嘘
「愛してるよ」
あの人はいつもそう言う。
ご飯を食べてても、横になってごろごろしていても、テレビを見てるときも、ベッドの中でも。
「愛してるよ」
あの人はいつもそれを言う。
何も言わないで外泊したときも、「会社の接待」とやらで外泊したときも。
「愛してるよ」
あの人はいつでも言う。
真っ白なシャツに口紅をつけてても、知らない誰かのコロンの匂いをつけていても。
「愛してるよ」
その言葉を免罪符にあの人は僕の想いをいつでも踏みにじる。
「愛してるよ」
「愛してるよ」
「愛してるよ」
その言葉を信じるしか、僕には自分を支える術はない。
隣に眠るハズのぬくもりがない夜でも。
約束した場所で知らない誰かと腕を組んでいるのをみつけても。
僕が眠るハズのベッドで知らない誰かと抱き合っていても。
あの人の言葉を疑いそうになる時でも。
その言葉を思い出すだけで、僕は手をはなしてしまう。
左の手首にあてた剃刀から。
手をゆっくりはなしてしまう。
「愛してるよ」
あの人が僕を生かすためだけに、優しい嘘を吐くのなら。
僕も生きるために悲しい嘘を吐く。
「貴方なんか嫌いです。」