猫の知りえた彼のこと



 アーサー……?
 思わずスザクは瞬きをした。助けてくれた? いつも噛み付いてばかりで、慣れてくれる気配さえもなかった。
 なんで僕ばかり。そう愚痴ったことも片手では数え切れないほどだ。僕は、こんなに好きなのに。
 アーサーには嫌われていても、スザクにとって彼は思い入れの深い生き物だった。
 ユーフェミアと出会った時、楽しく会話した。
 名前を付けた時、思わぬ姉妹の共通点に嬉しくなった。
 歓迎会と称して、皆で猫のコスプレなんてことをした。
 生徒会活動をしている時、いつだって目の届くところにいた。
 王の名前を冠する猫は、なんだか得意げな顔をしているように見えた。助けてやったんだ、感謝しろ。そう言わんばかりの瞳が頼もしい。
 ――ああ、そうだ、でも。
 意図的に思い出さないようにしていたことが一つ。

(猫騒動、あったよね、アーサー)

 生徒会で飼われるようになった契機、そしてスザクが受け入れられることとなった発端。
 ルルーシュの“大切なもの”を奪った猫を探して、学園中が大騒ぎした。

(何か、被ってたよね、アーサー)

 それは、まるで。
 クロヴィス暗殺の容疑者とされ、護送され、助け出された最中に間近でみたそれ。
 スザクの動体視力は人並みではなく、容易に結びついた仮面の形。

(違うよね、違うよね? ルルーシュ)

 違う、違う、間違っている。
 何度もそう否定した。否定すればどうにかなると思っていた。現にスザクは父を殺したけれど、真実はどうであれ社会的な事実はスザクの父殺しを否定している。それで救われた彼の世界は全肯定か全否定しかなく、だからそんな生き方しか知らないのだ。
 確かめたくはなかった。勇気はない。意気地もない。知ってしまえば引き返せなくなる。
 だって彼は間違っている。スザクは正しい道を行っているのに、どうして彼はあんな道を選んでしまったのか。
 どうか、彼が思い直してくれればいい。そう願って、何度も何度も否定した。

(違う。まだ確定したわけじゃない)

 じゃあなぜゼロはスザクを助けてくれた?
 じゃあなぜユーフェミアははゼロを信用した?
 じゃあなぜルルーシュは最近学校に来ない?
 じゃあなぜ今学校にルルーシュはいない?
 壊したくない友情に深入りすることを恐れ、深入りしなかったがために壁は高くなるばかり。なんという悪循環。分かっていても、直視することは出来なかった。
 だから、ねえ。軽やかなお姫様の、心地よい言葉に身を任せたのに。
 どうして彼は彼女を殺してしまったの。

(もしも、もしもゼロが……)

 アーサーの瞳に語りかけてみる。
 ねえ、彼は何者? ただアーサーは、にゃーと鳴く。スザクに猫語は分からない。にゃー。にゃー。
 ねえ、僕は何者? にゃー。一言鳴いて、アーサーはそっぽを向いた。にゃー。
 ああ、そっか。
 猫語はやっぱり分からないけれど、素振りでなんとなく言いたいことが分かってしまった。
 “俺”の心を“僕”に押し込める。その被った猫が、猫にはきっと気に入らなかったのだ。にゃー。
 確かめておいでと言われている気がした。誤魔化す全ての皮を引っぺがして、素の“俺”のままで会っておいで。
 その瞬間にきっと終わる、その友情への絶望を知りながら。



(……僕たち、友達だよね)







スザクって、自分を否定する人は否定しないと、自分が否定されちゃうって子なんだなーって。じゃないとどう生きていけばいいのか分からなくなるんでしょうね。それしかないから。
続編見てしっくりきたんですが、スザクはただ友情を信じた人に自分の正義を否定して欲しくないだけ、ルルもただ自分の正義に友情を信じた人を巻き込みたかっただけだったわけですね。
上っ面の友情万歳。絵にするとこんな感じ。

結局互いを見ているようで自分しか見えていないんだにゃー

20070731








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