「ルルーシュ!」

 CCが、顔を輝かせていた。
 基本的に無表情な彼女が、その様な表情を浮かべることは珍しい。なんとなく嫌な予感がした。こういう時の彼女は大抵、出て行けこの居候、と思わず言いたくなるような行動に出る。
 少し身構えつつ続きを促すと、CCはばんっと勢いよく新聞の広告を広げた。

「ピザ屋が出来た! 連れて行け」
「出て行けこの居候。どこかで餓死でもしていろ」

 ルルーシュは言った。



彼と彼女の都合



 とは言え、CCが不死身らしいことは疾うに確認済みである。そして彼女に何故かいつも押し切られてしまう自分のことも。結局ルルーシュは、ナナリーに色々吹聴してやるとの脅しに負けた。嘘は嫌いと言い張っているからその点の心配はいらないだろうが、寧ろ本当だからこそ困ることを言いふらされるに違いない。

「いいか。絶対に、目立つ真似はするなよ」
「イエスユアハイネス」

 貴様っ……。すれ違った親子連れが、怪訝な顔で振り返った。冗談か何かかと認識されたらしく気に留められはしなかったようだが、本当に皇族であるルルーシュにしてみれば冷や汗ものだ。
 全く、CCのピザへの熱意は計り知れない。近所に釜焼きのピザ屋が出来た、その程度のことでここまではしゃぐか。確かに美味しそうではあるが。
 さすがにいつもの拘束衣は脱がせた。アッシュフォード学園の制服だ。手に入れるには些か苦労したが、勝手に歩き回る彼女への対策には必要なものだった。他の服もありはしたが、クラブハウスから出てクラブハウスに戻る以上、制服であるほうが目立たない。

「まったく、何でお前はそんなにピザが好きなんだ……」
「実はイタリアの生まれだからな」
「そうなのか?」
「嘘だ」
「………」

 ルルーシュがまずぶっ壊すべきは、ブリタニアでも皇帝でもなく、まずはこの偉そうな女なのかもしれない。傲慢で自分勝手、過剰なほどの秘密主義。一体何者なのだか。
 澄ましきった顔に一発拳を叩き込みたくなる衝動を抑えながら、二人並んで租界を歩く。
 舗装された道路。流行っている店。呼び込みをする店員。楽しそうに遊ぶブリタニア人。潜むように居るイレブンは、見えない振りをする。

「ええと……。どっちだ? ルルーシュ」
「方向音痴かお前は。こっちだ」
「ふん、誰かさんがクラブハウスから出させてくれないからな。地理はさっぱり分からん」

 偉そうにふんぞり返るCCにため息をついた。行きたいといいながら道案内をさせるとは。
 どうせなら迷わせて置いてけぼりにするものいいかもしれない。しかしそんなことをすれば結局困ったことになるのはルルーシュだとは想像に難くない。
 可愛いときもあるんだがな……一瞬思って、振り払った。多分気の迷いだったのだろう。共犯者は共犯者だ。それ以上でも以下でもない(なのに何故一緒にピザ屋に行っているんだろう?)。
 仲がいいとは決していえない会話を交わし、精神的に疲れながらもピザ屋にたどり着く。女性受けするような外観にひいた。入りにくい。しかしそんな連れのことなど気にすることなくCCはうきうきと入店する。どんな料理でも食べこなす自信はあったが、女性だらけの店に入るのは流石に気がひけた。浮くのは嫌だ。目立つのも。

