完璧な男の作り方




「あっちゃんみたいに完璧な人を好きにならない人なんていないよ。」
「樹・・・・・。樹だって・・・・・樹みたいに優しくて、かわいいやつ好きにならないやつなんていないぞ」
「あっちゃん・・・・・・。」
「樹・・・・・・・・・」

しばらくみつめ合った後、敦彦は安心したように眠りについた樹を自分のベッドに運び、その横に潜り込んだ。
樹と仲直り出来ただけでなく、念願の恋人にまでなれたのだ。
敦彦の顔が緩むのも仕方のない話。
誰も見ていないのをいいことに、思う存分顔を緩ませて、横で眠っている樹の顔を覗き込む。
久々に見る樹の寝顔は昔と変わらず、天使のようにかわいい。
いや、いつも思い出しては、頬を緩ませていた記憶の中の樹の寝顔より、綺麗になった。








樹との仲がぎくしゃくし始めたのは、敦彦が樹を意識し始めたせいだった。
小学五年になったくらいから、周りのやつらが好きな子の話をしはじめた。
クラスにはかわいいと思う女の子もいた。
だから敦彦も「好きな子は?」ときかれた時、周りに合わせて一番可愛いと思った女の子の名前を言っていた。
だが樹は誰に聞かれても「いないよ」としか言わなかった。
敦彦が聞いても同じ答えだった。恥ずかしいなら、と先に自分が言っても樹の答えは変わらなかった。
では本当にいないのだろうと分かった時、敦彦は内心(なんだ。そう答えていいんなら、俺も無理に作らなくても、樹みたいに「いない」って言えばよかった)などと考えていた。
樹にそんな話をした理由は今でも覚えている。
同じクラスの男と樹が仲良くなりたそうな素振りを見せたからだ。

(樹の一番の友達は俺なのに。)
しかもそいつは、その頃から体が大きめだった敦彦よりも大きかった。
樹はいつも敦彦の大きな体を羨ましがっていて。
樹の憧憬の対象がそいつに移ってしまうことがとても怖かった。
だから樹の秘密を共有したくて、かなりしつこく樹の好きな子を聞いた気がする。
「いないよ」と言った樹に安堵を覚えたことにはあの頃は気付いていなかった。
あの頃はまだ樹が一番の友達であることに満足していた。

だが忘れもしない中学1年の冬。
なんとなく樹に隠し事をされているような気がして、もしかして好きな相手でもいるのかと問い詰めた樹の口から出てきたのは、それなりに人気がある同じ学年の男、だった。
なんで男なんだ?とか、気持ち悪いとか。
そういうことを思う前に、『男が男を好きになってもいい』のだと、そういうこともあるのだと、目から鱗が落ちる思いだった。
そして次に瞬間には、樹が好きだと言う男がなぜ自分ではないのかと、悔しがっていることに気がついた。
『男』が好きなら、それは『自分』でもいいのではないのか?

樹が好きだと言ったそいつはバスケがうまかった。だからそれなりに人気もあった。
樹はそういう男が好きなのだ。それなら、と敦彦もバスケ部に入った。
もともと運動神経はいい方で、それプラス、樹に『あっちゃんのほうが凄い』と思わせるために努力を惜しまなかった。
結局そのバスケ部の男にはもう彼女がいて、樹の恋は失恋に終わった。
その時失恋に泣いている樹をなぐさめながら内心ホッとしていた。
だが、そんな自分に気付いてしまった敦彦は樹が無邪気に頼ってくるのが少し心苦しくなった。
それでも樹の傍を離れることは出来なかったが。

そして、そうしているうちに樹にまた好きな男が出来た。
そいつはスポーツではそうでもなかったが、とても頭がよかった。
樹は実はそういう男も好きなのだ。それなら、と敦彦は猛勉強し、学年トップの座をそいつから奪った。
(俺はバスケもうまいし、頭だってよくなった。これで樹も俺のことを・・・)
そう思ったのに、そうはならなかった。
その頃にはもう無邪気に「今日泊まっていい?」ときいてくる樹に対して頷けなくなっていて、そのせいで樹との仲がすでにおかしくなっていた。
それでも敦彦はバスケも勉強も頑張り続けた。

そして樹の志望高校を調べ、同じところを受け、どうにか同じ学校で高校生活を送れることになった。
だが、もう樹との仲は修復不可能かと思わせるほど悪くなっていて、敦彦にもうどうすればいいのか分からなかった。
できるのは樹のクラスの時間割を調べ、移動教室の時などに通る廊下で待ち伏せて、ただ見ることだけだった。

いろんな所で樹を観察し、親や友人を通じて樹の情報を集め、その時々の樹の好きな相手を見つけ出していた。
高校に入ってすぐに樹はテニス部の先輩を好きになった・・・と思う。
毎日のようにテニスコートに通いつめていた。そしてその目線はいつも同じ男の上でとまる。
樹はやはりスポーツの出来る男が好きなのだ。だが、バスケではなくテニスの方が好きだったのだ。
それなら、と敦彦もテニス部に入った。今まで以上の努力をし、インターハイにまで行ってしまった。
それなのに、樹は気付けばテニスコートには来なくなっていた。
次に樹が好きになったのは同じクラスのスポーツも出来ない、頭もそう良くない、だが顔はいい男だった。
オシャレでかっこいいと女子にも人気があった。
こいつは樹は本当に好きだったのかはよく分からないが、よく樹と一緒にいた。
もう、それだけでも敦彦の嫉妬の対象にはなった。
樹はおしゃれで女にもてる男が好きなのかもしれない。それなら、とやはり敦彦は髪を染め、身だしなみにとても気を使うようになった。

それなのに2年にあがって樹の横にいるのは、何の変哲もない男だった。
確かに顔はそこそこ整っているが、敦彦の方が運動も成績も勝っていた。
その樹の横にいる男、邑井のどこを気に入って樹が一緒にいるのか分からなかった。
どう頑張ればそいつより『凄い』と樹に思わせることが出来るのか。







まあ、それは今でもよくわからないが。
だが、そんな事はもうどうでもいいのだ。
(樹はここにいるし)
へらっと笑って、ぎくしゃくと樹を抱きしめてみる。
パジャマが少しはだけて鎖骨がみえる。白い首筋に目が釘付けになり、慌てて視線を逸らすと、柔らかそうなピンクの唇が目に入る。
見てはいけないと思うのに目が離せない。
密着する体が火照ってしまうが、それでもこれから何度でもチャンスはあるのだと思うといくらだって我慢できる。
なんたって恋人だ。

敦彦はそのまま幸福な苦しみに耐えながら、朝まで樹を見つめていた。















が、しかし。
学校へ一緒に登校した朝。


「また友達でいてくれるだけで俺は嬉しいから。」
そう言ってにっこり笑った樹は可愛かった。
可愛かったのだが・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・友達?」



敦彦の努力の日々はまだ終わりそうにない。




□■あとがき■□
敦彦視点でした。てか、こいつストーカー・・・・・(爆)
樹を追いかけてるうちに完璧な男になった敦彦なのです。
この二人の話はまた書きたいです。まだ、ひっついてないんで(笑)
それでは読んでくださってありがとうございました♪
                                 <2003.1.25>

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