幸福の条件X 〜想いは砂の様に〜
思いは砂のように
それは夕食が終わり、寛ぎのひと時を過ごしていたリビングで始まった。
「中央アジア…か。中々厄介じゃないのか?」
「ええ。ビジネスライクで行けばいい商談相手なのですがねぇ。」
瀬人はブラックコーヒーを飲みながら。
ペガサスは冷たいオレンジジュースを飲みながら一枚の地図をにらみ合っていた。
ペガサスの会社 社が今最も力を入れている事案。
「中央及び中東のゲーム市場への進出」
だがそれには大きな壁が立ちはだかっていた。
「宗教がらみとか色々制約やら問題が多いな。」
「私の様なアメリカ人を敵対する風潮もありますからねぇ。」
「政治的にはそうだが、ビジネスなら向こうも話の判る相手のはずだ。」
「ええ、この国…」
地図の一点をペガサスが指差す。
そこは中東の小さな一角。だが石油の出る豊かな王国だった。
「ここの皇太子は先進的でしてね。一度お会いしたのですが、私の話に
前向きな意思を示してくれまして、国王との謁見の場を設けて下さいまして…」
「ラタン王国…?あまり聞かないな。」
「小さな国ですが、アラブの世界にかなり影響のある国です。新規参入を目指して
国王と直接何度か交渉したのですが…」
「何だ?まだ何か障害があるのか?」
ペガサスは少しばつが悪そうに俯くと、小さくため息をつきながら言葉を続けた。
「そこの国王がどうしてもあなたに会いたいと…」
その言葉に驚いた瀬人は、ぶっと飲んでいたコーヒーを噴出しかけた。
「何で俺に?お前の会社とは何の関係もないじゃないか!」
「いえ、デュエルモンスターの資料を見せた時、あなたの写真が入ったパンフレットを見て…
あなたの会社と事業と、あなたの才能に随分興味を示されましてね。是非とも会いたいと…」
確かに、デュエルモンスターの参入ともなれば俺とも無関係ではないが…
「あなたと会わせなければ今後一切の交渉は行わないと駄々を捏ねられまして。」
「…相談ってそれの事か…仕事でお前が俺に泣きつくなど何事かと思ったが…」
「お願いです〜〜セト〜〜。ラタン王国に一緒に行って貰えませんか?」
涙声で懇願するペガサスに、瀬人はしばらく眼を閉じ考えていた。
中央、中東はゲーム産業にとって確かにいまだ未開の地。
これはいい機会かも知れないが…
何より、ペガサスに貸しを作るのは悪い話ではないな。
コーヒーをぐっと飲み干し、テーブルをに置いた。
「ふん…お前がそこまで頼むなら行ってやらない事もない。」
小さく微笑む瀬人に、ペガサスはセンターテーブルを飛び越えて瀬人に抱きついた。
「Thank you!!セト!恩に着ます!」
「離せ!まだモクバが起きてる!」
「仕事の話をすると言ってきました。余程の事がない限りここには来ませんよ。」
「それでもここはリビン…グ…」
抱き寄せられそのまま唇を塞がれ。
差し込まれた舌に瀬人は否応無しに絡め取られていく。
ほんのり甘いひと時を過ごし、ペガサスは瀬人の唇を解放した。
「ハァ…全くお前はいつでもどこでも盛りやがって!!」
「あなたがそんなに色っぽいからです。」
「俺のどこに色気がある!」
怒って立ち上がろうとする瀬人の手を、ペガサスはすかさす掴み取った。
そのまま再び抱き寄せ、今度はソファに押し倒す。
「!!止めろ!ペガサス!いい加減に…」
「続きはあなたの部屋で?それともここで…?」
かぁっと赤くなる瀬人を見て、くすっと笑いながら何か言いたげな唇を塞いでいく。
ペガサスはブラウンの髪をかきあげ、瀬人は銀色の髪をかきあげる。
互いの呼吸を共有し、その思いを確かめるキスを交わした。
閉じた瞳をゆっくりと開け、深く深呼吸した瀬人は、髪に指を絡ませたまま口を開いた。
「すぐに出張の準備をさせる。後で細かい打ち合わせを…」
「No〜瀬人!折角の雰囲気を仕事の話で台無しにしないでクダサ〜イ!」
「煩い!だから後でと…」
そう言葉に出して、はっとなる。
みるみる高潮していく瀬人に、ペガサスは満面の笑みを浮かべて、
そのまま瀬人を抱き上げた。
「続きはあなたの部屋で、ですね。」
「…仕事の話も忘れるな!」
モクバに見られたら何て言い訳するつもりだ!下ろせ!
