傍までおいで



 目の前でマントが揺れる。衆目を集め、正義の味方を気取る。そのためだけにデザインされた、奇抜なゼロの衣装だ。センスに問題はあるとは言えど、唯一無二という点に於いて、目的は達成されていると思われた。
 ゼロ。
 この名を聞けば、おそらく誰もが同じものを思い浮かべるだろう。仮面に覆われた姿。マントを翻し、正義を謳う姿。
 では?
 CCは、笑わずにはいられなかった。では、ゼロとは“誰”だ?
 仮面に隠された素顔の形。それを気にしているのは、嗚呼、なんと皮肉なことだろう。敵であるブリタニア、家族を殺された人々、その正義を疑う者。
 ゼロに心酔すればするほど、その中身は気にならなくなるらしい。ゼロの正体は人間なのだと、そう教えてやったらカレンやディートハルト辺りは驚きさえするのではないだろうか。
 彼は人間なのだ。殺しても死なぬ、CCとは違う。王の力を手にし、世界の理を捻じ曲げる者であって尚、彼は人間だった。
 ガウェインへと向かい歩く彼は、今より本当の修羅となるのだろう。前々からそう主張していたが、これまでの彼からはどうにも甘さは抜けなかった。だって、人間なのだ。

(ずっと、私だけは傍にいる)

 孤独な王様。権力を握り、全てを思うままに動かす王様。崇拝される王様。立派な王様。かわいそうな王様。
 王という立場を得た人間は、他のものから人間とは見做されなくなってしまう。その座を奪い合うのが、皇族たち。何が楽しいのか、CCには分からない。
 孤独なCC。死ぬこともなく、ただただ力をばら撒いて。人間ではなかったCCは、王の前でだけ人間となる。嗚呼、なんと皮肉なことだろう?

(契約だから)

 吐き気がする。ずっとずっと傍にいる。マオは捨てたくせに(違う、大切だったから遠ざけたんだ!)。
 執着されるのは嫌だった。重荷だった。悲しかった。泣きたかった。マオの幸せを奪ったのは、CC。普通の人間としての幸福を奪い、孤独となったマオの唯一縋れる存在であった自分自身を、彼から逃げることで奪い取った。
 そして独りとなったCCは、それでもまた繰り返す。望みを、叶えて欲しい。ただそれだけの、利己的な理由。

(大丈夫。失敗は繰り返さない)

 だから、ずっとずっとずっと。ルルーシュの傍にいる。傍にいて、見届けて、助けてあげる。
 本当に? 心の中で、もう一人の自分が囁く。傍にいる? 違うだろう?
 自分の所まで引き摺り降ろして、彼から普通の世界を遠ざけて。それで傍にいてあげるだなんて、欺瞞も甚だしい。CCが傍にいるんじゃない。ルルーシュを、傍に置いたのだ。他でもない、CCが。
 目の前でマントが揺れる。それに当然の如く付いていくCC。だってガウェインの操縦者は彼女。ゼロは命令を下すだけでいい。手を血に染めるのはCC。
 ルルーシュを捨ててはいけない。だってもう彼は引き返せない。ギアスは進化し、過ちは既に為されたのだ。責任を取らなければならない。CCも、そしてルルーシュも。契約を果たさねば。

「ゼロ」
「何だ?」
「よかったのか」
「……何がだ?」
「悪魔より、勝利の女神の方がいいんじゃないのか?」

 素気無くあしらって置いてきた皇の娘は、きっと悔しがっていることだろう。どうやらゼロへの心酔ぶりは相当なものだったようだから。それにルルーシュとは知己の間柄だったはずだ。
 ちょっとした意地悪と、ちょっとした自嘲を混ぜて反応を窺う。
 早足で歩く彼は、ちらりとCCを見遣ってから、足を止めることなくはっきりと告げた。

「負けた日本の女神より、悪魔の契約の方が信頼できる」

 自信満々に言い切った彼は、果たして何を根拠にしているのか。
 それきり会話に興味をなくしてしまったらしい彼に、彼女は声に出さずに笑った。嬉しいだなんて思ってやるものか。
 だが、そうだな。契約した限り、CCはずっと、ルルーシュの傍にいる。
 それは、経験だろうか? それとも生き方?
 もう一人の自分の囁く声に、CCははっきりと答えた。



(私の意志だ)







ルルの不幸は人間にあらざる力を持ちながらも人間であったこと。
CCの不幸は人間に近い存在でありながら人間ではなかったこと。
かなあ、とか。






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