結末の形
「どういう、ことだ」
久しぶりの休日だからと誘われた、租界での買い物。何をするというわけでもなく、ただスザクとぶらぶら歩くだけだったが、学校はサボり気味で休日がほとんど合致しない二人にとっては共にいられる貴重な時間だった。
本当ならばナナリーもと考えたのだが、他ならぬ彼によって制止されていたのだ。二人っきりがいいから、ナナリーは呼ばないで。今思えば、スザクらしくない言葉だと疑うべきだった。
ゼロとしての活動から一歩抜け出た、気楽な一日――ルルーシュは、そのつもりでしかなかった、のに。
「あっはぁ、本当だ〜。生きていたんですねぇ、マリアンヌ妃の長子」
目の前にはひょろひょろした一人の男性。見覚えはあった。確か、アスプルンド家の人間だ。伯爵だというのにKMFに執心している、かつてのラクシャータの同僚。シュナイゼルと知己の間柄のはずだった。
彼だけだったなら覚え違いかと希望を抱くことはできた。しかし、その後ろに控える、数人の軍人。“お勧めの場所がある”と案内された場所には妙に人気がなく、それらの姿に気づいた時には手遅れだった。踵を返そうと振り向いた先にも、やはり数人の軍人――囲まれたのだ。
「君は、いえ貴方は、皇族だ。いるべき場所に、いるべきだと私は思います」
「スザク……お前、は」
愕然と見つめる先の彼の表情は、不思議なほどに凪いでいた。敢えて使われた敬語は、一体何を示しているのか。
親友だと信じていた、己は愚かだっただろうか。確かに彼は軍人であったが、しかしそれでスザクとの絆が切れたとは思いたくなかった。
「俺にとって、ブリタニアがどういう場所か知らないはずはないだろう?」
「私は軍人ですから。私情よりも職務を優先させる義務があります」
「俺を売ったのか」
「いいえ――騙し撃ちのような形になってしまったことには、謝罪いたします。申し訳ありませんルルーシュ殿下」
思わず口が滑ってしまったのだとか、ルルーシュ自身のミスだったのだとか、一縷の希望さえ消えうせた。スザクは、彼自身の意思で以って友情よりもブリタニアを選んだのだ。
その上、伯爵であるロイド・アスプルンドはスザクの上司だという。一体イレブンであるはずの彼が、どういう環境で働いていたのか。聞きたくもないし知りたくもないと、ルルーシュは目を逸らす。
「ナナリーは」
「既に保護の手配は整っています」
「保護、か」
終わりだ。例えここから逃げ出したとしても、既にルルーシュ生存の報は本国に届けられているのだろう。ギアス使ってもこの場だけは凌げるが、海を渡った先まで効力があるはずもない。
「……ルルーシュ殿下にとっては、確かにブリタニア皇族としての居場所は危険なのでしょう。しかし」
なんだ、とどこか投げやりに問うルルーシュに、言いよどんだスザクは顔を上げる。
「ゼロ」
どきりとした。真っ直ぐなスザクの言葉は、ルルーシュ自身に投げかけられているようで。
まさか、とスザクの目を見返すが、常に湛えていた柔らかい光を消した彼の心は窺い知れない。
ゼロは皇族を狙っている。ならば、ルルーシュはきちんと警備された場所にいなければならない、と。そう語るスザクはしかし、本心から言っているようにはどうしても思えない。
唖然とするルルーシュに、取り繕った敬語を捨てて彼は続ける。
「ゼロは間違っている。僕は、どんな手を使ってでも止めてみせる」
「スザ、ク?」
「……たとえ、それで友情を失うことになっても」
失礼しました、とスザクが下がり、代わりに伯爵たちがルルーシュに歩み寄る。
しかしルルーシュの耳には彼らの言葉は入らない。
スザクの言動はまるで、容疑者を軍に引き渡すとでも言うかのような――。
黒塗りの車に乗り込まされる時ふと聞こえてしまった、これで正しかったのだ、というスザクの沈鬱な呟きが、どうしても耳から離れなかった。
ランペルージ兄妹がアッシュフォード学園より失踪して数日後、死んだと思われていた皇子と皇女の生存の報がエリア11に駆け巡った。
そして、時期を前後してゼロの活動がぱたりと止んだ。
その二つの事件の関連性を知るものは少なく、そこにはただ疑惑と真実から口を閉ざす少年たちの姿だけがあった。
(偶然だと、そう信じなければ、どうしたらいいのかも分からない)
謎時間軸。
「間違ったこと」を続けていたらルルーシュはいつか不幸になる、それをとめるためにスザクは強硬手段をとった、というはなし?
スザクはこうするべきだった、というかここまでしてくれたら逆にすがすがしかったのに。
本当にゼロをとめたくて、内部から変えていきたいと思っていたのなら。
スザクにアンチが多いのは、色々中途半端だからなんじゃないかなあ。