大切な君へ



「やっぱおかしいんじゃないかなあ」

 租界の雑貨屋で商品を手に取るルルーシュにリヴァルが困ったように笑う。
 なんだ、と憮然として問えば、彼はひょいっとルルーシュが選んだものを掴み取る。

「だってロロ、男だぜ? まあ確かに女の子みたいではあるけど……」
「何が言いたい」

 暗にロロの大人しさを貶められた気がしてルルーシュは更に憮然とする。
 リヴァルに悪気があるわけではない。ただ彼は良くも悪くも正直者で、さっぱりした性格を前面に出しすぎなのだろう。さすがに本人の前で言わないし、すぐに己の失言に気づいて謝罪する彼に結局ルルーシュは不快感を抱けない(こんなことも出来ない人間がそうそういるとも思えなかったが)。
 そしてロロが大人しいのもまた事実だ。何をするにも何処へ行くにもルルーシュにべったりで、今日も彼を引き離すのにかなりの苦労をした。四六時中一緒にいようとする彼を疎ましく感じることも度々あったが、それでも概ね理想の弟だった。兄想いの弟を嫌う理由などどこにもない。

「……ルルーシュがブラコンなのは分かったけどさ、でもそれは、どうかなあ」
「それか?」
「うん」

 ぶらんとぶら下げたチェーンの先にはハート型のストラップ。ロケット仕様になっているそれは言われて見れば確かに男性に向けるプレゼントとしては可愛らしすぎるかもしれない。
 けれど、と彼はリヴァルからストラップを奪還する。女々しいと言われ様と彼にはこれが似合うだろうとルルーシュは半ば確信していた。

「別にお前にプレゼント選びを手伝えなんて言ってないが」
「じゃあバイクで待ってろって? そりゃあないよ!」

 いつものようにサイドカーに乗せて貰ってこの場所につれられてきたルルーシュは、当然リヴァルに待っていてもらわなければ学園には帰れない。勿論公共交通機関を利用すればよかったが人ごみの中を歩くのは面倒だった。
 俺は便利屋じゃないんだけどとは彼の弁ではあったが、結局付き合ってくれるこの悪友をルルーシュは重宝していた。ルルーシュが不遜であろうとなんだかんだ言いつつ友人であってくれるらしい。それは二人のさっぱりとした、世界に対する諦念のようなものが同調しているからかもしれなかった。

「っていうか明日がロロの誕生日だってのも初めて聞いたぜ? それ聞いてりゃシャンパンの一つや二つ選んでおいたのに」
「ロロに飲ますな、ロロに」

 あの控えめな弟のことだ、敢えて自分の誕生日を言いふらすようなこともしないだろう。普通自分の誕生日前に除け者にされればプレゼントを買いに行くのだというくらい察せそうなものだから、もしかしたら誕生日そのものを忘れているのかもしれない。ルルーシュ自身も自分の誕生日に対しては淡白だった。
 市街地に行くなら僕も行きたいと張り付くように縋ったロロの姿を思い出す。しかしサイドカーは一つしかない以上、用事があると言い張ったロロをつれてくることもできないし、プレゼント選びに連れてくるわけにはいかなかった。

「そもそもこの年齢になって兄弟に誕生日プレゼントとかねーよ」
「俺の勝手だろう?」
「はいはい。でもさ、これは貰ったほうも恥ずかしいんじゃないの?」
「そうか? 似合うと思うんだが」
「似合う似合わないじゃなくって、男がハートプレゼントされるのって嫌だろ。持ち歩くのも、さ」

   彼が女であればまだ救いはあったかもしれない。しかし男が男に、ハート。リヴァルの感覚では少々気味の悪いものがあった。
 ルルーシュの掌で揺れるハート。確かにルルーシュはこれを身に着けたいとは思わない。
 四葉のクローバーをあしらったストラップ。希望と誠実、愛情と幸運をそれぞれの葉に宿すそれは、同時に守護的な性質をも持っているという。十字架をあらわすとも言われるその形は、まるで――。

「ま、ロロなら何でも喜ぶだろうけどな、ルルーシュからだってんなら」
「よし、買ってくる」
「おいおいおい……即決かよ」

 リヴァルの呆れ声を背にレジへと歩を進める。小さな店舗だ、会話は筒抜けだったのだろう。こちらをじっと見据えていた店員が苦笑しながらストラップを包む。
 センスはおかしいのかもしれない。それでもロロにはこれしかないのだと直感にも似た何かを感じたのだから。
 これを受け取ったときのロロの反応を想像して、ルルーシュは一人ほくそ笑んだ。



(ケーキとかはいいのか? ……え、手作り? いやいやいや、別に変とかそんなんじゃないけどさ)










ハートは心。それをロロに与えたルルーシュは、生活していくうえでナナリーの身代わりとしてだけではなく、ロロ自身にも心を許したんじゃないかと思います。
ストラップが心を象徴しているのは多分確定。形からしてまんまですし、常にぐらぐら揺らぎっぱなしですし。そして偽の関係を作り上げてきたルルとロロの間で交わされた唯一のもの。
ナナリーの誕生日に女っぽいプレゼントって辺り、単純にナナリーと勘違いしたんだってルルーシュは今の時点では思っていそうですけれど(現時点4話)、ルルの中のロロの地位が(ナナリーレベルにとは言わないけれど)格上げされたんじゃないかなあ。
ナナリーの誕生日を深層心理=本心で認識してたのなら、尚更大切でもない人間とナナリーを重ねることなんてしないんじゃないか、と。
「これは僕が貰ったものだ」と言い張るロロ。確かにルルーシュの心はロロに受け渡されたんじゃないでしょうか。
10/25をロロの誕生日と認識しているのはおそらくルルーシュだけで誰かに言われたものじゃない。彼のナナリーへの愛は皇帝ギアスを踏み越えて意識に現れ、同じく大切に思い始めたロロに与えられた。これは果たして悲劇だけと称していいものだろうか?

R2ではストラップ真っ二つ→写真お目見え演出があると見た。

20080501








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