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SON OF SUN





ここだけの話だが、八神庵は草薙京の命を狙っていた。
そんなことは全世界のKOFファンならご存じのことなので、内緒でもなんでもない。
実は八神庵は、草薙京のファンだった。
思い起こせばン年前、初めて京を見たのは、衛星放送の格闘専門チャンネルで放送されたKOFのVTRで、勝利ポーズをキメた姿だった。
甘いマスクで、元光GEN○Iの諸星並に奇怪な反射神経で常にオンエア中のカメラに笑顔をふりまき、決して画面にケツを向けることなく、インタヴューの最初と最後にウィンクをよこし、アップになるとカメラ目線も忘れないサービス精神。ある意味スゴイ男である。
画面のなかの彼は、庵の逆三角形スタイルと違って、筋肉が全身にまんべんなくついた、スリム体型だった。
関節の裏側以外にはりつく赤い筋肉と、学ランからのぞくあちこち節の目立つ肌は、成熟したばかりの獣じみた凶暴さがある(ドリームヴィジョンで御覧下さい(笑))
古武術家としては理想的体躯で、庵はひそかに「俺もあんな身体だったら…」と羨んだりした。
こうなると、もう他の格闘家なんて目に入らない。
京のアップに視線を合わせてしまったり、彼が嬉しそうに笑うとこちらも幸せになったり。
もちろんビデオは標準録画で、しかも京の試合以外は消し去られ、どうして(京の試合だけでいいから)全試合放送してくれないのかと衛星放送局にFAX送ってみたり。
それが功を奏したのか、翌年からは見事全試合放送が決定した。しかし料金がK1と並んで高くなってしまったが。(注意:格闘チャンネルでは人気番組の料金がとってもお高い)
ビデオを見て胸を熱くする庵に、家族からお達しが届いたのはやはり翌年のこと。
宿敵がKOFで幅をきかせてるから、見事うち倒して、しかも八神流の名をあげてこいという。
「草薙…京!?」
その名をきいて、庵の心臓は高く跳ね上がり、いの一番で会場に向かった。
ナマ京に会える!
その喜びが、庵を無敵にした。
電車の中で無気味に笑おうが、ガラガラの送迎バスのどまん中で仁王立ちしようが、警備員がとめるのもきかずに試合に乱入しようが。
京と会えるだけでもいいというのに、家同士が宿敵だなんて、660年の歳月よありがとう!な境地の八神庵氏推定無職。
ステージに庵が上がると、不敵に京が微笑んだ。


それからいろいろなことがあったが、結局「京のファン」ということは誰も知らない。
もちろん草薙京本人も。
庵と京との距離は当時からは考えられないほど接近していたが、唯一の証拠物件となる京だらけビデオテープが発見されていないので、気づく機会がないのだ。
彼が夢想していたよりもはるかに厚かましく傲慢な男が、今日も押しかけてくる。いつのまにか合鍵を造ってしまっているのでタチが悪い。
「庵、出かけよーぜ」
「自分の彼女と行け」
「おまえが出かけようとしないから、誘いにきてるんじゃん。
ホラホラ、寝過ぎるとトコジラミがわくぜ〜」
「蹴るな!」
「じゃあ自分で起きろッて」
京の顔が近づく。体温さえ感じ取れる距離感が、庵の宝物。
顔の造作はパーツこそ繊細だがざっくりした印象で、いくらブラウン管に近寄ってもわからない黒い瞳の輝きが、庵を見つめる。
底知れぬ京の黒瞳に吸いこまれる錯覚を脊髄で感じ、尾骨まで貫かれる。
あるいは、大脳辺縁系の一点から入って中脳にまで達する侵食感とでもいえばいいのか。
庵のもっとも原始的な部分さえ蹂躙しようとする瞳に、惚れている。
紅蓮の炎のなかで闘う彼の姿に、惹かれている。
いま庵に向けている、女殺しの微笑みにも。
滅多に見られない、真剣な彼にも。
「今日はユキじゃなく、おまえと出かけたいんだから、俺につきあえよ」
「…そこまで言うなら、つきあわんでもない」
寝そべっていたカウチから身軽く身をおこす。
ビデオテープは、京がいる限り日の目を見ることはない。
そして告白の言葉は、地獄へ共に連れていくと決めていた。


はじめて京からプレゼントを貰ったとき、庵の身体に震えが走った。
幸福の震えなんて存在を知らなかったので、悪寒と勘違いしたほどだ。
「庵にやるよ」
「…俺、に?」
京のごつごつした指が、ぬうと差し出した。
縦に長い直方体の白いケースには、リボンがセロテープでとめてあるばかり。
色気がなさすぎるラッピングだったので、貰い物のケースを変えただけかと疑うが、彼がそんな手間をかけるわけがない。だったら、庵に贈るための品なのだろう。
「今日はなにかの記念日だったか?」
「なんでもねーよ。ただ、おまえにやりたくなったんだ」
京にとっては気分の問題らしい。
それが彼の気紛れでも、京から物を貰うのははじめてだ。
これがどんな物でも、きっと大切にしよう。庵は心に誓う。
「開けてもいいか」
「ああ。電池も入ってるから、すぐ動くぜ」
「動く?」
時計でも入ってるのかと取り出してみると、ビニールにくるまれたその姿形は、庵も見たことのあるおもちゃだった。
「おい、京…」
声に反応してクネクネ踊り出すサンフラワー。
庵がなにが言いたいのか察して、にっこり満面の笑顔で、京はプレゼントの意図を述べた。
「フラワー・ロックだよ。
ベースの練習やってるときって一人なんだろ? 防音対策してさ。
…暗い。暗すぎるぜ、庵!
せめてコイツを観客にしてみろよ。明るくなるぜ〜?」
「なるかっ!」
くねくねくね。
ヘッドフォンしてベースをかきならすロッカーの姿は確かに暗かろうが、かといってフラワー・ロックとご対面しながら練習するほうが、侘びしさ倍増、馬鹿馬鹿しさ階乗、である。
蛇足ながら階乗の記号は「!」で、10!と表記すれば
10!=10×9×8×7×6×5×4×3×2×1
ということになる。正解は3,628,800…考えたくもない。
しかし京が自分のために選んだ品、という点は、数字に変えられなかった。
「…ふん。ダーツの的にくらいはなるだろう」
「ちぇ。
おまえがも少しネクラじゃなくなったら違うもんやるから、せめてそれまで原形とどめておけよ〜」
あまり熱心でもない口調で言った京が、サンフラワーのグラサンに別れのキスを贈った。
そうして京から貰ったプレゼントは、いまはアンプの傍で踊りを披露している。
次に貰った、白熱電球の隣で。


...fin.




WRITTEN BY 姉崎桂馬
古織様の『MASCOT GAME』様に贈らせてもらいました。
庵さんの隣でフラワーロックが踊る姿を想像しましょう。ミスマッチが可愛いではないですか…

モドル






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