それはまるで透明人間のような
(スザク+VV、色々捏造。スザクギアス持ち設定)
ずっと、気付いていた。
彼は人よりも速く走る。それは単に、皆よりも速く、という意味ではない。文字通り、人よりも。人類よりも速く、彼は走る。
主君の死に涙し、敵に憎悪する彼は、VVと名乗る少年と出逢った。
教えてあげようか。主君の狂気、敵の力、そして仮面の下の素顔。それは到底信じられない、常識外れた事実であったし、何よりもその正体が友人であったことに彼は動揺した。しかし。
「疑わないの?」
「疑いたいさ。ユフィを、アイツが殺したなんて」
「でも、疑わないんだ」
その事実は、彼の心をざわつかせた反面、落ち着かせもした。信じたくない。信じられない。けれど、納得も出来るのだ。パズルのピースは、気持ちいいほどにカチリと音を立てて合わさった。
憎しみの矛先が、象徴的でしかなかった悪という存在ではなく、ルルーシュという名の男に変わる。殺してやる、絶対に。それは、喪失に嘆く彼の、生きる理由として定められた。
「君の敵の力は、既に進化しているよ」
「進化? それは、強くなったってこと?」
「そう。資質が君とは段違いだ」
幼少期に与えられた彼と違い、ルルーシュは最近力を与えられたのだという。だというのにも関わらず、その力は彼を越している。
VVにそう突きつけられ、彼は下唇を噛んだ。彼はいつだって人よりも速く走れた。この身体能力が人間業ではないことは自覚していた。捨て駒のようにイレブンを扱う軍に所属していながら、今まで生きながらえてきたのは、その力のお蔭だと言っても過言ではない。これまでは邪魔とさえ思っていたが(彼は死にたがりだった)、明確な敵が現れた今となっては違う。悪魔と契約してでもルルーシュを。そう決心した。なのに、足りないのか。
「君は主を喪った。立場を失った。あるのはランスロット。でも敵も同等のKMFを持っている。身体能力さえも、彼の力の前には無力だ」
でも、とVVは続ける。
強くなる方法はあった。
「その力を使うといい。使って使って、使い続ければ、進化する。手助けしてあげるよ」
「……なんで、そこまでしてくれるの?」
「僕があげた力だからね。これは、契約だよ。君に力を。その代わり、願いを叶えてもらう」
「願い?」
にっこりとVVは笑う。叶えろと言いながら、その内容を話すつもりはないようだった。
何となくむかついたが、別に興味はない。出来なければ出来ないだけだし、そもそも出来ない人間にやらせるようには思えない。投げやりな思考で、彼は黙り込んだ。
どちらにせよ、逃げられない。契約とやらは、既になされているのだ。
「王の力は、君を孤独にするよ」
「孤独?」
「そう、異なる摂理、異なる時間、異なる命。力が強くなればなるほど、君は人から遠ざかる」
ふぅん、と小さく彼は呟いた。どうでもよかった。
だって。もう。
ユフィは死んだのだ。
「どうでもいいよ、そんなの。アイツを殺せるなら、そのためなら――“俺”は」
孤独なんて怖くなかった。主君は死に、友人は離れ。彼はとっくに孤独だったのだ。
決意を新たに拳を握り、ランスロットへと向かう彼の背を、VVは口の端を吊り上げて見送った。
孤独。それは、彼の考えているそれとは全く質の違うものだった。
「きっと君はもっと速く走れるようになるね」
だから。
(誰にも姿が見えなくなるんだ)