いつもだったら、彼の傍にはいつだって誰かが付き従っている。赤い色の騎士だとか、もっさりした頭の副司令だとか、ケツアゴ記者だとか、緑色の謎の少女だとか。
だから常ならば、彼女のその態度を咎めたかもしれないし、咎めなかったかもしれない。
ただ、現に今彼はそこに、一人でいた。
だから言ってみた。
大人と子供
その瞬間、ラクシャータは趣味の悪すぎる仮面を引っぺがして中の表情を確かめてやりたくなった。
なんとも無防備な、それでいて可愛げのある声音。きっと素だったのだろう。慌てふためいているのか、それとも呆然としているものか。
してやったり、という感じだ。
普段から胸を張って、威厳ある佇まいをしているゼロの、こんな声を聞いた人間などきっと他にはいないだろう。
もしくは、プライベートでは意外とそんな面の多い人間なのかもしれない、が。
それはさておき。
「だぁーからぁー。ちゃんと食べてるぅー? って聞いたのぉ。成長期でしょーぉ?」
「……私、は」
「別に、あんたの素性を探ろう、とかそんなんじゃないわよー? でも、あんまりに貧相なんだもの」
心配に、なっちゃう。それは正しくゼロにとっては余計なお世話であろうけれども、観察していると偶に、不安になるのだ。
別に彼女は日本の開放だとか、ブリタニアへの抵抗だとかそんなものに関心があるわけではない。確かにブリタニアには思うところがあるが(忘れがちだが、彼女はブリタニアの裏切り者だ)、
だからといってゼロの存在を必要不可欠としている人間ではない。
「ああ……ラクシャータは医療従事者だったな」
「昔のことだけどね」
総司令の前だというにも関わらず、ソファにごろんと寝そべってキセルを揺らす。昔のことは、嫌い。でも忘れたわけじゃない。
人の体つきを見れば、そこそこのことは分かってしまう。ピッチリフィットな服を纏っているゼロは、尚更だ。
だから、分かってしまうことの、ちぐはぐさに違和感を覚えることも多い。
イレブン最大のレジスタンスを束ねる、けれどおそらく成人前の少年。
正義を為し悪を討つと謳いながら、その仮面の姿はどうみても悪のよう。
沢山の部下を持ちながら、しかし仲間と呼び頼り合う姿は見られない。
全ての責任をその背に持ちながら、あまりにも細いその姿。
只者ではないと思う。それは黒の騎士団を創り上げたことだとか、その頭の良さとかそういうものではなく。
ゼロを創り上げた、その彼自身の過程に酷く興味を惹かれるのだ。ナイトメアの設計図を求める心情と、そう大差はないが。
「ちゃんと寝てる? ちゃんと食べてる? ちゃんとお風呂入ってる? ちゃんと歯磨きしてる?」
「……ラクシャータ」
「ちゃんと、学校行ってるぅ?」
今度こそ、空気が決定的なまでに凍った。ああ、本当に仮面を引っぺがしてやりたい。楽しくて楽しくて、にやりと、口の端を引き上げる。
なんて分かりやすい、我らがボス。何を考えているのか分からないと、幹部でさえ彼を評するが、それは一線を引いているからだ。ゼロからの線引きが消えることなどないだろうが、
自分の線をかき消してやることは出来る。
そうすればほら、そこには年相応のゼロの姿。
「大丈夫よぉ。他の団員の前じゃ言わないわ」
それくらいの分別はある。彼女は、誰よりも大人だ。同時に、子供で遊ぶ余裕があるほどの大人でもある、が。
長い手をゼロに伸ばし、仮面をぺちぺちと叩いてやる。撫でてやれればいいと思ったが、それこそ本当に仮面をはがさなければならなくなる(きっと、それやったら殺される。冗談ではなく)
一瞬ぴくりと肩を揺らした彼は、不機嫌そうにラクシャータに背を向けた。これ以上付き合ってられるか。そんな感じだ。
それがまた可愛らしくて、彼女は含み笑いをしてゼロに声をかける。
「偶には大人を信頼しなさいよ。あんた、いくら頭良くても、まだ子供なんだから」
「……言われずとも、信用している」
(不器用ねぇ)
ラクシャータエロ過ぎ大好き。
でもなんか寝返りロイドにそのまんま置き換えられる気がしてきた。