差し伸べる手を取る前に



 全く、なんで俺がこんなことを。黒い正装と女性たちの眼差しを一身に受けながら、ルルーシュはため息を吐いた。
 今日は生徒会主導のダンスパーティー。なぜパーティーを開催しているのか。会長の気分とやらを解剖してみれば分かるのかもしれない。

「なーにため息なんてついちゃってるの、ルルーシュ」
「ああ、面倒だなと思ってな」

 妙に浮かれているリヴァルに、ルルーシュは心底辟易といった口調で返す。
 ゼロとして立ち上がったばかりの彼はこんなことをしている場合ではないと逃げたいのが本心であり、実際にカレンは病欠と称したサボタージュ中だ。入団希望者が増えたことによる雑務処理が大量に残っているのだ。
 しかも編入したばかりのスザクもまた忙しいとかで軍に戻ってしまった。まだイレブンへの偏見がある人間も多いパーティーに参加することに遠慮しているのかもしれないが、彼に遠慮という二文字は似合わない。そういえば服もおそらく持ってはいないのだろう。次は巻き込む、とルルーシュは心に誓った。旅は道連れだ。
 モラトリアムを楽しみたいという気持ちはに分かったが、遊び暮らし将来の対策を何もしなければ、時間切れが待つだけだ。
 はあ、と再びため息をつく彼のもの憂げさに、女性とがうっとりとする。その割りに誰も彼に話しかけないのは、互いに牽制しあっているのか、恐れ多すぎて近づけないのか。

「シャーリー遅いな。ルルーシュの姿見たら感激するぜ、絶対」
「お前の待っているのは会長だろ、リヴァル? ダンスを申し込んだらどうだ。似合ってるぞ」
「……ルルーシュに似合ってるとか言われても嬉しくないなあ」

 リヴァルも良家の子女だ。華美ではないがセンスの良く、上等なダンス服をしっかりと着こなしていた。しかしそれでもルルーシュの横に立つと霞んで見えてしまう。黒を基調としたその正装はさながら白馬に乗った皇子様だ。女生徒たちが騒ぐのも理解できた。
 しかし当の本人は自分の容姿には無頓着で、本日何度目かのため息を吐く。寧ろブリタニア本国から逃げ回っている彼にとってその目立つ容貌は邪魔としか言えなかった。
 踊ることもせずに気だるげに壁に寄りかかる二人の耳に、突如歓声が届いた。入り口の方に注目が集まっている。そちらに目を向けると、案の定そこからミレイたちが現れた。

「わ、さすがね、ルルちゃん」

 満足そうに微笑むミレイもまた、流石だと言えた。水色を基調とした滑らかな生地は彼女の綺麗な金髪に非常に映えていた。大きく開いた胸元が豊満な胸を強調し、大きなアクアマリンの取り付けられたネックレスが華やかさを際立たせていた。

「遅いですよ、開催者」
「でも皆好き勝手やってるじゃない。慣れたものよねー」
「慣れてしまうくらいに色んな行事をやってしまう人間がいますからね」

 慣れざるを得ない、ということだ。
 ミレイの美貌に顔を赤くするリヴァルにルルーシュは笑う。健全な男子に、好きな女性のこの姿は毒だろう。人の恋愛などに首を突っ込む気は全くなかったが、悪友の惚けた顔は面白い。
 その笑みに気づいた彼は、少々裏返った声で矛先を変えた。

「に、似合うじゃんシャーリー。なあ、ルルーシュ?」
「あわわあわ! ちょ、ちょっとリヴァル!」

 余裕を見せるアッシュフォードの一人娘の横で、初々しく恥らうのがシャーリーだ。大胆に開けられた背中とスリットが彼女の健康美を顕わにしている。珍しく一つに纏められた髪から除くうなじが、常にはない色気をかもし出していた。
 そして彼女に車椅子を押されるナナリーも、控えめなドレスを着ていた。白くふわふわとしたレースが儚げにゆれている。小さなクリスタルのイヤリングがシャンデリアの光を反射して輝いていた。
 ミレイとシャーリーとナナリーと。方向性は違えど見るものを惹きつける花を持つ彼女らが集う。

「本当だ。綺麗だよシャーリー。ああ、ナナリーも可愛いよ」
「え、あ、あっ……あ、ありがとっ」
「ありがとうございます、お兄様」

 社交辞令だったかもしれない。しかし、好きな男性に貰って嬉しい言葉はこれ以上にはないだろう。そもそもルルーシュは強いてお世辞などは言わない人間だし、彼の最愛の妹と同列に扱われたことが彼女を舞い上がらせた。
 ルルも似合っていると蚊の鳴くような声で囁くシャーリーに、ミレイとリヴァルが笑う。二人で踊ってきなさい。そうミレイがシャーリーの背中を押すと、文字通り彼女は飛び上がった。そんな、そんな、そんな。ルルと踊るなんて、いやもちろん踊りたいけれど。
 彼女の葛藤の殆どに気づかずルルーシュは気取った笑みを浮かべてシャーリーに手を差し伸べた。どうせ閉会するまではつき合わされるのだ、少しくらい踊ってもいいだろう。

