黒の騎士団による、日本の解放。
それに続いて各地のエリアが抵抗運動を繰り広げた。経済力も技術力も大きく下回っていたはずの彼らだったが、黒の騎士団の見せた不可能を可能とする力励まされ、想像以上の働きをした。
結果、前線で戦った皇族の命は次々と費え、また費用が莫大に増加したためにブリタニアの国力は低下。
便乗したEUと中華連邦の力も合わさり、巨大な国家は遂に滅びた。
しかしその一番の功労者の行方は、誰も知らない。
永遠
小さな家だ。
嘗ては荘厳であった宮殿を破壊しつくした、その傍らに彼らは住んでいた。離宮であったことが幸いしたのだろう、荒れ放題にはなってはいたものの存在はしていたアリエスの花畑を臨める場所だ。
崩壊した国家への執着は、皆思いのほか薄かったらしい。それとも、弱肉強食の概念が骨髄にまで染み込んでいたのか。ゼロの理想に即した社会はテロもなく戦争もない平和であったから、わざわざブリタニア人が敗者ではあれど、反抗する理由もなかった。
自由の国。
滅びた国は人類の平等を謳う世界の中心として生まれ変わったのだった。
まだまだ理想には遠いと、目的を達成したことにより解散した黒の騎士団の幹部達は言う。飢餓、病気、汚職、腐敗、差別、戦争とテロリズム。ブリタニアの残した禍根は酷く深い傷跡として世界を抉っていた。けれど、諦めるわけには行かない。ゼロは舞台を整えてくれた。だから、築くのは我々だ。
引継ぎ式は密やかに行われ、憎しみの連鎖は表向きゼロの死によって断ち切られた。その裏であった本当のことを知っている者は少なかったが、世界にはそれで構わなかった。“物語”が必要なのは、今も昔も変わらない。日本にも、ブリタニアにも(その言葉にありがとうと言った彼にもまた必要だったように)。
分かり辛くはあるけれど、着々と進んでいる世界に目を細めて、ルルーシュは新聞を投げ出した。もう関係のない話だ。一般人として過ごす彼は、メディアを通してみる嘗ての配下に懐かしさこそ覚えても、わざわざ接触する気は沸かない。
ブリタニアをぶっ壊すという夢をかなえた彼は、もうナナリーと幸せに過ごせる場所以外の何もいらなかった。
紅茶のカップを置くと、ナナリーが小さく微笑んだ。ルルーシュの世話焼きの程度は変わらない。いつかナナリーにも恋人が出来て、別離の時が来るのかもしれない。けれど少なくともそれまでは、二人きりで暮らすつもりだった。
「お兄様」
「なんだ?」
「覚えてらっしゃいます? 前も、二人きりで暮らしましたね」
「……ああ、そうだったね。もちろん覚えているよ、ナナリー」
母が殺されて、日本に来て。戦争が起こり、スザクと別れ離れになった、その後に。
苦しい日々だった。食べ物を手に入れるだけでも苦労した。ブリタニアに連れ戻されるのではと恐れ、彼らを見捨てた父に憎悪して。アッシュフォード家に保護されるまで、いつ死ぬとも知れぬ生活にすがり付いていた。
まだそれから十年も経っていないのだ。
隠れ暮らす中でも恐れと憎悪は薄れることはなく、いつ終わるとも知れぬ平穏にすがり付いていた。あの日々は、十年と言うには長すぎるようにも短すぎるようにも感じられる。ただ、余りにも沢山のことがあったのは確かで。
「でも、昔とは違います。ここはブリタニアで、怖いことなんてなにもなくて」
逃げる必要はない。おびえる必要はない。憎む必要すらない。
好き好んで居たわけではない日本を離れ、母の墓が見える場所にひっそりと移り住んだ。戦争の落とした影はまだ色濃く、混乱は完全に収まっていたわけではない。それでも確かに昔とは違った。
「だから、もうどこにも行かないで下さいね」
新聞に目を落とすナナリーに、は、と息を呑んだ。世界の恐ろしさから目を閉ざすことのなくなった彼女は、ルルーシュの読んでいた記事を見ていた。崩壊後のブリタニア、そしてブリタニア人の今後。対処しなければならない多くのことの数割は、ゼロが引き起こしたものだ。責任はあるのだろう。ナナリーとの生活を選んだのは、卑怯だったのかもしれない。けれど。
彼女の柔らかな頬に手を滑らせる。この妹は、一体どこまで知っていたのだろうか。それとも何も知らなかったのだろうか。ただ一人の為に奔走した兄の選んだ道をどう思っているのか。
追求しようと思って、やめた。もう終わったことだったのだ。ゼロは真実、無となり消えた。彼にとっての全ては終わったのだ。
「ナナリー」
「はい、何ですか?」
「幸せな世界は、見えるか? ナナリーの望んだ、優しい世界はここにあるか?」
楽しかった数々の事よりも、尚忘れられない辛い出来事が胸を締め付ける。同じ血を引く兄弟たち。幼き頃を共に過ごした彼。偽りの生活の中、それでも楽しさをくれた級友たち。ゼロを信じ、理想に向かって強敵に立ち向かい続けた騎士達。全ての発端となった魔女。
脆くも優しかった何もかもを投げ出して、それら全部を壊した後に残った世界は本当に優しいものなのか。壊したかった敵と一緒に倒れていった彼らは、果たして仕方のない犠牲と言えたのか。
目的は果たしたのに、後悔は尽きない。それは甘さか、それこそが優しさか。
そう目を伏せるルルーシュの手に、ナナリーは柔らかく手を添えた。
「お兄様と一緒に、いられますから」
(だから)
なんだか世界情勢説明ばっかで申し訳ない感じになりました。
リクは「反逆成功後設定で、隠遁生活をしているルルーシュ。一緒にいる人間はお任せ」でした。
お任せときたらナナリーかCCかカレンでしょう!と(好みが分かりやすいですね^^
えーと、他の方々がどうなったのかは分かりません><ルルが幸せなら(私は)それでいいです><