主を亡くした騎士二人



 枢木スザクが帰国――いや来日?――するらしい。長らく日本を離れていた彼は一体どういう思いでこの地に再び足をつけるのだろうか。新しい総督が赴任するまでの間代理執行官を勤めることとなったギルバートは小さくため息をついた。
 一度ゼロを捕らえた彼なのだ、蘇った奴を再び葬るには彼が適任に違いない。
 ――そう、ギルバートではなく。
 最初はコーネリアの命じるまま、国是に従い彼を見下していた。だが今はどうだ。いつの間にか彼は権力の階段を登り詰め、今では円卓に座すことさえ許されている。スタートラインでは明らかにギルバートが有利に立っていたはずだというのに。
 ゼロの素顔。死んだはずの彼が生きていた理由。彼はどこまで知っているのだろうか。
 一人で思考に浸っている彼の前にスザクが現れる。今は私情は捨てるべきだ。嘗て同様の経緯で代理執行官の座を得たジェレミアの末路は酷いものだった。轍を踏むような真似は避けなければならない。 あの最悪な状況下で軍に所属し続けた彼の選択は、確かにプライドだけ成り立つものではなかっただろう。彼の行動様式は全てブリタニアを思ってとの事だったが、余りにゼロに執着しすぎたのが悪かった。
 そして彼の前に姿を現したスザクの瞳は間違いなく怒りに淀んでいて。

「お久しぶりですね」
「ええ、お久しぶりです、ギルフォード卿」

 対ゼロの方針や指揮系統について事務的に語り合う。以前はころころと表情を変えていたように思う彼の表情は、今では凍りついたままぴくりとも動かない。
 特別親しいわけではなかったから、彼の本質などを知った風に語ることはできない。しかしそれでも痛ましく思った。それは時を同じくして夭折した姉妹の騎士であったという、彼の同族意識から来たものかもしれない。
 コーネリアとユーフェミアの姉妹はとても仲が良かった。ナンバーズへの意識の相違から反発しあうこともあり、その矢面に立つスザクとギルバートが親しくする機会は結局やってはこなかったが、それでも互いを意識しあっていた。

「ではこれからはゼロに関しては俺の指示に従っていただくということでよろしいですか」
「はい。よろしくお願いします。……ああ、特派は?」
「連れてきました。慣れた場所の方が良いとのことですから、また大学に場所を借りています」
「分かりました」

 用件さえ伝えれば終わりとばかりに踵を返そうとするスザクを、思わずギルバートは引き止めた。
 このままではいけない。このまま彼を行かせてしまえば、何かとてつもない過ちを犯してしまうのではないかという気がした。
 ゼロへの執着で身を滅ぼした者は多い。ジェレミアは死んだ。なぜかゼロを懐に入れようとしたユーフェミアも死んだ。復讐に燃えたコーネリアも、また。

「あなたは、何のためにゼロと戦うのですか?」

 彼に従った黒の騎士団さえも壊滅した。ゼロとの関与は破滅を呼ぶ、それは自明の事だというのに。どうしてゼロはこんなにも人の心を掴んで放してくれないのだろうか。
 胡乱げに眉を寄せるスザクに、ギルバートは宣言する。

「私は、姫様の名において戦います」

 カラレス総督死去の際にも放った言葉を、もう一度改めて口に乗せる。
 コーネリア・リ・ブリタニア。ブリタニア皇女の名は重い。重すぎるこれを胸を張って背負い続けたコーネリアは一体どのような気持ちでいたのだろうか。弱音を吐かない彼女の心中など、一番近くに控えていたギルバートでさえも想像するより他はない。
 ギルバートはただの騎士でしかなく、それ故に騎士以上の役割など果たせなかった。今更ながらにそれを悔いる。

「俺も、同じですよ」

 ユフィのために戦う。そう告げて、スザクは少しだけ視線を落とした。そしてゼロを殺すため。
 体面を繕うことはいくらでも出来た。ブリタニアのために。日本のために。そのはずなのに本心を語ったのは、彼のほうでも同族意識のようなものを感じているのかもしれなかった。
 しかしそれに対するギルバートは、彼の返答に目を瞠った。
 日本人である彼は、日本人を殺す命令を下した彼女のことを裏切り者だとは思っていないのだろうか? 死んだユーフェミアから早々に主君を入れ替えた彼の裡は、既に彼女を見限ったものと思っていた。彼女が死んだ直後に乗り換えるように皇帝の騎士となったというのに、未だユーフェミアを慕っているという彼の考えは、コーネリアただ一人を主君とする騎士たるギルバートには理解できない。
 確かにあの優しいユーフェミアの変貌には違和感があった。しかし彼女自身が虐殺命令を下したのもまた現実に起こった出来事で。一体あの場で何があったのか、何が真実なのか。それは当事者にしか分からないのだろう。

「……違いますよ」
「何が、ですか?」

 けれどそれは今はいい。問い詰めたい気持ちもあったが、そのような権限は彼にはない。
 ただギルバートは、嘗て共に戦ったものとしてスザクが気がかりだった。
 ユーフェミア・リ・ブリタニア。ブリタニア皇女の名は重い。しかし彼女の荷のほとんどはコーネリアに預けられていたようにも思う。それが悪いというわけではない。責任は過保護すぎるコーネリア自身にもあったし、彼女はまだ幼かったのだ。だが、あの虐殺命令は一体なんだったのか、ユーフェミアの心中などギルバートには想像もできない。
 スザクはしかしただの騎士ではなく、騎士以上の役割を果たしていたように思う。それが良いことであったのか悪いことであったのかは、結局分からなかったけれど。

「私は姫様のために戦うのではありません、姫様の名を借り受けるのです」

 彼女はブリタニア皇女としての誇りを持って反逆者ゼロを追った。その最期は悲しいものではあったが、それでも彼女は復讐に心を捕らわれたわけではなかった。だからギルバートはその遺志を継ぐ。彼女の荷を全て受け取って、その名を汚さぬように。
 ではスザクは?
 ユーフェミアのためと言う彼は、寧ろ荷を彼女に押し付けているようにも思う。彼女のためというのはつまり彼女の所為として置き換えられてしまう。怒りのまま復讐のためにゼロを追う行動は、果たしてユーフェミアのためになるのだろうか?
 ――だって彼女は、ゼロを殺そうとなんてしなかったではないか。

「……僕は、それでも」

 ギルバートには分からない。
 どこのエリアよりも激しい反抗勢力。ユーフェミアの異常とコーネリアの死。生きていたゼロ。
 そして渦中の人間の一人であるスザクは、厳かに宣言する。

「ゼロを殺します」

 ――ギルバートには分からない。
 ゼロを殺すために戦う、その目的が成し遂げられた後、彼が世界に求めるものが何なのか。



(何が正しいのだろうか。この世界にとって。この世界で死んだ彼女たちにとって)










姫様の名において〜で皆が従ったのにちょっと泣いた。姫様……っ><

20080420








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