ルルーシュが、ゼロだと、
 半ば確信を持っていたのだけれど、
 それでも、
 彼は。



残る猶予はどれくらい?



「ゼロは間違っている」

 何度も言った。
 それでも、告げる。

「ゼロは間違っているよ」

 間違えてはいけない。
 外側から無理やり壊すことで解決するものなどなにもない。解決したとしても、それは上辺だけだ。内側から変えていかなければ、結局根本的には何も変化しない。
 過去に大きな過ちを犯した彼だから分かる。彼だからこそ誰よりも分かっている。
 ゼロは、失敗する。

「それでも、内側からはどうにもならないことがあるだろう」

 不満げにスザクを見据える彼は、
 テロリストを纏めブリタニアに反旗を翻す彼は、
 おそらく同一人物だ。

「間違っていても、やらなければならない」

 ブリタニアをぶっ壊すと言った彼。
 日本の独立を目指す彼。
 皇族を嫌う彼。
 皇族を殺した彼。
 頭のよくないスザクにだって分かる。符合しすぎるパズルのピースは、日に日に完成へと近づいている。

「そういうこともあるんだよ、スザク」

 スザクを友人と言った彼。
 スザクを助けてくれた彼。
 ナナリーといられる世界を望む彼。
 日本の平和を取り戻そうとする彼。
 嵌りすぎるピースが、優しくないものだけだったなら、こんなにもスザクは苦しまなかったのに。

「それでも、間違ったやり方で得たものになんて、価値は……」

 ブリタニアに報告しなくてもいいのだろうか。何度も自問した。
 いいや、まだ説得できる。まだ間に合う。何度も自答した。
 既にゼロは罪を犯しすぎてはいないか。何度も自問した。
 無理やり収容所に送るのでは意味がない。彼自身が罪を納得しなければ。何度も自答した。
 ブリタニア軍人としての義務を放棄してはいないか。何度も自問した。
 けれど、ルルーシュはブリタニアの皇族だ。複雑な事情がある。何度も自答した。
 本当にスザクに彼を止められるのか? 何度も自問した。
 ……ぼくたちは、ともだちだ。何度も自答した。

「じゃあスザク、俺は用があるから」
「うん、気をつけてね」

 ルルーシュはクラブハウスへと――そして仮面を被り、ゲットーへと急ぐ。
 スザクは軍へと――そしてゼロと戦うために、戦地へと歩む。

「……気をつけて」

 扉の向こうへと消えた彼に、声をかける。
 気をつけて? 何から? 敵から? 敵とは?
 嗚呼、彼を危険に晒すのは、紛れもないランスロットで、そのデヴァイサーである、この。
 歯を食いしばり、拳を握る。
 ブリタニア軍人であるならば、ゼロを逮捕せねばならない。
 それが守るべきルールであり、スザクの信念だ。
 それでもスザクはルルーシュを引き渡したくなどなかった。友人だから、そう、親友だから。
 友情を裏切るのはルール違反だ。だから、彼の改心を信じて待つしかない。
 そもそもゼロだと決まったわけではないのだ。パズルのピースは、顔という一点に於いて未完成だった。
 細く微かな希望に賭けて、スザクはルルーシュの笑顔を、優しさを思い描く。

「信じない」

 君がゼロだなんて、絶対に信じない。
 そう信じていられる間は、スザクは間違っていないのだ。

「もう行かなきゃだ。ユフィが待ってる」

 ユーフェミアの騎士になったのが、ルルーシュに良い影響を及ぼしていることを願った。
 スザクは正攻法で挑んだから高い地位を得た。ブリタニアを変え、特区を作る力となり得た。
 名誉ブリタニア人たるスザクが、底辺からのし上がれたのだ。頭の良いルルーシュにそれが出来ないわけがない。
 スザクとユーフェミアの幸福は、間違わなかった結果得たものだ。彼にそれが理解できていないはずがない。
 未だ強固な殻に閉じこもっているようだけれど、きっと。


(だからねえ、思い直して、僕はもう間違えたくないんだ)







スザクはいつから確信していたのだろうか。
それとも確信していることからさえも逃げていたのだろうか。
自己正当化をしようとした末に何もできないスザクさん

20080327








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