ともだちの定義



 俺達、親友だろう?
 ゼロによる囚われていた騎士団員が救出されて以降、玉城がこう呼びかける姿があちらこちらで見られた。また、玉城か。ゼロはそれに目立った反応をしようとはしなかったし、他の団員も呆れながら横目で見るだけで。ただ一人事情を知るカレンだけが複雑そうに眉をひそめたが、それに気づくものはいない。

「俺達親友だろう、だからさ、ゼロ」
「……」

 それはまるで彼がかつて友人と信じていた相手に“友達だろう”と呼びかけた様に似ていた。否、おそらくその友人も彼を友達だと認識していただろう。ただ、不幸な擦れ違いが彼らを完全に分断したというだけのことで。
 親友とは一体なんだ。
 カレンはゼロの意識に常に付きまとう彼を想像する。なんて痛い。確かに彼らは良好な友人関係を築けていたはずだったのに。けれどルルーシュがゼロとなったのはCCとの出会い、そしてスザクとの再会を契機としたもので。
 出会った時から敵だった、なんて。
 学園での仲睦まじい姿を見ていただけに、カレンはその痛ましさに目を伏せるしかなかった。ゼロが世間に現れたのはスザクを救うため。けれど、スザクはゼロの手を振り払って。
 友人関係とは一方通行なのだろうか。互いのいい部分にしか目を当てず、本当の部分を見たら簡単に手のひらを返す。たとえば、そう、カレンの恋心もまた。
 玉城を適当にあしらうゼロをそうぼんやりと眺めていると、緑の髪を揺らしCCがやってきた。ピザ。パターンすぎる一言にカレンの頭が痛くなる。

「だー! もうこの女は。俺とゼロの邪魔すんなよな!」
「なんだ、私の用事も重要だぞ」
「はあ? ピザなんていつだって食えるだろうが、ってかいつだって食ってるじゃねえか」
「ふん。食べたくても自由に食べれない人間だっているだろうが。だから食べれるときに私は食べる」
「てめーはそんな経験したことないだろうよ!」
「……そうだな?」

 シニカルに笑うCCが喚く玉城を無視してゼロの腕を取る。誰も寄せ付けない雰囲気を身にまとう彼に気軽に触れられるのはおそらく彼女だけだろう。
 しかし無遠慮さなら玉城も負けてはいない。

「あ、あのなあ! お前とゼロは愛人かもしれないが、俺は親友だぞ!」

 どんな論理だ。そもそもCCとルルーシュは愛人関係ではないし、ないはずだったし……それ以上に玉城と親友というほうがあやしいが。
 一方通行。周囲からの失笑にも気付かず彼は喚く。基本的に玉城は声が大きい方が強いと思っている人間だ。だから自分の意見を主張する時には無意味なほどの大声で叫ぶし、テロリストを始めたのも同様の理由だ。爆発させれば大きな音が出るから強い。単純な思想だったが、ある意味では正しいと言えた。声を上げなければ何もできはしない。それは日本において最も大きな声を出せたはずの枢木首相が死を以て教えてくれた。声がなければ人は負ける。

「玉城、CC」

 本人を置いて言い争う彼らにゼロが疲れたように声をかける。実際、疲労は感じているのだろう。玉城は能力もないくせに役職を望んでいるだけだし、CCはピザピザピザピザ以下省略。案の定というべきか、忙しいから後でと二人まとめてあしらってゼロは自室へと戻る。

「ったく……てめーが邪魔するからだぞ、CC」
「お前こそ、私の邪魔をするな」

 馬鹿馬鹿しい。低レベルすぎる彼らに呆れてその場を立ち去ろうとしたカレンの耳に、気持ち下がったCCの声が届いた。からかうようでいて底に得体の知れないものが潜む、不安感を煽る声音。
 たまにCCはそんな風に態度を豹変させる。騎士団の活動が空白となった一年間、彼女の一番傍にいたカレンが知るCCの姿。

「親友、か。本当にそうか?」
「はあ? 俺が親友つったら親友なんだよ」
「ふん、自分勝手だな」

 お前に言われたかねーよと玉城が叫ぶ。カレンもそれには心底同意せざるを得ない。
 しかしCCはそんな反論など意にも介さずに続ける。

「あの男に友なんていないさ」
「はあ? さみしい奴だな」
「だから玉城、シンユウ、なんて言葉、あいつは信用していない」

 初めての友人は敵になり、学園で手に入れた友達もまた記憶を書き換えられ。そうでなくとも彼らはルルーシュの真実を知らない。彼には同じ立場の人間は居らず、それはカレンとて同様。
 だから役職なんて貰えないさとばかりに嘲笑に近い笑みを浮かべるCCに、しかし玉城はなんでもないことのように頭をかく。馬鹿なのか、ゼロって。馬鹿には言われたくない一言が飛び出した。

「友達ってのは仲良ければ友達だろうが。小難しく考えてどうすんだよ」
「……そうだな?」

 シニカルに笑うCCは、どこか玉城を眩しげに見る。馬鹿って羨ましい。おそらくはそう思っている。
 ルルーシュも、もうちょっと馬鹿になればいいのに。カレンがそう考えたのと同様に、CCもおそらくはそう思っている。




(けれど彼らの不幸は、全てを隠した上での仲のよさにあったのかもしれなくて)










玉城を馬鹿にする小説を書くと幸せになれる(私が)







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