「では、一曲お付き合いいただけますか? お姫様」
「お、おひめっ!? っていいのルル?」
「いいもなにもないだろ、ダンスパーティーなんだから。それとも俺とじゃ嫌か?」
「嫌じゃない嫌じゃない嫌じゃない!」

 シャーリーの勢いに少し圧倒されながらも、優雅にルルーシュは彼女の腰を抱く。ゆったりとしたテンポと滑るような動きで、緊張でガチガチになったシャーリーを上手にリードする。周囲の生徒たちから向けられる眼差しは羨望を通り越して感嘆の域に達している。
 そして残されたのはミレイとリヴァルだ。俺も誘うべきか、でも。葛藤する彼の視線の先にはルルーシュ。自分はどう逆立ちをしてもあんな風にはなれない。お姫様、なんて手を伸ばしても滑稽なだけだ。

「あれ? 会長、そういえばニーナは?」
「こういうの苦手じゃない、あの子。裏方に回ってもらってるわ」
「そ、そうですか」

 話が途切れる。いつものように話しかけたいが、彼女を直視できないのだ。どうしても視線が胸元へいってしまいそうになる。
 もう駄目だ死ぬしかと頭を抱えたい気持ちになったリヴァルに、ミレイが快活に笑った。

「楽しそうねえ、シャーリーとルルーシュ。私たちも踊る?」
「え、えっ? いいんですか?」
「なぁにシャーリーと同じこと言ってるのよ。ほれほれ、苦手なら私がリードしてあげるから」
「会長、それだけは情けなくなるのでやめてください……」

 ミレイの技術ならばリヴァルを引き立たせることくらい容易だろう。だが情けないと振り払うには、彼女と踊れるという誘惑が勝っていた。
 しかしナナリーを一人きりにするのはどうなのだろう。彼女の兄に怒られてしまわないか?

「私なら大丈夫ですよ。どうぞ踊ってきてください」
「ごめんねー。んじゃ、一曲付き合ってくれる? 王子様」

 ルルーシュをふざけて真似るミレイの手に、眉尻を下げたリヴァルが合わせようとした、その瞬間。

「日本解放戦線だ! この会場は今から我々が支配する!」

 割れ散るガラス。鳴り響く軽い音は、銃声?
 咄嗟にミレイを腕の中に庇う。腕の中に収められない己の背の低さが恨めしい。
 いつのまにか、パーティー会場はイレブンによって取り囲まれていた。テロだ――。誰かの叫び声で、状況を理解する。七年前に征服された彼らはしかし諦めずに未だに租界、ゲットーを問わずにテロに勤しんでいるという事実は知っていた。だが、まさかここが標的になるなんて。

「学生は隅に固まって座れ。騒いだら殺すぞ!」

 瞬時に破壊された会場の中、銃声に悲鳴を押し殺して生徒たちは指示に従う。治安の悪いエリア11に住んでいる彼らは、テロに遭遇してしまったときの対処も一応は学んでいた。無謀に噛み付いてはならない。静かに、ブリタニア軍が助けてくれるのを待つ。
 踊り始める前でよかった。。ナナリーの車椅子を押しながらリヴァルは思う。盲目で足も不自由な彼女を一人きりにしていたら、事態はどうなったことか。他の生徒たちと違い動けずにじっとしていたことが幸いしたのか、怪我をした様子はない
 お兄様は、とナナリーが不安げに囁く。この混乱の中で彼らの姿は見えない。けが人は出たようだが死人はまだいないらしいことが救いだ。ルルーシュのことだからシャーリーに庇われたのかもしれないが、一応は無事と見ていいだろう。
 大丈夫、このままおとなしくしていれば。ブリタニア軍の力は強大だったし、アッシュフォードは良家の子息の揃う学校だ。見捨てられることはないだろう。
 日本解放戦線の人間に見咎められない程度に、辺りを見渡す。大丈夫、あの時折妙な正義感を見せる友人だって、敢えてこの場で騒ぎを大きくしたりはしまい――。



(せっかく、踊れると思ったのに)







リクエストは「学校でダンスパーティー中に日本解放戦線によるテロ→生徒が人質に。ルルがギアス無しで四聖剣を説得、味方に。ついでに皇族バレ」でした。
長くなってしまったので前編後編に分けます。
ドレスの描写とかさっぱり分かりません><

20080408








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