彼らはいつだって、二人だった。
 まるで一つであるかのように、二人だった。



世界



 いつもの日の当たる生徒会室。溜まりに溜まった仕事からは目を逸らし、ミレイの淹れた紅茶を嗜む、午後の一時。外からは体育会系のクラブの掛け声が響き渡る、平和を絵に変えたような光景。
 ミレイがシャーリーをからかって、リヴァルが便乗して騒ぎ立てる横でカレンが我関せずとアーサーを撫で、 羨ましがって寄ったスザクが噛み付かれてルルーシュがそれに呆れ、ニーナは相変わらずパソコンに向かい、ナナリーがその騒がしさに微笑む、相変わらずの情景だ。
 ぴょこんとアーサーが跳ね、ナナリーの膝の上に乗り、

「きゃっ?」
「危ないっ」

 かしゃんと、床に落ちたカップの音。
 弾けたカップから、ルルーシュが彼女を守る。幸い既に飲みつくしていたため、熱い思いをすることはなかった。
 大丈夫か、と次々とかけられる声に、ナナリーが優しげな微笑で返す。
 お兄様が守ってくださいましたから。だから、お兄様。
 やんわりと頬を包み込む手に、やっと安心したのか、ルルーシュも眉尻を下げて微笑んだ。付き合いの長いスザクにさえ、ほとんど見せることのない優しげなそれに、カレンが少しだけ瞠目する。 何度か見てはいるものの、態度が違いすぎだ。他の生徒会メンバーは慣れたもので、苦笑してそれを見守る。

「ほんとーに、ルルーシュはシスコンだな!」
「なんだ、いきなり」
「別にー? でももしナナリーに恋人とか出来たら、そいつの人間性とか生活環境とか評判、全部調べ上げそうだよな」
「何を言ってるんだ」
「あ、流石にルルーシュでも」
「当たり前だ。するに決まってるだろう」

 当然の如く断言され、リヴァルは大げさに肩をすくめるが、そこに辟易や侮蔑といった悪感情はない。
 ナナリーは見ての通り、盲目で歩行も出来ない。しかも可愛い。守られるべきか弱い少女を体現したかのような彼女を見て尚、ルルーシュを過保護だと詰ることは誰にも出来ないだろう。
 ただ面白いのは、ルルーシュの余りに分かりやすい変貌振りで。

「ナナリーが結婚する時は、男泣きするんだろ? 絶対!」
「違う違う! ルルちゃんのことだから、ナナちゃんの前では祝福しつつ、トイレで一人泣くわね」
「……リヴァル、会長、いい加減に」
「それで新郎を殴るのかな? 不幸にしたら許さないぞーって!」
「ふふ。想像できちゃうね」
「おい、シャーリーとニーナまで……」
「スザクのところにいたときも、こんなだったの?」

 ルルーシュをこんな呼ばわりして、カレンが楽しげに笑っていたスザクに話題を振る。確か、かなり前のことだが、兄妹二人は枢木家に避暑に行った事があると聞いた。
 突然話題を振られたスザクは少しびっくりして(カレンには何故か避けられている節がある)、そうだね、と前置きして言った。
 遊ばれて不機嫌なルルーシュの、余計なことは言うなよ、という目は見なかったことにしておく。皆、楽しそうだし。ちょっとだけミレイまで心配そうにスザクを窺っていた。
 大丈夫、勿論致命的なことは言わない。空気を読めないとか天然だとか散々な評判を受ける彼でも、その程度は分かっている。例えば本当は避暑なんかじゃなかったのだとか、そういう事は。

「僕なんて立ち入る隙がないや、ってくらいかな。ナナリーに触らせてさえくれなかったよ」
「うわー。今より凄かったってこと?」
「うん。そう、凄かった、な」

 というより、寧ろ酷かった。
 周囲は全て敵で、ひ弱な癖に目だけはぎらぎらさせて、ナナリーに近寄る何者からも守ろうと必死だった、ルルーシュ。
 物腰は柔らかだけれど、僅かな事に怯え、ルルーシュから離れようとしなかったナナリー。
 世界は二人だけで完結していて、綺麗ではあったけれど、すぐに崩れ去ってしまいそうな儚さを孕んでいた。
 そこにスザクが割り込めたのは、僥倖というべきか無粋であったというべきか。まあ、結果オーライではあろうが。

「ナナリー以外はどうでもいい、って感じで。ナナリーもルルーシュが全て、って感じで」
「……そこまでだったか?」
「私は今でも、お兄様と一緒にいられればそれだけでいいです」

 黙って微笑んでいたナナリーの突然の発言に、メンバーは少し驚いた。穏やかだけれど、芯の通った声は、それが歴然とした彼女の意思であることを伝えている。
 ルルーシュの際立ったシスコンで目立たないが、ナナリーも十二分にブラコンだ。需要と供給の関係性がすばらしく一致している。

「ありがとう、ナナリー。絶対にお前を守ってみせるよ」

 兄妹とは思えないほどピンク色の空気に、苦笑する。見せ付けられている気分だ。彼らにしてみれば日常的な言動なのだろうけれど。
 まあ、口を開かなければ女性のように美しいルルーシュのレアな笑顔と、たおやかな花のようなナナリーだ。並んでいるだけで鑑賞に値する光景に、傍観に徹することに決めた。
 新しい紅茶を入れるべくミレイは席を立ち、手伝うよとリヴァルが追う。アーサーの粗相をシャーリーとカレンが叱り、スザクが無謀な挑戦をしてニーナはまたパソコンに向かう。
 どうかこの幸せがいつまでも続きますように。
 二人きりの兄妹は、小さく笑いあって、祈った。



(ところで守る、って、何から守るんだろう。クラブハウスで普通に暮らしていたら、特に危険なんてないはずなのに?)







本編でルルナナ二人の幸せが引き裂かれたら(私が)死ぬ。





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