DVD5巻のピクドラをネタバレしているような、していないような。
騎士パロでマリアンヌ死亡後です。








 庶民の女。その子供。なのに皇子という身分を享受している。
 ルルーシュにとって、この世界は優しくない。彼を襲った悲劇にも誰も手を差し伸べてはくれない。母を失った皇子、しかも皇位継承権第十七位という中途半端な地位。誰よりも聡明でありながら、その頭脳を生かす場など与えてはもらえない。
 ――ならば。
 そうして戦う一人の子供のことなど、保身しか考えぬ貴族たちにはあずかり知れるところではなかった。



旅は道連れ



「お待ちください、お待ちくださいルルーシュ様!」
「なんだ」

 宮殿の廊下を歩く音が、ひたりと止まった。絶え間なく照らす電球はあるものの、窓の外はすっかり闇色に染まっている。この時刻に起きている者など余程の仕事熱心か、夜のお楽しみの最中の人間しかいない。もちろん彼は前者に当たった。思いがけず響いた声に自分自身で眉をひそめながらも、律儀に振り返る。

「なんだ、ジェレミア」
「なんだ、ではありません。ルルーシュ様」

 どのような命令にも発した人間が皇族である限り、絶対遵守を常とするジェレミアには珍しい咎める色が声に滲んだ。
 夜が明ける前から起き出して、深更に及ぶまで働き続ける。食事をするときでさえ何らかの書類を眺めている始末。しかもまだルルーシュは子供。体も完全に形成なされていない今、無理をすれば間違いなくいつか体を壊す。
 だから、せめて睡眠を。休息を。訴えるジェレミアに、しかし彼は頷きはしない。

「俺にはもう後がないんだ。分かっているだろう?」
「ですが!」

 分かっている。分かっていてジェレミアは彼の騎士となったのだ。
 認められなければならない。役に立つ、使い勝手のいい駒だと認識される程度にはのし上がらなければならない。捨て駒になるわけにはいかない。既に皇子という身分は彼の守護足りえるものではなかった。母を亡くして尚ブリタニアに留まった彼の退路は既に絶たれている。彼を守る手は失われ、体が不自由になった妹のためにも彼は進まなければならない。
 幼い身には重過ぎるその運命を、それでも必死に背負いながら走るルルーシュの未来に光はあるのか、否か。
 それでもと譲る気配のないジェレミアに、彼は合点したように目を逸らした。

「お前も俺に付き合わされて疲れただろう、休んでもいいぞ。なんなら騎士をやめても――」
「ルルーシュ様!」

 騎士の義務として、主の行く先々についてまわるジェレミアにも疲労は勿論あった。しかし、彼は自分のために苦言を呈したわけではない。あくまで主君のためにであったのに。
 未来のない皇族の騎士になるなど馬鹿げている。幾度となく周囲にはそう非難され、どうにか思いとどまらせようと説得されたものだった。そしてなによりルルーシュ本人が最後まで渋っていた。しつこすぎるジェレミアと、また護衛の少なさからその身に危険が及ぶことが多かったために、結局折れたのはルルーシュのほうだったが。

「無理する必要なんてない。まだ周りは煩いんだろう? 俺は廃嫡同然だ」
「無理をなさっているのは殿下のほうではありませんか!」
「俺は大丈夫さ。お前が騎士を望んだのは、テロを防げなかった罪悪感なんだろう。もう十二分に役に立ってもらったしな」

 その一言に、思わずジェレミアはルルーシュの持つ書類を奪い取った。軍人の動きに反応できるわけもなく、驚きに目を瞬く。
 確かに、最初に騎士になることを願ったのは彼の通りの理由からだった。手の届くルルーシュを守ることで、挫かれそうになった自分自身の意地とプライドを補おうと思った。
 だが、今は違う。
 ただ目的のために疾走する彼自身に惹かれたのは、騎士となってすぐのことだった。その能力、その意志の強さ。その地位が如何に不安定であろうとも、彼とならばどこまでも上り詰められるような気さえした。

「お前、皇子に対してそれはないんじゃないか?」
「――では、処罰なさいますか? 公式に」
「は……?」
「私を処罰して仕事に戻られるか、私を許して休息するか。どちらかです」

 ちなみに、騎士を罷免なさったなら、その理由として不敬を詫び、大人しく自首する次第です。
 絶句するルルーシュに思わず笑いがこみ上げたが、気合で表情筋を固める。
 皇子への不敬で処罰されればジェレミアの将来はない。
 しかし、騎士であることを許しても同様に将来に対する展望は見えていない。
 後者を選ぶしかなく、あからさまにルルーシュはため息をついた。

「分かった。今日はもう寝る」
「ありがとうございます。突然のご無礼、大変申し訳ありませんでした」
「全くだな。じゃあそれは明日やるから、机の上においておいてくれ」
「んなっ」

 結局明日の仕事が増えるだけなのか!
 仕事を減らすという選択肢はないらしいルルーシュに、思わず顔を引きつらせた。皇族が過労死なんてしたらどんな騒ぎになるものか。
 せめて彼の負担を減らせるようなスケジュール構成にするべく頭をフル回転させていると、彼はしたり顔で言った。

「俺には頼れる騎士がいるからな」

 だから、無理したってカバーしてくれるんだろう?
 開き直ったらしいルルーシュは口の端を持ち上げた。どうあってもジェレミアが諦めないのならば、いっそ思う存分こき使ってやろうという所存らしい。
 ルルーシュの立場に巻き込んでジェレミアの未来まで閉ざすことに良心が痛むならば、確かにのし上がるのが得策だ。だからと言って。

「頼りにしているぞ、ジェレミア」

 ああもう!
 思わず赤面して、ジェレミアは空を仰いだ。
 悔しい。この主君の身勝手さも、溢れる自信にも、分かりにくい優しさも。
 しかし何より悔しいのは、これからどんな運命が待ちかねているとしても、例え宿願のナイトオブワンになれずとも、そんなルルーシュから離れられそうにもないほどに魅了されていることにだった。



(頼りにされちゃった! 皇族に! ルルーシュ殿下に!)







リクエストは「ジェレルルの騎士ものでルルーシュに振り回されるジェレミア」でした。
どっちが振り回されてるんだかという感じに><
二人ともしっかりしているような抜けているような、というタイプなのでうまくやれると思います。多分!






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