もうひとり
なにやら教室が騒がしい。いや、寧ろいつもと比べて静か過ぎるほどに音はなかったが、空気の騒がしさにカレンは首をかしげた。そこ彼処でひそひそ話が行われている。
一体どうしたのだというのだろうか。教卓には誰も居らず、しかし自習という雰囲気でもない。
昨日はなぜかゼロが来なかった。彼が連絡もなく消えるのは時々あったことだったから、不満の声はあがったもののそのまま解散となった。
エースパイロットであり学業もこなさなければならないカレンは特に優遇されており、残って仕事をしている他の幹部たちに謝りつつも帰宅して眠り込んでしまい、遅刻して今に至る。
室内に一歩足を踏み出すと、一斉にクラスメイトたちが彼女に振り返った。ぎょっとして目をむくが、別にカレンがどうこうというわけではなかったらしい。すぐに先ほどと同じような状況となった。
本当に一体どうしたというのだろうか。
教室を見渡すとリヴァルが手招きをしていた。仲良くしている女の子たちもいたが、敢えて無視してそちらに向かう。何事か異常が起こったのならば、煩い女子よりも彼のほうが正確に教えてくれるだろうからだ。それにリヴァルは一人だった。いつも一緒にいるルルーシュもスザクも、おそらくサボりなのだろう。前者が何をやっているのかは知らないが、後者はお姫様の護衛に忙しいようだったし(早く殺さなきゃならないのに!)。
「どうしたの? 今日」
「……それがさ」
呼んでおいて言いよどむ彼に、内心の苛立ちを隠しつつおとなしめに首を傾げる。なんだか嫌な感じだ。おしゃべりな彼を黙らせるような何事かが、学園で起こるものだろうか。
辛抱強く待ち、しばらくたってようやく搾り出した言葉は一言、ルルーシュが、というもの。彼に何かがあったというのだろうか?
「いや、俺も信じられないし……でもうん、夢じゃないんだよなあ」
「……リヴァル君?」
「ルルーシュさ、実は――皇族、だったんだって」
目の前が真っ赤に染まった。
ルルーシュは確かに気に入らない。名誉ブリタニア人というだけで気に食わなかったスザクとは違い、彼の性格が気に食わなかった。
けれど短いアッシュフォードでの生活の中、一緒に過ごした割合は高く。
嗚呼。
カレンは小さく声を漏らした。
もう一人殺さなければならない人が増えてしまった!
(だって皇族は私たちの、ゼロの敵だもの)
私は今、読んでくださった方の心の声がわかります。なぜならエスパーだから。
というわけで答えて見せましょう。
「短!」