんと祝福して応援するよ」 「寂しくはないか?」 「そりゃ少しは寂しいけど、親友として嬉しくもあるよ」 「俺は冬哉に彼女が出来たら、寂しくて耐えられないかもしれない。こうして冬哉を抱くことも出来なくなるし」 「なっ、なんだよ。俺のこと、そんな風に思ってたんだ? 性欲処理の相手なんだ?」 どうしてこんな話しになってしまったのか。2人の間に緊張が漂う。 「ちっ違う。冬哉が抱けなくなるのは俺にとってはもの凄く寂しくなるってことで、スッキリするとかそう言うことじゃないんだ。一分でも一秒でも冬哉を俺の腕の中に繋ぎ止めておきたい」 狼帝はよく分からないことを呟くと、俺をそっと抱き締めた。 「狼帝?」 「ごめん、冬哉。俺は最低の男だ。お前の幸せを祈ってる振りをして、本当はぶち壊してる‥。そんなどうしようもない男だ。けれど冬哉から離れられない」 「狼帝が最低だったら、俺なんてどうしたらいいのさ。狼帝も先輩と一緒くらい格好いいよ。それに離れるってどういうこと? 俺は一生狼帝の友達でいるつもりなんだけど? ずっとずっと親友でいるつもりだから、一生離れないよ」 そこまで言うと、狼帝は俺を抱き締める腕に力を込める。 「冬哉‥。俺はいつまで我慢できるだろうか。お前は一番嬉しいことと、一番残酷なことを同時に言う。けど、そうだな。俺たちは一生親友だな」 「うん、そうだよ。俺たちは一生親友だから」 俺は身体を少し離すと狼帝に笑いかけた。狼帝も微笑み返してくれる。 そこで俺は先輩との賭けを思い出した。狼帝の部屋へ戻るとチョコを渡す。 「なに? 冬哉が俺にくれるのか?」 「え、そんなんじゃないんだ。先輩がもらってきたチョコだけど、ビターだから狼帝も食べられないかなぁって」 狼帝は嬉しそうな顔をしたと思ったら、また不愛想な顔に戻る。 「俺は甘い物ダメだって知ってるだろう」 「でもこれはそんなに甘くないよ」 「なんでそんなにチョコを食べさせたがるんだ」 ええっ、狼帝に睨まれて後退る。やっぱり賭けの対象になんてしたら気分悪いよね。ううっ、先輩に何を言いつけられるかは怖いけど、狼帝に悪いから止めておいた方がよさそう。 そう思ったとき先輩が俺を呼んだ。 天の助け。俺は狼帝に笑って誤魔化すと、先輩の部屋へ行った。 「冬哉、お前ってほんと馬鹿正直だな。自分が買ったと言っておけば狼帝は全部、食べたぞ」 「そっそんな嘘は付けないよ。それにどうして俺が買ってきたら狼帝はチョコを食べるの?」 「そりゃバレンタインにチョコをもらったら嬉しいだろう」 「けっけど、俺って男だし」 「男でも狼帝は喜ぶぞ」 「そっそうなの? それじゃ先輩は俺からチョコもらったら嬉しい?」 「そうくるか。そうだな、俺は腐るほどもらうからどっちでもいい。だが今回みたいに、冬哉自身をくれるなら嬉しいぞ」 あっあんなの、先輩が勝手に俺のことをプレゼントにしたんじゃん。けど、先輩‥嬉しいのか‥。だったらよかったかな。この先輩が喜ぶことって、どんなことなのか、未だに分からないから。 「もう、賭けは降参か」 「うん、なんか賭けの対象にしてるって悪い気がして」 「それなら冬哉は俺の言うこと聞けよ」 「うっうん‥でも怖い‥な」 「ならもう一回だけ頑張ってみたらどうだ」 先輩はそう言うと俺の耳に小さく囁いた。 「狼帝、これならチョコ食べてみる?」 先輩が囁いたのは、俺が口に銜えてそのまま狼帝へ差し出せ、だった。なんか口移しみたいで恥ずかしかったけど、狼帝のこと怒らせちゃったし、とにかく先輩の言う通りにしていたら間違いなさそうで。 「と‥うや」 狼帝はロボットみたいにぎこちなく動くと、俺の肩を掴んでチョコをそっと銜えた。俺の唇に触れないよう注意して。そのままそれを食べる。 「美味しい?」 「冬哉の口から食べれたらもっと美味い‥かも」 狼帝の顔からすっかり怒りが取れて、やっぱり虎王先輩の言う通りにして良かったと思った。だから狼帝が変なことを言ってると気が付かなかったのだ。 なんだか言われるままにもう一度チョコを銜える。それを少し突き出して狼帝に差し出す。 「冬哉、いいのか?」 確認されて頷いた。なんの確認なのか、真剣に考えずに。 狼帝は今度は先だけを銜えるのではなく、俺と唇が合う所まで迫ってきた。そしてそのままキスしてる形になる。 「んんっ?」 しっかりと抱きかかえられていて、顔を背けることも出来ない。2人の口の中でチョコが溶けて広がる。チョコのぬめりと狼帝の舌とが俺の中でヌルヌルと混じり合う。狼帝の舌は俺の舌にチョコを塗り付けるようにして蠢く。 やっ、ダメだって。そんな風に動かれたら、俺は感じちゃう。狼帝、キス上手いんだもん。 すっかりチョコが無くなるまで狼帝のキスは終わらなかった。終わってからも狼帝の顔をまともに見ることが出来ない。だって密着してる狼帝には俺の腰の状態がばれてるから。恥ずかしくてたまらない。 「冬哉、さっきやったばかりだけど、もう一回するか?」 俺の事情を察知したのか、狼帝が誘ってくれる。 「俺のこと淫乱って言わない?」 「馬鹿だな、どうして冬哉のことをそんな風に思うんだ。俺だって同じだから」 狼帝の腰を触ってみたら、本当だった。珍しい、いつも狼帝はそこの操作ができるんじゃないかと思うくらい、やるって決まるまで反応しないのに。 優しく笑った狼帝に安心して再度一戦交えたのだった。 丁度終わった頃、下からご飯だと呼ばれた。はち合わせた虎王先輩がどこへでも連れて行ってやる、と言ってくれた。あれ、先輩はあの方法が100パーセント成功するって分かったのかな。 それからすっごく楽しそうに、狼帝にも変なことを言っていた。 「俺からお前にバレンタインのプレゼントだ」 狼帝は苦虫を噛み潰したような顔をしていたよ。変なの。 それから1ヶ月の間。大学の合格発表もあって、先輩もドライブに連れて行ってくれて、普段先輩がしなさそうなゲームや遊びを散々して。合格祝いも盛大に開いてくれて、とても幸せだった。 3月14日はホワイトデーだってのは知ってたけれど、俺には残念ながら一切関係ない日で。うん、自分の母親と、狼帝たちのお母さんにはクッキーを買って渡したんだけどね。近い歳の子にはあげたことがなくて。 バレンタインに続いて寂しい日だったんだけど、狼帝がちょっとおかしかった。 俺からチョコをもらったから、と言って同じ方法で返そうとするんだ。 「ちょっちょっと待って。口移しでなんていらないから」 焦る俺のことなんてお構いなしで、狼帝は迫ってくる。 「俺からのお返しが受け取れないのか?」 なんて凄むから、仕方ないから口をくっつけないよう、そっと取ろうとしたんだけど、一番近づいたときに狼帝はグッと抱き締めた。その拍子に唇はくっつく。 ああん、ダメって。狼帝、絶対キス上手い‥。 結局俺はこの日も何回もイかされるハメになったのだった。 終わり
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