ふわりとゆれるスカート。
 光に輝く髪。
 風に攫われた花冠



お姫様と騎士



 ぱしんと軽い音を立てて、遠くへ流されようとしていた花冠が捕まえられた。ありがとう。名を呼んで微笑むと、彼もまた微笑んだ。どういたしまして。その後に続けられた自分の愛称に、彼女は一層顔をほころばせた。ユフィ。ユフィ。私はただのユフィ。

「どうしたの?」
「え?」
「なんだか、すごく嬉しそうだったから」

 頬に手を当て、ユフィはくすりと笑った。そんなに顔に出ていたかしら?
 彼女は、自分の愛称が好きだった。ユーフェミア・リ・ブリタニア。背負う名は彼女には重すぎて、だから彼女は自分自身をただの人として見てくれる誰かが必要だった。ユフィ。敬うべき皇族としてではなく、一人の女の子として彼女を認識する人々は、皆そう呼んでくれる。だから、ユーフェミアはユフィだった。

「あのね、スザクが初めてなの。ユフィ、って呼んでくれた、兄弟でない人って」

 ユーフェミアはどこにいても、流れる血に縛られていた。本国には勿論学友はいた。けれど、彼らにとってもユフィはユーフェミアだった。それはとても悲しい事あったが、彼女にはどうすることも出来なかった。きっとユフィと呼べとお願いすれば、そう呼んでくれたのだろう。しかし皇族を絶対とする彼らにするお願いは、命令と等しい。そんなのは、嫌だった。

「ありがとう、スザク。私、あなたに助けられてばかりね」

 総督府からの脱走。ただの女の子としての一日。あの時は本当に楽しかった。だって、スザクはユフィがユーフェミアだなんて知らなかった。
   ゼロとの戦い。大切な姉を助けてくれたのは彼。あの時は本当に嬉しかった。だって、スザクはユフィをユーフェミアと知りながら、ユフィと呼んだ。
 もしかしたら。彼女は思う。あの時が、この恋の始まりだったのかもしれない。ユフィは皇族として生きるには、あまりにも普通の少女だった。努力はした。それでもお飾り以上には誰も見てくれなかった。人の役に立ちたかった。皆を幸せにしたかった。無力だと不甲斐ない自分に怒りさえ感じていた。役立たずの皇族、ユーフェミア様。スザクは、そんな彼女を頼ってくれた。それはとても素晴らしいこと。ユーフェミアの中のユフィに語りかけることで、ユフィはユーフェミアとしての仕事を為せたのだ。
 コーネリアは、ユフィをユフィとしてしか見てくれない。彼女にとってユーフェミアは妹のユフィでしかなく、守るべき存在であってそれ以上の仕事は任せてはくれない。もちろん姉のことは大好きだったけれど、彼女はユーフェミアをその優しい抱擁の中に殺している。
 それ以後もあまりユフィは認められてはいないが、スザクが頼ってくれた、その出来事は励みになっている。

「だからね、大好きよ。スザクは私に色んなものを見せてくれるの」

 真っ直ぐにぶつけられる感謝の念に、スザクは照れたように頭をかいた。騎士としての態度ではないが、ここには二人以外の誰もいない。可愛いユフィ。ユーフェミア。守られてばかりのはずの彼女は、けれど実はこんなにも強い芯を持っている。――だから。
 スザクは手に持った花冠をユフィに被せてやる。昔はよく兄弟と作っていたのだというそれは、どんな思い出が詰まっているのだろうか。可愛いよ。そう笑いかけて、スザクは語る。

「僕も、ユフィには助けられてばかりだ」

 きょとんとする彼女に、スザクは更に笑みを深くした。彼はイレブンで最後の首相の息子で軍属で、父殺し。
 騎士への任命。イレブンである彼を初めて認めてくれたユフィ。あの時は本当は戸惑った。だって、綺麗過ぎる彼女に触れてしまえば、汚してしまうかもしれないと恐れていた。
 騎士の返上。それでもと願ってくれたのは彼女。あの時は本当に嬉しかった。彼の汚さを知って尚、彼女は綺麗なまま変わらなかった。
 もしかしたら。彼は思う。あの時が、この恋の始まりだったのかもしれない。スザクは普通に生きていくには、あまりにも複雑すぎた。背負う罪は重たすぎた。逃げたかった。死にたかった。けれど自殺は出来なかった。あれは仕方なかったのだと、父を殺した自分を正当化し続けた彼が自殺するという事は、やはりあの判断は間違っていたのだと認めることになる。だから不可抗力で死ななければならなかった。それも、誰かを助けるという美しい正しい形で。死にたがりの名誉ブリタニア人、枢木スザク。ユフィは、そんな彼を求めてくれた。それはとても素晴らしいこと。ユフィはスザクに生きる理由を与えてくれた。
 ルルーシュはスザクを許してくれた。認めてくれた。確かに彼はスザクの過去を受け入れてくれた。もちろん友人には感謝していたけれど、彼はスザクの世界を更に停滞させた。醜い出来事を覆い隠していたスザクに、仕方なかった事だと慰めた。それは優しすぎて、酷く儚い。だって彼は結局のところ、スザクを綺麗な人形に仕立て上げている。
 醜さ全てをひっくるめて、大好きだと言ってくれる存在がスザクには必要だった。だから、ユフィの存在自体がスザクの拠り所だ。

「大好きだよ、ユフィ。本当に君は、僕に色んなことを教えてくれる」

 まあ。飾られた花冠に手を添えて、ユフィは顔を赤くした。私たち、両想いね。孤独な心を持っていた彼らは、寄り添うことで幸せを得た。
 少女が精一杯背伸びをして、少年の首に手を回す。一瞬触れるだけの口付けをして、驚きに目を瞬かせる彼に笑う。いたずら成功。くすくすと笑う花のような声に、少年はつられて笑う。
 手をつないで、同じ速度で歩いて。まだまだ問題は沢山残っている。黒の騎士団、ゼロ。でも二人ならきっと大丈夫。
 そして彼らの立ち去った庭。花冠のために手折られた花が、咲き誇る花に隠されていた。



(その幸せは、完成されすぎていたんだ)







スザユフィはなんか本当におとぎ話の中の出来事みたいに綺麗。大好きだけどね。互いに互いが必要だったんだと思う。
それを恋愛と呼ぶか同病相哀れむと見るかは人によるのだろうけれど、当事者が幸せならそれでいいんじゃないのかなあ。






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