「あれっ」 「わ〜〜っ!! 徹さんっ」 俺は滑って転びそうになってる徹さんをなんとか抱きとめようとした。でもその思いは上手く機能せず、徹さんにつられてこっちまで足を滑らせてしまった。 それでも必死で瞬間に体を引き寄せて降りそそぐ玉の雨から徹さんを守る。背中にはジャラと言う玉の落ちる音と、ガコンと言う箱が激突する音と聞こえついでに痛みも走る。 でも腕の中で居た人を見ればどこもなんにも当たってないようで安心した。 「徹さん、大丈夫ですか?」 「だから、お前ね、ここをどこだか分かってるわけ?」 床の上で抱き合って横たわる形になってる俺たちを周りのお客さんから店員までがジッと見つめる。 「とっとと離れろって」 とっ徹さん‥。そんなつれないことを言わなくても。 俺はグズグズと徹さんから離れ、ついでに手を引っ張って起こしてあげようと思った。しかし徹さんはそれを無視して自分で起きあがる。 「ほら、早く玉集めろって」 徹さんは玉のことしか頭にないようだ。 ううっ、やっぱ俺ってパチンコに負けてるんですね。 仕方なく磁石を持ってきて玉拾いをする。集め終わるとやっぱりちょっと増えている。でも今回は徹さんの機嫌が直らない。徹さんはカウンターの方を見つめ、それから自分の台に戻った。 何故かその姿が寂しそうだったので、見回る振りをしながらそばまで行ってそっと聞いてみた。 「どうしたんですか?」 「別に、なんでもない」 やっぱり機嫌が悪いままだ。俺はそんなに悪いことをしてしまったのだろうか。 「でもどうして交換しようなんて」 「さっきタイムサービスやってたんだよ。放送聞いてなかったのか?」 そう言えば今日は日曜日なので、家から逃げてきてるお父さんたちの帰るときの御機嫌とり用に、お土産になる何かを格安で交換していたっけ。 「それが欲しかったんですか?」 「そう、転けてるうちに無くなっちゃったんだよ」 スーパーのバーゲンみたいなもので普通なら2000発交換の景品を1000発で、限定10名様限りで提供していた。早いモン勝ちって奴でそりゃ転けてたら無くなりますよね。それであんなに急いでいたのか。 これ以上待っても話してくれなさそうだし、俺は仕事があるのでその場を離れた。それからフロントの女の子と裏で会ったので景品が何だったかを聞いた。買ってこれる物なら休憩のうちに買ってこようと思ったのだ。だって徹さんはとてもガッカリしてるように見えたから。 「今日はね、けっこう豪華だったのよ〜。なんたって夕張メロン2個詰め合わせ。普通、店で買ったら1万円はする高級品」 メッ、メロン‥。 俺は走り出したいような泣き出したいようなそんな気分だった。 目立たないよう力を押さえて徹さんの所まで行った。そしてムリヤリ店の外に連れ出してもう一度従業員用の入り口から入る。休憩室を兼ねたロッカーまで引っ張り込んで徹さんを抱き締めた。 「ちょっと、トシ。何考えてんだよ」 「タイムサービスの景品、聞きました」 「だっだから?」 徹さんは少し焦って、でもすぐに諦める。 「そうだよ、俺はメロンが欲しかったの」 徹さん。頬をすり合わせそのまま唇を寄せる。俺はその幸せにまた泣きたくなる。 「ありがとうございます」 「なんだよ、別に俺が欲しかっただけなんだから」 見つかってしまったサンタクロースのように徹さんは視線の行き場を無くす。 メロンは俺の好物なのだ。徹さんはどんなに甘いメロンでも、瓜を食うとかぶと虫かなんかになった気がすると言って余り食べたがらないのだ。入院中は俺が好きなのを知るとよく買ってきてくれたのだった。まぁ食べれたのは後半であったけど。 「俺、その気持ちだけでお腹一杯です」 「バカだな、トシは。そんなもんで腹がふくれるわけないだろう。分かった。今日は意地でも大量出玉を確保してお前にたらふくメロンを食わせてやるからな」 「はい、ありがとうございます。俺期待して待ってますから」 そう言うと徹さんはまかせとけ、と胸を叩いて出て行った。 ここでこれ以上いいです、と言い続けると徹さんは子供みたいに意地になって、勝ってなくても全財産を注ぎ込んでメロンを買って来てしまうだろう。だから気持ちを受け取るためにそう言ったのだ。 俺の天使はちょこっと意地っ張りで、でも泣けるほど可愛くて。 俺は徹さんと一緒に居れるならメロンが一生食べれなくっても全然平気です。それを徹さんは分かってくれてるのかなぁ。 そして出玉を全部突っ込んでしまった徹さんの代わりに、俺は自分でメロンを買って、徹さんの前で食べたのだった。 メロンの美味さよりも、それをニコニコと見てる徹さんの顔の方が俺にはとても嬉しかった。 終わり
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おかげさまでうちのサイトも30万打に到達しました。これもひとえにこちらに通って下さった皆さまのおかげです。本当にどうもありがとう〜。 30万にかこつけて日向さんに頂いたこのイラを見てふと思いついた話しを書いてしまいました。なんか絶対意識せずにイチャイチャしてそうだなって思って。本人たちはごく真面目に生活してる一場面のようでも、端から見ていると恥ずかしくなるくらいにイチャイチャしてるようにしか見えないと言う。(爆) イラストのように躍動感があり楽しそうな雰囲気が私の腕で書き表すことが出来たのか甚だ不安ではあります。でもこれを皆さまと日向様に捧げさせていただきます。 カウンターを回して下さった皆さま、このイラストを下さった日向様。本当にありがとうございました。これからも地道に頑張っていきますので、どうかよろしくお願いします。 |