本日の黒の騎士団の団員は――。
第四十三回仮面内部邪推会議
「絶対不細工なんだって。違いない。だから隠してんだよ」
「確かに反逆者のリーダーなのに容姿が残念だと、かっこわるいしな」
「そんなわけあるものか! カオスの権化はやはり美しい容ぼ……」
「アンタは黙ってなさい」
「んー。少なくともスタイルはいいわよね」
「良いかなあ……テロリストやるには貧弱すぎない?」
「テロリストじゃなくって、俺たちは正義の味方だろ?」
――暇を持て余していた。
ゼロは何やら忙しいらしく、この数日は顔――顔?――を見せていない。何をすれば良いか分からない彼らはただお茶菓子を囲んで駄弁っていた。作戦においては各々の性格を知り尽くしていなければならない。そのためのコミュニケーション中、というのが建前だ。
「日本人じゃないって露見すると体面も悪いし、彼の日常生活にも支障をきたすから隠す、ってだけだろ?」
正論を述べる扇に、白い視線が集まる。つまんねー。玉城の一言が彼の心臓に突き刺さった。
そんなこと、皆わかっているのだ。幹部にさえ晒さないというのは腑に落ちないものの、ゼロにはゼロの事情があるのだろう。あれだけの頭脳があるのならば、地位ある人間である可能性も否定できない。そもそも仮面の中身がどうであれ、彼に付いていく決心は既に付いているのだ。それでも邪推会議を開くのは、偏に暇だからだ。
「そういえば知ってたか? ゼロって童貞なんだってさ」
ちょっ。
コップが床に落ちて割れる音がした。童貞ってえ、童貞? ゼロって何歳だ?
その衝撃の発言をした団員のソースの信頼度は微妙なところだったが、その情報の出所はCCとゼロの言い争いを偶然聞いてしまった人間だという。ということはCCに会う機会のある幹部に近い人間ではないのだろうか。愛人に童貞と言われるゼロ。その不憫さに団員の一部(もてない)が涙ぐんだ。
「童貞って……扇と同レベルかよ」
総司令と副指令両方が童貞。別に性体験が何でどうというわけではないが、男所帯にあってそれは微妙な上下関係を生む。英雄なら二、三十人は喰えるというのが男のロマンだ。なのに童貞。
扇はまあそれでも、こういう性格でこういう顔だしな、とあきらめの境地で周囲の人間が視線を向ける。が。
「え? 俺は……」
その反応は、図星というよりかは意表をつかれたというようなもので、一種の余裕のようなものさえ漂っていた。
もしかして非童貞か!
「嘘だろ扇、てめえ! 相手は誰だ。美人か? 美人なわけないよな、お前の相手だもんな!?」
「いいから、その話題終了!」
カレンが真っ赤になって玉城をぶっ飛ばす。現役高校生であり、レジスタンスとしてバリバリ前線に出ていた彼女には縁のない話だ。
総司令が童貞なのは微妙だが、エースパイロットが処女って結構いいよな、と一部の団員が思った。一度も攻め入ったことのない兵士と、攻め入られたことのない城。間違いなく後者の方が強い。でも口には出さない。怖いから。死にそうにピクピクと痙攣する玉城が足元に転がっていた。
「つまり不細工ってことか」
「センスも……アレだしな」
「チューリップだしな」
ならばCCが愛人疑惑を向けられていい顔をしなかったのも納得できた。なるほど顔か。彼女の美貌は、美人であるカレンの横に立っても見劣りしない。密かに恋慕していた団員の一人がガッツポーズを取った。
ふむふむと彼らが頷いていると、カツンカツンという特徴的な足音がトレーラーに響き渡った。
やっべ、ゼロだ。女性経験もゼロのゼロだ。慌てて姿勢を取り繕い、総司令に挨拶を向ける。
話題の彼が登場だ。彼は一瞬だけ身悶える玉城に視線を向けたが、直ぐに顔を上げた。別に異常はないな。
「……ん? どうした」
鈍い彼ではあったが、団員の薄ら笑いに気づかないほどではない。気味が悪いと仮面の奥で眉をひそめる。
「いえ、いつもお疲れ様です!」
「あ、ああ?」
彼らの生暖かい視線の理由に、ゼロは気づかない。
(もしかして日常生活でも仮面被ってんじゃね?)(あー。だったら童貞なのも頷けるな)
リクエストは「騎士団の皆が、ゼロについて邪推する話」でした。
ナチュラルに下ネタでごめんなさい><
20080407