「おはよ、ございま、ル、ゼ、ルル、ゼ……ええと」
「…………」
「ゼロルル!」
……誰だ。
髪色と同じくらい顔を真っ赤に染めた部下の様子に、ゼロ改めルルーシュは額を押さえた。
夢は続く
黒の騎士団のリーダー、その謎めいた(……センスの悪い)仮面の裡が露見したのはつい先日のことだ。
彼の名誉のためにその経緯を話す者はいない。ゼロが躓いて転んだ際に仮面が落ちてしまったなどという馬鹿馬鹿しすぎる事実は、その場にいた者たちの胸にひっそりと収められている。
正直驚いた。そう幹部代表Oは苦笑する。仮面の下にあった白皙の美貌は余りに若く、余りに間抜けだった。
しかし自分よりも取り乱している人がいると逆に冷静になるものらしい。零番隊隊長の、あの反応は凄まじかった。
「なあ、カレン」
「はい、じゃない、うん。あれどっちがいいんだろ、ええと、ええと」
「……どちらでも構わない」
「わ、分かっ……りました」
「……」
眉根が寄せられ、疲れたようなため息が落ちる。ゼロは例の一件以来幹部たちの前では顔を晒すようになった。曰くすでにバレているのだから仮面などもう無意味だろうとのことだったか、約一名酷く落ち着かないでいる人間がいた。どうやら同じ学校で同じクラス、その上同じ生徒会に所属している友人(友人、という言葉に本人達は微妙な顔をした)だということらしい。世界は広いようでいて狭い。
ルルーシュがゼロをやっている理由だとか、まだ子供だとか、そんな理由がそこそこ語られた気もする。しかしそれすら些細なことに感じられるほどだったのだ、カレンの動揺の様子は。それほどに彼女にと
って、ゼロの正体は衝撃的だったらしい。自分よりも遥かに年若いリーダーに態度を決めかねている者もいたが、カレンほどではなかった。
「……ルルーシュだ。とりあえず今はルルーシュとして接するから、君もそうしてくれ」
「う、うん。分かりま、分かったわ。ゼ、ルルーシュ」
だめだこりゃ。玉城が爆笑した。なんでこんなガキに従わなけりゃならない、と正体を知った幹部の中で唯一声をあげて反抗を示したのが彼であった。しかし今までも事あるごとに突っかかっていたのだから結局のところ態度がそう変わったわけではない。ある意味では最も泰然たる態度を見せる彼を、カレンはギッと睨み付ける。
「だって……だって、ゼロがルルーシュとか……ルルーシュでもゼロはゼロで……うううううう」
「カレンが敬愛していたのはゼロであって、俺じゃないだろう? 仮面を外した時点で俺は俺だ。普通にしていればいい」
裏切られるのは困るがな、とゼロはうっすら笑う。自分で敬愛とか言っちゃっている事に突っ込みたい団員の目線には気づかない。
対するカレンはまだ納得していない様子で頭をぐるぐるとさせる。そもそもレジスタンスに所属していたのは日本解放を目指す信念からであったが、今ではゼロのためと言っても過言ではない。勿論日本への愛情は深く、ブリタニアへの憎悪は大きいが、傾きすぎた比重を戻すにはバランスが崩れすぎていた。精神の拠り所にしていたゼロが、忌々しいクラスメイトだったと知って、直ぐに受け止められるほどに彼女は柔軟ではなかった。
「まあ、私は面白いからこのままでいいけどねー。カレンちゃん、かーわいー」
からかうようにラクシャータが笑う。百面相をする少女と、無機質な仮面の向こう側にあった少年の漫才のようなやり取りは、傍観していて楽しい。
ゼロの困惑した顔が見れて嬉しいので同意です! 背後でディートハルトが顔をだらしなく伸ばして同意する。気持ち悪い。
しかし実際にはこのままでは問題だろう。零番隊隊長はエースパイロットであり、全体の士気にも関わるのだ。ゼロへの返事の仕方に迷ってその隙に敗北、なんてことになったらいくらなんでも笑えない。
はあ、とため息が再び降る。最愛のゼロに呆れられているようでもあり、いけ好かないルルーシュに馬鹿にされているようでもあり、カレンは俯く。穴がなくても掘って入り込みたい気持ちだ。
「カレンは、ゼロが俺だったら日本解放を諦めるのか? その程度の決意だったのか?」
学校では一度も聞いたことのなかった真摯な声音に、驚いてカレンは顔を上げる。
ああ。ゼロの正体なんてどうでもいいと、そう思っていたはずだ。それなのにいざ知ってしまったら動揺するなんて。
「カレン」
「……うん」
「君は、俺にとって必要だ」
ひゅぅ、と玉城が口笛を吹いた。黙ってなさいと、井上がその頭を殴る。痛い。
嫉妬して暴れようとしたディートハルトの目に、ラクシャータの煙管の吸い口が刺さる。目が痛い。
軽い空気だったはずなのにどうしてこんなことに。少年少女のやり取りは、青春時代を戦争で素っ飛ばされた彼らには酸っぱすぎた。目に痛い。
カレンはというと、真っ赤になったり、真っ青になったり。ゼロに必要だなんて言われて、嬉しいと思わないわけがない。
けれど。
「ルルーシュに言われると気色悪……ってあ」
口に出してしまった。
恐る恐る彼の顔をうかがうと、ひくりと頬が痙攣していた。怒ってる、ちょっと怒ってるよ絶対。助けを求めようと周囲を見渡すが頼りになりそうな人がいない。玉城とディートハルトに至っては何故か蹲っていた。
「まあ、カレンが俺のことを嫌ってたのは知っていた、が……」
「ちちちち違うそうじゃなくて! いや違わないんだけど、えっと、ちょっと待って」
深呼吸一回目。黒の騎士団にとって、カレンは必要。
深呼吸二回目。カレンの願いは、日本解放。
深呼吸三回目。そのために、ゼロは、必要。
「ルルーシュは、どっちが本音?」
「何がだ?」
「ルルーシュと、ゼロと、どっちが本物?」
クールで世の中の全ては自分と無関係だとでもいうような態度のなルルーシュ。
ブリタニアを憎み率先して日本のために前線に立つゼロ。
一度は疑ったけれど、交流していくうちに絶対違うとさえ思い始めた。なのに。
「そうだな……紅月カレンとカレン・シュタットフェルト」
にやりと彼が笑った。その違いと似たようなものだ、と。
カレンが本音をぶちまけられるのは、間違いなく紅月カレンの時だ。だからといってシュタットフェルトのカレンが完全に偽者というわけでもない。
彼の事情は詳しく知らないが、ナナリーが居る以上もっと複雑なものだろう。しかし根本的には変わらない。
ゼロも、ルルーシュも、同じ人間だ。
「理解、したわ」
疲れたように天井を仰いで、カレンは言った。
「性格が歪んでるってことよね、どっちにしろ」
普段見せない間抜けな顔を晒す彼に満足して、カレンは小さく笑った。
(……なんだこの一件落着といった雰囲気は。俺が歪んでるってことで解決なのか)
リクエストは「ゼロバレin騎士団のカレルル。騎士団内での日常でカレンの変わった様子などで面白可笑しく」でした。
ああああんまり面白おかしくなかったかもしれません><
最後の辺りはあくまでカレンの好意的な考えかなあ
20080207