逸らした目の向こう側



 ち、と病弱と称するお嬢様は、お嬢様らしくない舌打ちを響かせた。
 また来やがったか。

「いい加減目を覚ますんだ、カレン」
「起きてるわよ?」
「そういう意味じゃない」
「分かって言ってるのよ。馬鹿なの、貴方」

 見るものが見れば卒倒するような応酬だが、慣れたように彼らは続ける。
 あの無人島での邂逅から、幾度となく続けられてきた説得。軍に通報されないことには素直に感謝するが、それを上回る不快感がカレンの眉をひそめさせる。カレンはスザクの敵なのだと、どうして分からないのだろう。会うたびに繰り返される言葉に殺意が芽生えるが、さすがは職業軍人というべきか、どうしてか彼には隙がない。そのことが更に彼女を不機嫌にさせた。

「私は好きでゼロに従っているの。貴方にとやかく言われる筋合いはないわ」
「彼はテロリストだ! どうして分からない」
「テロリストが何よ名誉ブリタニア人。誇りを失うくらいなら私は死んだ方がマシよ」

 いつだって会話は平行線。どちらにも歩み寄る気は皆無だった。これまで散々に刃を交えてきたのだ、今更言葉に力が宿るとは思えない。そんなことで解決するならきっと、日本はブリタニアに征服されなかったし、兄も死ななかった。

「そんな説得、いつまで続けるつもり? いまに殺してやるんだから」
「ゼロの命令か?」
「見損なわないで。ゼロはそんな命令、しないわ」
「ゼロはシャーリーのお父さんを殺したじゃないか。それでも彼に味方するのか」
「……直接手を下したのは、私」
「ゼロの命令だろう!」
「見損なわないで。全て、私の意志よ」

 君はだまされているんだとか何だとかお決まりの台詞が続く。ここまでそっけなくしているのに、へこたれる様子を微塵も見せない男も珍しい。
 なぜ彼はカレンを説得するのだろう。クラスメイトだから? 同じ生徒会に所属しているから? これは、情けなのだろうか。どうせなら戦闘で情けをかけてくれれば、その隙に殺せるのに。
 ため息をついて、彼女はスザクに向き直る。さすがに敬愛するゼロをこう貶されるのは我慢がならなかった。

「ゼロの何が間違っているというのよ」
「外側から無理やり世界を変えたって、意味がないんだ。正当な手段を取るべきだ」
「……そうじゃなくって」

 正当な手段も何も、ナンバーズに何がやれるというのだろう。スザクの例は異常なのだという事を把握して欲しい。努力すればナンバーズも伸し上がれるというのなら、そもそも差別なんて存在しなかった。ブリタニア人の全てがユーフェミアというわけではないのだ、決して。
 聞き飽きたそれを一蹴して、彼女は続ける。

「ゼロの方法が間違ってるのは、分かったわ。百歩譲ってだけれど」
「だったら」
「ねえスザク。だから、貴方はゼロの、どこが間違っていると思うの?」
 方法、方法、方法。
 スザクが執着するそれの、一体なにが重要だと言うのだろう。彼はゼロのやり方を批判してばかりいるが、結局その主義主張はどう捉えているのか。
 弱いものの味方と叫び、人種問わずに救いの手を差し伸べるゼロ。
 たくさんの結果を残す彼を、どうして全て否定するのか、カレンには分からない。
 そもそも方法方法というが、ゼロはそんなに違法染みたことをしただろうか?
 クロヴィス暗殺は、確かに違法だろう。だが、彼は日本人を蔑視した。
 河口湖では人質を救出した。軍が出来なかったことをやってあげたのに、非難される筋合いはあるのだろうか?
 イレブンから搾取する悪を打ち倒した。確かに国家から承認された資格を持つわけでもないが、そう主張したいならまずはブリタニアが取締りを強化する義務がある。
 何が悪い? どれが悪い? 自分のことを棚にあげて人を非難する権利なんてあるの?
 唇をかみ締めて、スザクは喘ぐように答える。

「だから、方法、が」

 もういいわ、とカレンは背を向ける。
 方法しか間違っていないのならば、政権をゼロが握ればいい。難しいけれど不可能だとは思わない。その程度で解決するそれにしがみ付くスザクが、いっそかわいそうださえ思った。

「何よ、結局貴方は、手を汚したくないだけじゃない」

 正しい方法ならば、間違った結果を導いてもいいのだろうか。



(ゼロのやることなら全部正しいのに、なんでわからないの?)







最後がちょっと納得いかないのでそのうち修正する、かも
ルルがゼロだって疑惑抱きながらカレンを説得するスザクの方も色々切実だろうなあ
逆にゼロの正体知ったときのカレンは、スザクの説得をどう思い出すんだろう
盲目なのは、二人とも

20080328








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