良い天気。青空と、心地良い喧騒。
 一年に一度の行事、学園祭で、それは起こった。



平和的解決法?



 一般人も大歓迎、というか巻き込んで、生徒会主導の学園祭は大盛況だった。学園創設以来の最高来客数目指すわよ、と会長が叫んでいたが、本当にそうなってしまいそうだった。おそらくユーフェミアの筆頭騎士に任命された枢木スザクがいることも手伝っているのだろう。それに比例して生徒会メンバーは大忙しで、あのサボり魔ルルーシュでさえもいくつもの携帯と格闘していた。
 そして病弱という便利な称号のお陰でいくらかは余裕のあるカレンは、その噂の彼を背後から睨み付けていた。驚異的な勢いで食材を叩き切っていた彼は、次なる獲物――ではなく仕事を求めて無防備に人ごみを歩いている。
 無防備だけど、隙があるような、ないような。おそらく飛び掛れば直ぐにでもやりかえされるのだろう。カレンは確かに黒の騎士団におけるエースパイロットであったが、生身では普通よりも運動神経がいい程度の女の子でしかなく、異様な身体能力を誇る彼にはどう足掻いても届かない。
 しかしカレンは負けず嫌いだ。そしてゼロへの忠誠心は世界一であると自負している。ディートなんとかという記者? あれは変態だからノーカン。
 さて、一体どうすれば殺せるものか。小奇麗な顔に似合わぬ殺意を惜しげなく振りまいていると、スザクが振り返った。こちらも可愛い顔に似合わぬ、少々うんざりした様子で目を細めている。

「カレンさん、忙しいんじゃないの?」

 流石に空気を読めない彼も、周囲に気遣ってズバリな指摘はしない。

「間違った方法で以下略」

 まあ僕はどうせ君になんて殺されないけどね、という気配がありありと見えて、カレンの怒りは急上昇。
 しかし、今日のカレンは一味違うのだ。勢い任せで襲い掛からないように必死に理性を総動員し、息を吸う。大丈夫、騎士団の手配は完璧。成功させる自信もある。学園のあちらこちらに配備した仲間たちと アイコンタクトを結ぶ。よし、決行だ。
 クールになれと自分を励ましながら、カレンは――

「きゃあああああ!」

 ――叫んだ。
 どうしたどうしたと周囲の視線が集まる。へ、と間抜け面を見せるスザクに、カレンはほくそ笑……んではいけない。彼からよろりと距離を置き、必死に我が身を抱いて「私は被害者です!」という顔を作る。

「枢木スザク君が! ユーフェミアの騎士でイレブンの、白かぶ……じゃなくてランスロットのデヴァイサーの枢木スザクが、私の胸を触りました!」

 スザクの顔から血の気が引く。なぜ説明口調! しかも微妙に棒読みだった。
 唯でさえ彼は有名人なのに、そんなにしっかりと説明をされては最早スザクの言い訳など効力を発揮しないだろう。その上相手は美人で有名な名門シュタットフェルト家のお嬢様。カレンの正体を暴露したとしても、見苦しい最低の言い訳と世間は判断する。もみ消そうにも、人の口に戸は立てられない。抜け目なくカメラを回すディートハルトがこのスキャンダルを流せば完成だ。

「何だって、ユーフェミアの騎士の枢木スザクが痴漢!?」
「枢木スザクがシュタットフェルトのお嬢様の胸を触った!」

 周囲に配備された騎士団員が叫ぶ。おそらく今頃はあちらこちらで「枢木スザクが痴漢したんだってよ!」と大声で噂話する人間が発生しているだろう。全て、打ち合せ通りだ。
 やっぱりイレブンは最低、とかなんとかそんなブリタニア人学生の声も聞こえたが、絶好調のカレンの許容量は大幅増量キャンペーン中だ。でも顔は覚えた。

「カ、カレン、君っていう人は……!」

 呆然としていたスザクはやっと状況を把握したようにカレンを睨み据える。
 弱弱しく、駆け寄ってきた男性に支えられながら、しかしカレンの口は笑みを押さえきれない。これが、運動力でも反射神経でも敵わない、スザクへの捨て身の攻撃方法だった。
 下手な失敗や汚職よりも、痴漢だとかそういった性的犯罪は軽蔑されるもの。これでスザクの評判はユーフェミア共々ガタ落ちだ。変態騎士と、変態騎士の皇女……。もともと評判など底辺だったのだ、挽回するチャンスなど、ない。

「貴方を抹殺しようと思って、ね」

 抵抗する気力もなく取り押さえられるスザクに、ふふ、とカレンは囁いた。

「社会的に」



(まままままま間違った方法で得たものにー! ちょ、ちょっと聞いてよ僕の話! やってない、本当にやってないってば!)







こんな感じでよかったんじゃね?
*痴漢も痴漢騙りも最低です。良い子は、というか良い子でなくても真似しないで下さい

20080328








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