ずっと一緒に



 風の吹きつけるサイドカーで、ルルーシュは興奮したリヴァルに苦笑していた。
 いつもの賭けチェス。そして、いつもの結果。到底勝ち目はないだろう盤面から、ルルーシュは見事に勝利して見せた。
 あの悔しそうな貴族の顔といったら! ごく平均的な感性を持つリヴァルであったから、特に上級階級の人間に対しての悪感情などないが(カルデモンド家だってそこそこの家柄を誇っているわけであるし)、それでも威張りくさった表情が歪んでいく様を眺めるのは痛快だった。

「なールルーシュ。学校サボろーぜ」
「ん? 間に合うだろう?」
「そうだけどさ! ほら、稼いだわけだし、使っちゃえよ」
「……どこに連れて行くつもりだ、どこに」

 もしかして、驕らせるつもりじゃあとか疑われているのだろうか。だが、リヴァルだってバイトをしているのだし、賭けチェスの仲介料も取っている。
 同世代よりも幾分ませているリヴァルは、きっとルルーシュも知らないだろう様々な場所を知っていた。楽しませてやる自信はあるし、何よりも彼自身が楽しい。
 疑い深げな友人に笑ってみせるが、首を縦には振ってくれない。

「出席日数」
「うわあ! ルルーシュが真面目になってる!」
「シャーリーも煩いしな」
「あ、そっちか」

 悪友の勘。多分、出席日数もシャーリーも、嘘だろう。彼はそんなことを気にするような人間ではない。
 どうしてか、この友人は結構な額を稼いでいるはずなのに、自分のために浪費しているところを見た事がない。私服もそう多くは持っていないようであるし、食事はメイドが作っている。ならばどうしているのかといえば、貯金しているという以外の可能性は見当たらない。

「今から質素倹約してどうすんだっつーの。ぱーっと使うと、気持ちいいぜ?」
「必要な時に使うだけだ」
「その時はその時に稼ぐだけだ!」

 調子よく片手を挙げて宣言した瞬間、軌道がずれて背後の車からクラクションを頂いた。片手運転は危険だ。
 ルルーシュがジト目で睨みつけたが、気付かなかった振りでリヴァルは続ける。

「特にルルーシュなんてさ、実は頭いいんだからいい所に就職できそうじゃん? 将来社長になっちゃったりして!」
「無理だろうし、なるつもりもない」
「じゃあ給与安定な公務員とか?」
「いや」
「そうだ! その顔活かして芸能人とか〜」
「ありえないな」
「…………夢とかないの?」
「さあ? その時に考えるさ」

 サイドカーを、運転に気をつけながら盗み見る。澄ましきって、どこか気だるげな姿。ああ、はぐらかされた。きっとどう問い詰めようと、この友人は口を割りはしないだろう。
 想像しようとしても、ルルーシュの将来の姿というものは思い浮かばない(でも多分、ナナリーは隣にいるだろうなあ)。自分のことも同様であったが、それ以上に彼は謎だった。そういえば、ランペルージ家って何をしているのだろうか。

「あーあ。憂鬱だなあ」
「なんだ、いきなり」
「だってさ、俺、今のままでいいもん。テキトーに勉強して、遊んでさー。将来、とかって何か、どうでもいいっていうか」
「まあ、そうだな。俺も」
「あれっ? ルルーシュも?」
「ああ。現状で満足だ。これ以上も、これ以下もいらないさ」

 同じ考えを持っていた、ただそれだけのことが、何となく嬉しかった。勉強は面倒だけれど、生徒会は楽しい。馬鹿みたいな企画に参加して、盛り上がって楽しんで。
 多分、卒業してしまったら皆離れ離れになってしまうのだろう。ミレイには家を継ぐ義務があるし、ニーナも研究の道を歩みそうだ。シャーリーはどうなるのだろう? 今のままでいたいのに、でも時は無情にも進んでしまうから、それが酷く勿体ない。
 このまま時間が止まってしまえればいい。ずっと一緒にいられればいい。永遠にモラトリアムを楽しんで、気楽に生きていければいい。それが不可能だとは重々承知しているが、それでも願わずにはいられない。

「そうだ、なあ、ルルーシュ? 本国には戻らないよな?」
「戻らないさ。いいから、前を見ろ。前を」
「見てるって大丈夫! ルルーシュならさ、代打ちで生きていけるんじゃねーの? 短時間で稼げるし」
「……それもいいかもしれないな。でも」
「何?」
「だとすると、仲介してくれる人が必要だ」

 ルルーシュにツテは存在していない。作る気もないようであったから、彼一人では成り立たないだろう。
 真っ当な職業とは口が裂けても言えないが、ルルーシュの非常識なほどのセンスと、リヴァルの広い人脈があれば最強な気がした。

「任せとけって!」

 調子よく片手を挙げた瞬間、ハンドル操作をミスって壁に激突しかかった。片手運転は本当に危険だ。
 ルルーシュがジト目で睨みつけたが、気づかなかった振りをしてリヴァルは笑った。
 これでミレイと、結婚、とか、出来ちゃったりすると、もっと、いいなあ。ついでにシャーリーはルルーシュと結婚すればいいし、ニーナは多分アッシュフォード家の研究者だし、ナナリーはルルーシュと離れたりなんかしないだろうし。

 そうすれば、ほら。
 ずっと一緒に、皆で幸せに生きていけるじゃないか。




(そうであれたら、どんなにいいことか)







雑誌インタビューでの、ルルの本編前の崖っぷち振りに感動した。うわあ、悲惨。
将来がいらない楽観的なリヴァルと、将来がない悲観的なルルーシュの結論は何故か一致しているといい。






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