CCは一冊のノートを手にしていた。あの男から渡されたB5サイズのそれは、何処にでも売っているごく平均的な、平凡なものだ。
 交換日記。その言葉を、CCは知らなかった。だから尋ねてみたら、なぜか目を逸らされた。なんなんだ。
 流石に日記が何かは知っている。その日の出来事を、つらつらと書き連ねる行為のことだ。彼女はマメではないから、そういったことは好まない。交換日記というくらいなのだから、きっと日記を交換するのだろう。しかし交換して何になるというのだろうか? 相手のその日の出来事を知って、嬉しいことでもあるのだろうか。意味がないのではないだろうか? それとも、日記と称しているが実は日記ではない、とか。では何だ。
 彼女らしからぬ真面目さで、ベッドに一人転がって考え込んだ。ルルーシュが帰る気配はない。確か、今は授業中だ。
 ノートを天井の蛍光灯に透かしてみる。特に何かが現れたりはしない。何かの罠か。そうも考えた。だって、あの男が、何故こんな不可解な行動を。
 もしかしてあぶり出しで、何かメッセージが仕込まれていたりするのだろうか。しかしもし違ったら、ただ燃え尽きてしまうだけだ。

「……苛々するな」

 不可解な言動。不可解な単語。交換日記。
 一ページ目を開くと、昨日の日付と彼の昨日の行動が記されていた。ナイトメアに乗り、部下を指導した。ただそれだけのことで、それくらいCCだって知っていた。今更教えられなくとも構わないし、そもそも興味もない。
 一体全体、何事なのだろう。疑問ばかりが募る。そういえば、あの男は最近CCによく絡んできていた。ガヴェインを手に入れてからは特に、ナイトメア操縦に関して横槍を入れてくる。自由気侭に生きる彼女にしてみれば、煩いばかりではあったが。

「あ、もしかして」

 水に浸けたりしてみると、文字が浮かび上がるのかもしれない。このピザ女! とか、ちょっとは働け! とか。
 きっとそうだ。うん。そうに違いない。
 だって玉城だし。



(あいつ、よく見ると可愛いんだよなあ。ゼロの愛人とはいえ。あの性格も結構好みだ。あー仲良くなりてー!)




交換日記ネタでよく分からない方向にはじけた例。











 なんでゼロの手を取らないの。
 あの人はあんなに貴方を切望しているのに。あんな哀しい笑いを、私は聞きたくなかった。
 なんでゼロの手を取らないの。
 貴方は何度も助けられたじゃない。あの人は貴方を見ているの。私の事以上に。
 なんでゼロの手を取らないの。
 私たち日本人のために、彼は戦ってくれているのに。あの人の理想が分からないとでも言うの。
 なんでゼロの手を取らないの。
 貴方はブリタニアの犬になって、何が楽しいの。この裏切り者。



 罵倒するカレン。スザクはつい最近、彼女の正体を知った。
 病弱なお嬢様? 冗談じゃない。実際は黒の騎士団のエース。テロリストだ。
 かわいそうだと思う。日本人とブリタニア人のハーフ。歪んでしまうのも無理はないかもしれない。
 そんな所に現れた男は、一見心地よい理想を謳う。かわいそうな女の子は、騙されても無理はない。
 だから、スザクは教えてあげた。



「怪しげな男についていっちゃいけないって教わらなかった?」



(確かにあのセンスはやばいけど! でも!)







言い返せないカレン。糞真面目なスザク。
皆スザクがユフィ選んだからって怒らないであげて下さい。だってどうみてもチューリップってば変質者……!!
そんなルルが私は大好きですが><












「人の体温は、涙に効くって聞きました」

 静かに静かにナナリーに歩み寄った乾ききった彼の頬に、ナナリーは手を当てた。
 でも、その人は泣いているように思えた。

「ありがとう、ナナリー」

 なんだかおかしい。
 平坦な声。冷たい体温。
 彼が来る時は、いつだって兄が一緒だった。どうしたのだろうか。
 ちょっと、怖い。どうしたのだろう。彼はどうしたのだろう。ねえ、どうしたんですか?
 不安げに眉を寄せると、彼は柔らかくナナリーの手に触れた。

「でもね、欲しかった体温は、もう冷たくなっちゃったんだ」

 ばん。
 至近距離から、はじけるような音と何かがこげる音、そして鉄錆びの匂いが湧き出した。
 笑い声がナナリーの声に届く。怖い。怖い。痛い。嗚呼。
 でも、その人は泣いているように思えた。



(これは復讐だよ、ルルーシュ)







スザクさんお願いだからナナリーはそっとしておいてあげてねお願いだから





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