初詣 


ちゃりん

手から離れた硬貨が音を立てて賽銭箱の中にキレイに吸い込まれて行った。
ぱんぱんと、手を打った後。
目を閉じて願い事をする。

今年こそはあいつと喋れますように。
今年こそはあいつに素直になれますように。

いつもは5円とかだけど、今年はちょっと奮発して500円玉を投げ入れた。
そうすればご利益が増すような気がして、金ぴかのやつを選んで投げた。

いつまでも目を閉じて願い事をしてる俺に、後ろのおばさんがわざとらしい咳払いをする。
2,3秒粘ってから、目をあけた。

こんなくだらない事までお願いされちゃうんだから、神様も大変だ。
だけど、横にいた、どうみてもダイエットする必要なんてなさそうなお姉さんの「今年こそ痩せますように」の願い事よりは優先して叶えて欲しい。

人ごみから抜け出そうとして、ふと視界の端に『おみくじ』の文字が見えた。

そうだ、おみくじだ。
去年は小吉だった。
今年は・・・大吉じゃなくてもいい。
恋愛運さえ良ければそれで。

長い列の一番後ろに並ぶ。

5分たった頃には列は半分くらいになっていた。
とても混んでいる筈なのに、俺の後ろには誰も並ばない。
相変わらず、俺が一番最後。

そう言えばラーメン屋とかでもそうなんだよね。
凄く混んでるのに、俺の後ろには誰も並ばないの。
で、俺が食べ終わった頃には店はガラガラ。

なんか損した気分。
もしかして今年もあいつとは険悪なままなのかも。
だったら500円返せよ。



「おい、アキじゃねぇ?」
ぶつぶつ言ってると声をかけられた。
振り返ると立っていたのは、さっきまで仲良くなりたいと思っていたそいつが立っていた。

500円の賽銭を返せと思われて神様が心外だと思ったのかな。
こんな幸運そうない。
だって一年の初めの日にこうやって会えたんだ。
しかも、俺のことアキ、だって。
いつから俺のこと呼び捨てするようになったんだよ、とか。
なんだよ、馴れ馴れしいなとか。
思ってもないことを頭の中で考えて。
でも心はやったーって叫んでる。
これって幸先がいいってやつだろ?

なんだよ、お前かよ。って。
言おうとしてやめた。
折角こいつに会わせてくれた神様の『御利益』を無駄にするのはよくないよね。
なんせ500円も奮発したんだし。

だから。
いつもの憎まれ口の変わりに。


あけましておめでとう。


言ってみた。
あいつもその男前さがより増すような笑顔で返してくれた。
たったそれだけで少し近づけたような気がして。
そのあとも一緒に飯食いにいったりした。







『アキは何て願い事したの』
『なんだよ、急に』
『いいだろ。なあ、なんて?』
『・・・タカと喋れますようにって。素直になれますようにって・・・・』
『・・・・・・・・』
『なんだよ・・・!!なんか言えよっ!!』
『・・・・・・・・・・・』
『何笑ってんだよ!!ムカツクなー。タカは?』
『はは、ごめんごめん。え、俺?』
『そう。俺だけなんてズルイ。』
『う〜ん、内緒。』
『なんだよ、それ!!』
『アキ知ってた?願い事って口に出すと叶わなくなるんだよ』
『え・・・・?』
『でもアキの願い事はもう叶ったからいいだろ』
『・・・・・・・・でもズルイ・・・』
『まあまあ。ほら、このケーキも食えよ。奢ってやるから』
『マジで!?やったー』








アキが俺の方を見てくれますように。
友達になれますように。

出来れば友達以上にもなれますように。


3時間前。
万札を賽銭箱にねじ込み、にやりと笑った男の願いが叶えられたかどうかは、

神のみぞ知る。






☆あとがき☆
仲良くなる前の二人の話・・・。
こいつら中学生の時からの知り合いです。でも仲良くなったのは中学3年の冬から。
完璧な男がどうにも間に合わなかったので、こっちをアップ・・・。
やっぱ季節を楽しまないとね☆(苦しい言い訳です・・・。)
                                              <2003.1.1>


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