その差は歴然としている。
 学園でも分かっていたし、正直ゼロとしての彼もさほど身体能力に特化しているようには見えていなかった。
 だから、カレンはその結末を瞠目しながら見ていたものの、さほど不思議には感じなかった。

 軽い銃声が響き、その軽さに反した重さで以って彼は倒れ伏した。
 スザクが、撃った。
 ゼロを。
 ルルーシュを。



白紙に戻る



 友達だった? それとも、敵?
 そのまま自分に変換できる疑問に、カレンは体を震わせた。
 仲間だった? それとも、敵?
 滲む涙を拭い、そろそろと一歩を踏み出す。どうなった? ゼロは、ルルーシュは、死んだの?
 日本のために戦ってくれていたと信じてた。けれど世界を手にすると豪語した男は、つまり日本なんてどうでもよくって。
 では何のためにカレンは戦っていたのか。絶望が彼女に現実を突きつける。
 嗚呼、なんて醜い。
 正義という名で飾り付けても、戦いは綺麗なものなんかではありえなかったのに。
 肩で息をするスザクの下へ歩み寄る。カレンは見届ける権利がある。そう言った彼は確信に近い思いを抱いていたのだろう。黒の騎士団は利用されているだけで、仮面の下には級友がいる。そんな残酷な現実を見据えろと、スザクは。

「ゼロ、は」
「……まだ、だ。まだっ」

 震える銃は彼の怒りを示すのか、それとも友人への未練だろうか。
 ユーフェミアはルルーシュに殺された。ギアス。スザクの言っていたそれが一体なんなのか、カレンには分からない。ただ、ゼロはユーフェミアを利用したらしいことだけは理解できた。
 日本人の虐殺。合衆国日本。戦争?
 全て、ゼロの手のひらの上でなされたというのか。信じていた全てを裏切って、利用して。
 頭から血を流し、同様の赤が腹部からも広がる。急所ではないらしい。テロリストとして培った知識と勘がそう告げる。今ならまだ助けられる。応急処置をして、然るべき機関に送り届ければ(けれど助けてどうするっていうの?)。

「スザ、」

 ダンッ!
 スザクの手の中から、ルルーシュを殺すための銃弾がはじき出された。思わず目を瞑る。殺されてしまう。このままでは、本当に。
 ダン、ダン!
 そろりと目を開くと、彼の周囲の床に数個の穴が開いていた。当たらない、なんで。スザクの呟きが余りにも悲愴で、思わずカレンは顔をゆがめる。
 私はどうしたいのだろう? カレンは自問する。
 ゼロは、ルルーシュは許せない。けれど救われたのも事実で、彼に恋焦がれていたのも事実。
 私はどうしたいのだろう? カレンは自答する。
 真実を知る権利があると言われた。見ない権利もまた存在するのだろう。それでは知ってしまった今、行方を見て見ぬ振りして関わらない権利はあるのだろうか。
 結末だけを見送る行為。日本の侵略も、兄の死も、母の優しさも。カレンはいつだって、わが身のことしか考えてこなかった。
 どうしたらいい。どうしたい。溢れる涙が頬を伝う。混乱の最中、それでも事態はカレンを置いて行く。

「許されないことだ。人を殺して、その果てに幸せなど! だから!」
「あっ……」

 ダン。
 だから。殺せば。ゼロを殺せばその果てに幸せがある?
 その言葉の孕む自己矛盾に、スザクはしかし気づかない。



(だから、これでいい)







連載予定でした。
これ書いて数ヶ月。
何書こうとしてたか忘れましたジャンピング土下座!









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