「・・・っく」
腰掛けた寝台がぎしりと唸る。
趙雲は包帯を腕と足に巻きつけながら、身に走る痛みに堪えた。
幾度と無く重ねても、じんわりと包帯に浮かび上がってくる血を忌々しげに見つめる。
受けた矢数が多いことと毒を含んでいたこともあって、存外に傷が塞がり難いらしい。
咄嗟のことで薙ぎ払う事も出来ずに矢を受けてしまったことへの悔しさ、動かすだけで走る痛みへの歯痒さが、頭の中を占めていた。
今回の自らの失態で、兵卒を乱してしまったのではないかと、不安に思いながら・・・。


コンコン、と部屋の扉が叩かれた。
趙雲は伏せていた顔を上げて、誰かと尋ねる。
それが誰と分かっていても・・・。
「子龍・・・。」
搾り出されたような声音が扉越しに聞こえた。
「・・・孟起・・・。
 開いていますよ。」
自ら立ち上がって迎えようにも、毒がまだ体から抜けきれてないようで体が痺れたままなのだ。
申し訳なく思うも、らしくない彼の声音が気になる。
そしてそれを受けて扉が開かれた。
入ってきたのは兜と鎧を剥いだ馬超だった。
その面持ちはいつもの快活な彼からは想像しがたい程硬いもので。
趙雲は馬超を訝しげに見やった。
そして目を剥く。

「如何したんですか・・・その傷は・・・!」

馬超の脇腹には朱の一線が走った包帯が巻かれていた。
出血が止まらないのか、じわじわと赤みを帯びていく。
痛ましいその姿に、腰掛けていた寝台から思わず立ち上がろうとする。
「・・・・・・うっ」
その拍子に、足に鈍い痛みが走り抜ける。
毒に腫れた箇所が微妙に包帯に擦り、くらりと眩暈が起こる。
よろめくと、また寝台へと腰を降ろす他なかった。
「・・・情けない。
 ・・・こんな、毒で・・・。」
はぁ、と浅く息を紡ぎながら、趙雲は苦し気に漏らした。
暫くの間呼吸を整えてから、面を上げて
「とりあえず、孟起は一度包帯を巻き直した方が・・・・・っ!?」
告げようとするも、つかつかと歩み寄って来た馬超に、急に手首を掴まれる。
そのまま寝台へと肩から強く押し倒された。
「・・・痛っ・・・!」
寝台に深く沈むと、再び痛みが走る。
「孟起・・・っ、一体何を・・・!」
馬超の行動の意図を測りかねて、趙雲は声を荒げた。
きつく握られた手首も痛む。
「何を・・・?
 そんな事、言わなくても決まっているだろう。」
何も帯びていないかのような声音で言うと、馬超は白くなるほど趙雲の手首を握りしめて、頭上に束ね上げた。


戦の後、馬超は決まって趙雲を抱いた。
勝利した時でも、敗北した時でも。
それはまるでお互いの存在を確かめ合うかのように・・・。
その行為は趙雲も自ら受け入れていた。
だが、今回はお互いが負傷していることもある。
なのに・・・


「も、うき・・・っ、やめ・・・貴方の傷が」
「五月蝿い」
今までに無い彼の様子に、不安を覚えて趙雲は必死に抗った。
だが力の篭らない腕で抵抗したところで、簡単に押さえ込まれてしまう。
そのまま口付けられる。
「・・・んっ」
軽く口付けた後、更に深く重なり合わされた。
「ん
っ、・・・っふ・・・・ぁ」
逃げようとする舌を巧みに絡めとられ、呼吸ごと奪うかのように深く口付けられる。
酸素が巡らず、熱いそれに次第に意識が遠のき始めた。
抵抗していた腕の力も徐々に弱まっていく。
それを馬超は満足げに見やると片手だけで腕の拘束を成して、空いた片方で趙雲の衣服を剥ぎ始めた。
趙雲は危険を感じ、必死に意識を取り戻すと拘束された腕へと力を込める。
しつこい、とばかりに馬超は腕の拘束を強め、口付けを更に深く激しいものにした。
執拗なまでに舌を絡みとり、吸い上げ、甘く噛みしだく。
ぞくりとしたものが背を走り抜け、趙雲は再び力が萎えていくのを感じた。
「・・・ん、ぅ・・・っ」
嚥下しきれなかった唾液が顎を伝って流れ落ちる。
馬超は落ちるそれを舌で舐め上げては、また唇を重ねた。
止まない口付けの息苦しさともどかしさに、趙雲は眦に溜めた涙を一筋流した。




「ぅあ・・・あっ、・・・も、もうやめ・・・!」
「こんなにしておいて、やめて良いのか?」
耳元で囁かれて、張り詰めたものをグッと握りしめられる。
趙雲は思わず悲鳴を上げた。
先端からは蜜が止め処なく流れて馬超の手を濡らしていく。
そしてそれを塗りつけるように、手のひらで擦り上げた。
「あっ、あぁ・・・」
途端に嬌声が口から漏れる。
手の動きが上下する度に快楽が訪れる。
流されまいと必死に唇を噛んで堪えて声を押さえ込んだ。
「止めるな。」
「ひぁ・・・っ!」
ゆるゆるとその動きを繰り返した後、不意に強く擦り上げられた。
急に強い快楽が駆け抜け、喉がくぅと鳴る。
「それで良い。」
そう言う彼はどこか苦しそうだった。


どうして・・・


趙雲は涙でぼやけた視界に映った馬超を見つめた。
「孟、起・・・っ、何故こんな・・・」
必死に声を絞る。
「・・・・・」
不意に馬超は手の動きを止めた。
「・・・おまえが・・・」
「・・・?」
そのまま押し黙ってしまう。
「・・・孟、起?」
「おまえが・・・っ」
吐き出すように叫ぶ。
「おまえがっ、他の奴をかばって怪我をするからだ・・・!!」


自分の護衛兵が、背後から狙われているのを見て、

身を挺してかばって、

弓で射られて、

それにうずくまる姿を目の前にして、


・・・心臓が、痛いほど高鳴った。


全ての意識がそれに奪われた。
背後の敵に気づけない程、
余裕なんてなかった。
今回は毒矢であったから、傷も浅く、解毒するだけ良かった。
だが、もしそれが刃によるものであったら?


もし、その身を貫かれでもしたら・・・




「お前を、失いたくないんだ・・・」




顔にポタリと水滴が落ちてきた。
「孟起・・・。」
また水滴が落ちる。
趙雲は手を伸ばして馬超の目元を拭った。
そしてそのままゆっくりと首に腕を回す。

「大丈夫です・・・私は、此処にいますよ。」

宥める様に。
荒くなった息を殺して、優しい声音で。

暫くして、馬超は安心したようにホッと息を吐いた。
そして趙雲の体に腕を回して、きつく抱きしめる。


「・・・もう、誰も庇おうとするな。」
「はい。」
「自分のことだけ考えろ。」
「はい。」
「俺のことも他の奴のことも、何も考えるな・・・」
「・・・はい。」


頷きながら、きっと自分には無理だろうと思った。
貴方を庇わずには、きっといられないから・・・。

今は、貴方を安心させるために。

不安を取り除けるように・・・。




心に強さを取り戻せるように――――











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初裏作品・・・なんだか中途半端過ぎてぬる過ぎですよね(汗)
しかも未遂だし!!由々しき事ですよね・・・。(良いって)
こんな終り方ですみません。根性なしです(泣)
しかもちょっと(や、かなり)趙雲乙女思考入りまくっててu
初裏作品がこんなんで本当すみません・・・。
こ、今度リベンジを・・・!!(出来るのか?)



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