噂の尾ひれを毟り取れ



 嫌な予感は抱きながらも学校に来はしたものの、ルルーシュはすぐに後悔し始めた。なんだ、この騒ぎ。だが出席数が崖っぷちの彼が、来れる日に来ないのは無理。
 昨日見られたCCとの外出は、確かに少々の騒動をうむとは思っていた。が、登校して最初にかけられた言葉は「彼女、どんな子?」で、次は「彼女がいても私はルルーシュ君が!」というものだった。至るところで泣いている女子はどうしたのだろうか。きっと会長が何かまたおかしなことを企画したのだろう。面倒な。
 教室の扉を潜ると一斉に視線が彼に集中した。怖い。

「ルル!」
「……シ、シャーリー。おはよう」

 泣きそうな顔をしたシャーリーに駆け寄られ、若干ルルーシュは退いた。なんで涙目なんだろうか。誰だ、シャーリーを泣かせた奴。
 ルルーシュの思考にも気づかず、そのまま彼女は黙り込んでしまった。何か言いたげに開閉される口。相変わらず突き刺さる視線。なんだろう、この状況。

「おいっすールルーシュ! 彼女いたんだって?」

 横から入った救世主、悪友リヴァルの登場にルルーシュは肩の息を抜いた。ああ、よかった。女性経験が少なすぎる彼は、泣いた女の子の対応など分からない。
 しかし内容は今日何度も聞いたそれで、一体この短期間にどれだけ噂が広まったのというのか。うんざりしながら、最近の付き合いの悪さを勝手に納得する彼を諌める。ある意味間違いではないが、彼らの邪推するようなことは一切ない。断じて。

「別に、あいつは彼女とかそういうんじゃない。ちょっと用事があって、ついでに食事しただけだよ」

 ぱっと花開くようにシャーリーの顔が輝いた。何故そこで喜ぶのだろうか。

「へー。でも制服着てたんだろ? 誰? 何年生?」
「制服? 何の話だ?」
「あれ、制服着てたって話聞いたけど」
「……ああ、似たような格好をしていたかもしれないな。見間違えたんだろう」

 用意していた回答を述べると、不満は残るようだが一応リヴァルは納得してくれたようだった。内心安堵の息をつく。
 少し縁があって、食事をしただけ。あれはデートでもなんでもない。ルルーシュの説明に周囲の女性達が泣いて喜んでいた。

「でもさ、その、一緒にいた女の子が言ってたって噂もあるよ?」
「ん? 何をだ」
「夜は強引なんだとか」

 夜。強引。CCはそんなことを言っていただろうか。思い起こそうとするが、慌てていた為に判然としない。
 だが確かにルルーシュは強引なのかもしれない。黒の騎士団に連れて行き、便利に使っている。だがしかし。

「確かにそうだが、どちらかというとあいつの方が……」
「はっ?」

 ピザを強請り、傲慢な態度で騎士団員を煽る。その傍若無人さはルルーシュ以上に違いない。
 ぽつりと呟いてリヴァルを見ると、口をぱくぱくしていた。なんだ。

「その、つまり……女の子の方が、夜は、優勢なの?」
「ん、まあ、そうだな。昼でもそうだが」
「えええ! ルル、昼もやややややってるの? ていうかやってるの! ねえ!」
「シャ、シャーリー?」

 唐突に割り込んできて何やら叫び始めたシャーリーに、ルルーシュは目を白黒させる。作戦時は昼も黒の騎士団で活動しているが、彼女が知るはずもない。いやまさかバレたか。どういうことだ。
 その彼の慌てっぷりをどう勘違いしたのか、彼女は頭を抱えてぶつぶつ呟きながら蹲ってしまった。ルルはそんなはずじゃ……破廉恥な……意味の分からない言葉が飛び出している。

「で、でもさ、ルルーシュ? 彼女じゃないんだろ?」
「さっきからそう言っているが?」
「なのに夜は一緒?」
「……まあ、そうなるが」

 あっさりとしたルルーシュの返事に、リヴァルまでが頭を抱えた。彼女でもないのに夜は……絶対童貞だと……童貞が何で関係あるんだ。

「ところでさルルーシュ!」
「……まだ何かあるのか」
「どこで出会ったの? その子と」

 いい加減面倒だったし、ボロが出ないうちに切り上げたかったが、周囲のクラスメイト――それ以外も集まっていたが――までもが聞き耳を立てている。これは納得させるまでは終わらせられないか……。
 しかしどう説明したらいいものか。
 ゲットーで出会った。却下。更に問い詰められる。
 気づいたらクラブハウスにいた。却下。学生ではないと説明してしまっている。
 実はテロリストの一味。もっと却下だ。ありえない。
 後ろ暗いことが多すぎるため、真実は話せない。ならば無難な作り話をすればいい。

「彼女がハンカチを落としてな、拾ってやった」
「……は?」
「よくあることだろう?」
「ないよ!」

 なんということだ。ルルーシュの脳が目まぐるしく稼動する。
 イレブンに於いてはごく一般的な出会い方だという認識をしていたのに。食パンを加えた彼女と衝突した、というほうの選択をしたほうがよかったのか。いやもしかしたらブリタニア人であるリヴァルの知識にない出会い方だったのかもしれない。カルチャーショックというやつか!
 想定外のハプニング、知識量の相違による意思の疎通の不具合にルルーシュが慌てていると、リヴァルはおもむろに頷いた。

「運命って奴だったんだな、ルルーシュ」

 ――運命。その通りだ。
 彼女がいなければこうも上手くブリタニアへの反旗を翻すことは出来なかっただろう。望む未来を切り開くための手段として、間違いなくCCを手に入れたのは宿命ともいえる。
 そう考えて肯定すると、ぽんぽんと両肩を叩かれた。応援してるぞ。……応援?
 今の会話が風速で学園全域にわたっていることなど、ルルーシュは考えもしなかった。



(……まずいな、疑われている? しばらくゼロは自重するべきか)







リクエストは「シールルで変装デート。をA.F学園の生徒に目撃され、ルル様恋人発覚、学園大騒動」の後半部分です。
更に続きます。

20080207








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