「あれ? そういえばルルーシュって皇族だよね。なんでこんなところにいるの?」
シャラップ!
ぽかん、と生徒会室の空気が固まった。
ミレイの残した書類を大急ぎで片付けるという日常に投げ込まれた一言。待って、今なんて言ったそこのイレブン。別に彼らは必要以上にナンバーズの差別をしている者たちではなかったし、寧ろスザクという存在によって分かり合え始めていたのだが、この時ばかりはついつい思ってしまった。もしかしてイレブンって馬鹿なの?
いいえ馬鹿なのは枢木スザクお一人ですと言わんばかりに、ミレイが笑い飛ばす。
「な、何言ってるのよスザク? ルルちゃんがそんなすごいわけないじゃない」
「え? そうでもなきゃ当時総理大臣だった父の所に来るわけないですよ。あはは、すっかり忘れてた」
「い、いやあのねスザク? ちょっと――」
「ねえ、ルルーシュ?」
そのやり取りに欠席したカレンを除く生徒会メンバーマイナス三人イコール三人は話題の人を見る。さらさらと流れるような黒髪に透き通るような肌。いつも通り美人だが、いつにも況して動きが悪い。というか動いていない。穴が開くほど書類を熱烈に見つめているが、それは既に処理済だ。
「昔一緒に遊んだ記憶はあったんだけど、何で君たちが来たのかすっかり忘れてたよ。……色々、あったし」
一人しんみりモードに入る彼には誰も追いつけない。
まあ確かに子供にとって、世界情勢だの皇族だの総理大臣だの戦争だのはどうでもいいことなのかもしれない。強烈な体験をしたルルーシュと違い、スザクは云わば温室育ちだ。肩書き上では同等の身分を持っていたから気遣う必要もなかった。その上自ら壊したその温室の破片にばかり気を取られて、ルルーシュのことに気が回らなかったのも仕方ないといえる、かもしれない?
それを見たミレイがなぜか焦っている。彼女はアッシュフォードの人間であり爵位も持っていた……真実を知っていたとしても、全くおかしいところはない。
「ス、スザク? ルルが皇族ならどうしてこんな場所にいるのよ」
「そうそう。授業もサボりまくりで賭けチェスもやる皇族様なんているわけがないよなあ! あははははは」
否定しなければならないと思った彼らはミレイに味方する。ありえない。あってはいけない。友人がそんな皇族だなんて凄い――雲の上すぎて何が凄いのかさえ分からないくらい凄い人間であってはならない。
しかし相手はスザクだ。そして空気は読めない。彼の元では全ての空気さんがひれ伏すだろう。
「あれ、ごめん。隠してたんだ」
生徒会室の空気さんは呆気を通しこして白くなった。
元々彼は冗談なんてほとんど吐かない。良くも悪くも常に物事には真面目に取り組んでいる。その結果がどうであれ、姿勢は間違いなく評価されている。
そして未だに固まったまま動かないルルーシュは、冷静沈着な人間と評価されている。しかし、予想外の自体には対処できないという欠点もまた周知の事である。
「ル、ルル? 嘘だよね、うそだよねっ!?」
「当たり前じゃないシャーリー。スザクの冗談よ、ね、ルルーシュ」
引きつった笑いでミレイが彼の頭を叩く。戻ってきなさい現実に。なんでもいいから返事をしなさい。
叩いた勢いなのか彼自身の意思なのかは不明だが、ルルーシュがかくりと首肯する。よし、このまま誤魔化せ。そうミレイが意気込んだ瞬間、思わぬ場所から止めが刺された。ニーナだ。
「本当だ。ルルーシュとナナリーって名前、あるよ。マリアンヌ様って聞いたことあるけど……確かアッシュフォード家が支援してなかった?」
ダークホースがここに。ニーナもまた、スザクとは方向性が違うが、人とのコミュニケーションを円滑に取れないという意味では空気の読めない人間だった。
やけに静かだと思っていたら検索をしていたらしい。流石情報社会。流石物理娘。流石皇族大好きっ子。
真っ青になったミレイがパソコンのコンセントを引っこ抜く。
「あ、ちょっとミレイちゃん、まだ研究保存してない!」
「黙らっしゃい!」
スザクの言葉と止まったルルーシュ、ニーナによる検索結果とそして何よりも焦燥しまくりのミレイを見て、事情を知らなかったリヴァルとシャーリーも確信してしまう。
言われてみれば納得できないこともないのだ。彼は黙っていても気品が溢れていたし、美形揃いの皇族の中にあっても見劣りしない。
ミレイに八つ当たりのように再び叩かれてやっと現実に戻ってきたルルーシュは、そんな彼らの姿を見て苦笑した。
「……黙っていたのは悪かった。でも、誰にも言わないでくれるか? 隠れてるんだ」
「そりゃいいけど……その、理由、聞いてもいいか?」
恐る恐るといった態で尋ねるリヴァル。ルルーシュも焦ったが、彼もまた驚きに頭がついていっていないに違いない。
「皇族は面倒だからな」
辛い過去なんて話しても意味がないし、友人たちに同情なんてされたくはない。身分がバレたとしても今まで通りに過ごしたい。ルルーシュはただのルルーシュ・ランペルージだ。不真面目でそこそこ頭がよく、適当に日々を過ごす一般人。それでいいのだ。
完全には納得していないだろうが、彼らは笑ってルルーシュの言葉を受け入れた。やはりルルーシュはルルーシュなのだ。
「大変だったよね、人質として送られた時には」
――しかし同時に、スザクもまたスザクだった。
「スザク、ちょっと黙りなさい」
「別に嘘とかついてないですよ?」
「それが悪いの!」
ベコベコベコと、未処理の書類を丸めてスザクを殴りつけるミレイ。痛いですよと笑うスザクに、いとも簡単に無視された空気さんが泣いた。
頭を抱えるルルーシュに生暖かい視線が集まる。大変な過去があるんだねルルーシュ。今も大変そうだけれど。
「人質とかそういうことは覚えてるのに、どうして今隠れてるってことに思い当たらないの? 危険なのよルルーシュとナナリーは!」
「え? 大丈夫ですよ」
珍しく真顔で怒るミレイに、平然とスザクは答えた。
「僕が守りますから」
(…………なんなのこの状況)
「生徒会室で皇子バレでギャグ。スザルル。」でした。
スザク→ルルですね、寧ろ。すみません。
彼が普通に軍にいたり騎士になっちゃったりしたのは全部忘れてたからですきっと。それでいいじゃない。
もうスザクはただの馬鹿ってことでいいんです。馬鹿って大好きです。
20080407