投ぜられた石



 桃色の長髪をなびかせて、ドレスの汚れるのも構わずに離宮の庭園を駆ける女性。彼女の姿を見咎めて、ジェレミアは思わず声をあげた。

「ユーフェミア様」
「まあ、ジェレミア。ルルーシュは今どうしてるかしら?」
「いつも通り、でございます」
「仕事、仕事、仕事、ね」

 もう、と頬を膨らませるユーフェミアの可愛らしさにジェレミアは苦笑する。何年前の話であったか、ルルーシュの異様な仕事量を知ったユーフェミアとは秘密協定を結んでいた。その名もルルーシュの仕事をなんとかして減らす会――そのままだ。参加メンバーはユーフェミアを筆頭にジェレミアとナナリーだ。バレたら何を言われるか分からないため、水面下での活動だ。今のところ実を結んでいるかは不明だったし、彼女は近日中にブリタニア本国を発ってしまうから、露見したらしたで何の問題にもならないのかもしれなかったが、とりあえず確実にルルーシュは不機嫌になるだろうから一応は秘密であった。
 それを知ったコーネリアやシュナイゼルは肩をすくめていた。政敵でもあるルルーシュが仕事を減らしてくれれば彼らは彼らで嬉しいのかもしれない。多少、複雑な気分ではあるだろうが。(義弟は勿論大切なはずではあるけれど)
 無邪気にルルーシュの邪魔をできるユーフェミアはまだ幼いのだろう。だがその幼くも純粋な想いに便乗しているジェレミアは人のことは言えない。むしろ感謝したいくらいだった。陰謀渦巻く皇室においてユーフェミアのような存在は希少といえる。

「さっきナナリーに頼んでおいたの。ルルーシュが無理するようだったら、泣きついてでも止めて、って」
「結局それが一番効果的ですしね」

 ユーフェミアが怒るよりも、ジェレミアが諌めるよりも、ナナリーの一言が何よりもルルーシュの特効薬となる。
 悔しいわ。悔しいですね。わざと憮然としてみて、二人揃って噴き出した。悔しくはあるが、まあテロ以来ずっとこうなのだ。あの兄妹が幸せでありさえすればどうであろうと構わないと、ほほえましく見守れる。

「それでしばらく会えないでしょ? 挨拶に来たのだけれど……邪魔かしら?」
「そろそろキリがいいはずです。休むよう仰ってください」
「ふふ、会長としてがんばるわ」

 ルルーシュの会(色々略した)のリーダーはそう笑ってジェレミアのやってきた方向、つまりルルーシュの執務室に向かおうとしたが、何かを思いついたように再び彼に向き直る。

「私が帰ってくる頃には、進展してるかしら?」
「は……? あの、何がでしょう」

 悪戯っぽく微笑んで、彼女はジェレミアの耳元に口を寄せる。警備の者に聞かれないようにとの配慮なのだろうが、仮にも皇女がそのような行動を取るというのも聊か問題があった。勿論幼少期から入り浸っているユーフェミアのこの挙動は離宮の者には知れ渡っていたから邪推する者などいなかったが、まさかエリア11に行っても改めない気でいるのだろうか。誰かが

「私も、ルルーシュのことは好きだったのだけど。でも仕方ないわよね、譲ってあげる」
「あ、あの、ユーフェミア様?」
「じれったいのよ、あなたたち。好きなんでしょ? ルルーシュのこと」

 無邪気に笑うお姫様を、ジェレミアは唖然として見送った。



(でも、ルルーシュを泣かせたらただじゃおかないんだから)










みじか







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