これならば。CCはルルーシュを見据えながら、小さくつぶやいた。これならば、ルルーシュの望みは叶うだろう。
 では、自分は?



壊れた時計と進む針



 捕らえられていた黒の騎士団の団員たち。彼らを救い出したゼロは、初めてその素顔を晒した。カレンを含む騎士団の残党には既にその素顔は知れていたのだ、今更隠す必要もない。
 何をどう繕おうと、ルルーシュが戦場を捨てて私情に走ったことは変えられない。再びゼロとして騎士団を纏め上げようと思うのならば、誠意を見せなければならないのだと彼は語った。

「久しぶり、そして初めまして。私が、ゼロだ」

 ゼロは学生である。ゼロはブリタニア人である。ゼロは。
 彼らは困惑した。ゼロの軟弱さは(……暗黙の了解ではあるが)全ての人が知っていた。しかし、あの知略。あのカリスマ。よもや、こんな子供だとは誰一人として想定していなかったのだ。
 余りにも頼りない。日本の命運をこんな学生に任せていいものか。CCには彼らの心の動きが手に取るように分かった。
 一度見捨てられた彼らは疑心暗鬼となる。偽者ではという声さえもあがった。

「強制はしない。私が信じられなくとも当然だろう」

 殊勝なことを言っている割には彼の表情は変わらない。それは却ってこの演説が演技ではないのだと証明しているかのようだった。演出過剰な彼ならば、学生でありながらゼロにならざるを得なかった理由を、涙混じりに語ることくらい容易い。
 まあ今更ゼロが人間らしい弱さを見せたところで彼らは戸惑うだけだろう。仮面を脱いだことにより僅かな親近感を作り出すのは良いが、馬鹿にされるような事態はあってはならない。
 ただ堂々と、日本を取り戻すに相応しい風格を見せ付ける。人を殺す指示だとて、必要ならば躊躇わないのだと。

「だが。私はやさしい世界を作る。その目的だけは、変わらない」

 しかし、誰がどう問おうともゼロとなった理由には口を閉ざす。一瞬だけ翳った彼の瞳は、過去に見た何かを見据える。
 流石に皇族であったことを正直に告げることができない。ならば、適当な嘘でも捏造すればいいじゃないか。そうCCは彼に言った。だが嘘にはリスクが伴うのだという。既にルルーシュの生存は皇帝の知れるところとなり、彼のことを熟知するスザクの存在もある。どこで露見するか分からない嘘をつくならば、黙秘するのが得策だ、と。
 少なからぬ不審をも煽っているような気もしたが、まあCCには関係のない話だ。……そう、関係がない。
 団員がどういう答えを出そうともCCのポジションは変わらない。ただ世界に介入できない魔女として、契約者の傍に寄り添うだけだ。

「ちょ、ちょ、ちょ、ルルーシュ! 何やってるの!」

 興味はない。そう思って明後日の方向を見ていると、なにやら焦ったようなカレンの声が耳朶を打った。それに呼応するように団員たちもざわめき、一体何事だろうかと舞台を見る、と。
 ――ちょっと待て。

「何って……お前が教えてくれたんだろうが」
「で、でもそんな、あんたがやるつもりだったなんて思わなかったわよ!」
「全く、最悪な文化だな。これは日本の汚点じゃないのか?」
「文化っていうか、やる人いないわよ、多分あんまり」
「……なんだと? 嘘をついたのか」
「嘘とかそういうんじゃなくて……」

 そういえばこの集会の前に、ルルーシュとカレンはなにやら会話をしていた。「日本人風の謝罪の仕方とはどういうものがあるんだ?」「え? ええと、土下座かしら?」「土下座?」「まずは正座してね……」
 単なる世間話かと思って聞いていたのだが、これはどういうことなのか。
 ルルーシュはプライドが高い。人に感謝の言葉を告げるのは稀であったし、自分の非を認めることなど更にあり得ない。そもそも彼自身、馬鹿にされる事態はあってはならない云々と断言していたはずだというのに。
 なぜ奴は地面に膝を付いて団員たちに頭を下げているのか。

「い、いいから。とにかく立って。ああもう汚れちゃって」
「……な、なんなんだ。ここまでやったのに、俺はっ」
「うん、ちゃんと気持ちは伝わった。でももうやめて」

 阿呆だ。紛うことなき阿呆だ。
 永年の時を経た魔女でさえも呆気に取られる行動を起こしたルルーシュに苦笑が巻き起こる。あーあ、結局馬鹿にされてる。まあ私には関係がないがと彼女はため息をついたが、なにやら様子が違った。
 気づけば騎士団員の中でルルーシュの理解者となっていたカレンが無理やり彼の腕を取ってたたせる。確かに彼は馬鹿にされていたが、しかしそこに侮蔑の色はなかった。

「ったく。あんたって意外と間抜けよね」
「俺は真面目にやってるんだが」
「ああ、……不器用なのね」

 ゼロは人間であった。それは弱者であるという意味ではない。血の通った心を持ち、共に歩もうという意思を持った一人の人間なのだ。
 ルルーシュ本人さえも気づいていない。だが、どうにか黒の騎士団は再び団結の意志を持ち始めた。
 そもそも彼らがどう躊躇しようとブリタニアに立ち向かう力を持てるリーダーはゼロしかいないのだ。それは彼が離脱して即崩壊した、あの戦いで心底身に染みて感じていた。彼がいなければ日本は取り戻せない。
 それが分かっていたからこそブリタニアから逃れた騎士団の残党はルルーシュを望んだのだ。卜部たちは犠牲となってまで彼を守り抜いたのだ。ゼロから離反するということは――その遺志を、無駄にすることになってしまう。
 ゼロは裏切ったのではなかった。今後も日本のために戦う、その意志は誠意と共に証明された。最早黒の騎士団を捨てる理由などない。

「……意外とすんなり収まるものだな」

 CCは呟く。烏合の衆を取りまとめたルルーシュなのだ、当然の結果であったのかもしれない。それでもCCは意外に思った。思って、しまった。
 王の力は彼を孤独にする。CCの契約者は全て独りだった、だから、ルルーシュにはCCしかいないのだと。無意識にそう信じていた。
 なのに現実はルルーシュにとって良い方向へ進んでいる。過去の黒の騎士団はそれぞれがバラバラだった。だが、崩壊を乗り越えた彼らは強固に結びつきつつあった。このまま行けばルルーシュは彼自身の望みをかなえることが出来るかもしれない。真の意味での仲間を得ることができるかもしれない。
 ――では、CCは?
 団員がどういう答えを出そうともCCのポジションは変わらない。世界に介入できない魔女は、彼の仲間にはなりえない。契約者が寄り添う者を必要としなくなったなら、魔女は一体どこへ行けばよいのだろうか。
 一年の時を経て、人間に戻った魔王の時は。
 魔女を置いて進み続ける。



(私は変わらない。変わることが出来ない、だから)







もうルルーシュは土下座でもして謝罪して、禍根を残さずにすっきりと騎士団のリーダーに戻ればいいのに。
それはそうとルルーシュがルルーシュとして騎士団に受け入れられたら、CCの存在意義がちょっと霞みますよね。それは(私が)困る。

20080417












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