「おい、財布。何をやっている」
「俺は財布じゃない」

 別にCCはピザにありつければそれでいいわけなのだから、何も一緒に食べる必要などなかったのではないだろうか。気づいたのは、メニューを注文してからだった。
 本日二度目のため息をつき、辺りを見渡す。女、女、女。イタリアンは女性が好むらしいとは聞いたが、これはないだろう。ちらほら男性もいたが、全てがカップルで、ルルーシュとCCの関係のような人間はいないように思えた。周囲から見れば彼とCCも立派なカップルだったのだが、ルルーシュは気づかない。
 チーズの匂いにむせ返りそうになりつつCCを見る。本当にピザが好きな女だと思う。どうしてここまで顔を輝かせているのやら。
 彼女の顔が一層輝き、その視線を追うと注文のピザが店員に運ばれてくるところだった。うわ、大きい。二人で食べれるものだろうかと思うほどだったが、おそらくこの調子ならばCCが残すことなどないだろう。

「おまたせいたしま」
「あれ? ルルーシュ君」

 店員の声に被せるように聞こえてきた声に振り返ると、入り口に見知った顔が数人。
 確かあれはクラスメイトの……。様々な情報を持ち前の脳内で処理整理する。女性。成績、性格共に普通。好きなものは恋話と噂。ギアスは使用済み。
 そして彼女の次の一言で、現状を把握する。

「え? ……その子、誰?」
「へっ?」

 新規オープンした店に男女二人で座る、この状態がデート以外の何物でもないと、ルルーシュはこのとき初めて気が付いた。
 慌てて弁解しようとするがイレギュラーに弱い彼のこと、咄嗟のいい訳は見つからない。その慌てた様子が更に誤解をうむ。
 ――え? なに? もしかして。
 彼にはその邪推をとめる手段がなかった。ルルーシュとCCの関係はなに? 恋人ではない。共犯者などとは言えない。家族と言い張るのは無茶。友人と説明しようとも、目立つ彼の学園内における交友関係は把握されているだろうから通じはしない。絶対に隠れて付き合っていると勘違いされる。せめて、学園の制服を着させなければよかった。そうすれば学園外の知り合いと言えただろうに!

「おい」
「ん? なんだ、煩いぞ」

 眼前で繰り広げられるやり取りも気に留めず、CCはピザを貪る。そうか、ピザの方が大切か、共犯者のピンチより。そうだろうとは思ったが、ここまで我関せずを貫かれると癪に障る。一体誰のせいだと思っているんだ、こいつは。

「私は今お楽しみ中なんだ。邪魔をするな」
「おま……!」

 なんだその言い方は! 悪意を感じる。悪意しか感じない。
 これ以上会話しても墓穴を掘るだけだと、ルルーシュにしては懸命な判断を下す。無理やりにCCの手をとり店からの脱出を図った。ピザから遠ざけられた彼女が切なげな声を上げるが、構ってなどいられない。そもそもCCは余り人に見せたくないのだ。

「全くお前はいつも強引だな」

 いいからもう黙れ! ルルーシュの必死な悲鳴と、クラスメイトたちの黄色い悲鳴が重なった。
 ああ、絶対に誤解された。お釣りがくるほどの料金をカウンターに叩いて、彼は頭を抱えたい気持ちで駆け出した。






「……くそ、明日学校が怖いな」

 息を切らせて公園のベンチに座り込み、ルルーシュはうなった。
 どうすれば乗り切れる。ギアスの無駄使いのし過ぎがこんな形で仇になるとは。
 策を必死に考える彼に、無駄だろうな、とCCは他人事のように呟いた。にらみつけるルルーシュに、飄々と言ってやる。

「言うだろう? 全ての道はローマに通ずと」

 既に道は拓かれた。どう足掻こうと、たどり着く結末は一つ。
 方向音痴のCCだけ残して帰りたい気分に陥りながら、ルルーシュは項垂れた。



(それより、ピザはどうしてくれるんだこの童貞)







リクは「シールルで変装デート。をA.F学園の生徒に目撃され、ルル様恋人発覚、学園大騒動」でした。
続きます(またですか)(すみません)
支払いは現金ではなくカードだけに思えますが、展開上の都合なので目をつぶってください><
というかもしかしてルルも変装したほうがよかったんでしょうか、と書き上げてから悩み始めましたっ






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