瀬人が私に甘えてるとでも言っておきますよ。
瀬人が必死の抵抗を見せたが、ペガサスは有無を言わさず瀬人の部屋までそのまま
お姫様抱っこの状態で連れて行った。
目撃した使用人を黙らせるために、磯野が色々工作したのは言うまでもない。
その数日後、瀬人はラタン王国へと出発した。
ペガサスは仕事の日程がどうしても合わず三日遅れの出発となる。
「じゃぁ、一足先に行ってるぞ。」
「私も終わり次第すぐに向かいます。どうか気をつけて…」
家を出て行く瀬人の後姿に、ペガサスは何かしら不安を感じていた。
何だ…?この不安感は…
ミレニアム・アイの力の名残か…?この先の未来に何かが起こるのか…?
「セト…!?」
ペガサスの呼びかけに一瞬だけ振り向き、微笑を残してセトは旅立った。
その日程のずれが…瀬人にとって最悪の結果になろうとは、まだ誰も
知らない…
日本から十三時間。アラブの国ラタン王国。石油産業で国は潤い、そのお陰か治安は安定。
その結果、観光やリゾート事業も盛んに展開されていた。
着いて早々、ホテルに王宮からの使者が来て、国王がすぐにでも会いたいというので昼食に
招待され、同行してきた磯野をホテルに残し瀬人は迎えに来た車で王宮に向かった。
侍従長と称するものと挨拶を交わした後、瀬人は王宮の一室に案内される。
部屋の中央に初老の男が親しみのある笑顔で立っていた。
「遠い所からわざわざのお越し、歓迎しますぞ。」
「いえ。私どもの事業に興味があると聞いたものですから。」
玉座の前で一礼をし、瀬人は淡々と話しかける。王、と言う人物を前にしても全く動じてはいなかった。
緊張も何も感じられない瀬人に、王は少し苦笑気味に微笑んだ。
「うむ。その話を是非とも聞きたいのでね。昼食をとりながらゆっくりと聞かせてはくれまいか?」
「はい。是非。」
「ところで。君とは以前会った事があるのだが…」
ゆっくりと近づく王に瀬人は眉をひそめ考えた。
会った事がある…?おれの記憶じゃこの国に来るのは初めてだ。ましてや王族に会った事なんて一度も…
「覚えておらんのも無理はない。その当時我は身分を隠し、そして君に直接あったわけではないからのう。」
「直接会った事がない…?それはどういう事でしょうか?」
すぐ目の前に立ちはだかる王に、瀬人は少し距離を保とうと後ろに一歩下がる。
だが王は下がろうとする瀬人の腕を突然掴みあげた。
「何を!」
「あの時のように細い腕じゃ。いや、あの時より少し色香が増したか?」
腕から腰、そのまま胸に移動し、王の右腕は瀬人の頬をそっと撫でた。
「我は前社長の剛三郎氏とよく取引をしておってな。武器や兵器を何度となく用意させたのじゃ。」
王の告白に、瀬人の表情は一気に凍りつき、触れられていたその手を払いのけ
部屋から逃げ出そうとドアに向かって走り出した。
違う。これはビジネスで俺を呼んだんじゃない!
俺の過去を知る者が、俺を手に入れんが為の計略…
ドアノブを掴み必死であけようとするが、ドアは全く動く事はなかった。
「無駄じゃ。我が合図をしない限りそのドアは内側からは開きはせぬ。」
「貴様!騙したな!俺の会社の事業に興味があったんじゃなかったのか!」
「興味?あるとも。君のその体にね。剛三郎が我に君を与えると約束しておったのだが、
約束は果たされぬまま奴は死におってな。Mr.ペガサスが持ってきた資料に君の写真があった時は、
剛三郎があの世から我に約束を果たしにきたのかと思ったぞ?」
くすくす笑いながら王はゆっくりと瀬人に近づいていく。
瀬人は窓に向かったが、そこは一枚のガラスで作られており、どこにも開ける場所はない。
「君を見かけたのはそう、二年程前の事か。」
白い髭を撫でながら、性欲に満ちた瞳で瀬人をねめつけていく。
「マジックミラーの向こう側で君が誰か他の男に犯されているのを見せられたのだよ。
それは衝撃的だったのう。」
そうだ…そんな事もあった。
剛三郎が取引相手に優位に持っていく為に、俺を利用した下品なショー。
訳も判らず暗闇の部屋に連れてこられ、待ち構えていた男たちに俺は無理やり犯された。
暗闇の中で多くの視線と興奮した声を感じていた。
マジックミラー?とんでもない。
貴様らの顔は俺からも見えていた。そうやって視姦されているのを知らしめて、
俺の羞恥心を増し、それが更なる興奮を呼び起こさせる。
そうか…この男もあのショーに参加していたのか…
それから数ヵ月後に剛三郎は命を絶った…
俺は何も知らずに猛獣の檻の中に自ら飛び込んでしまったのか…
「さぁ。我に従い、その身体を差し出せ。剛三郎との約束を果たさせよ。」
「ふざけるな!そんな約束など俺は知らん!」
「そうやって抵抗しても無意味な事じゃ。ここからは逃げられぬ。」
窓を背に迫り来る王から逃れる術はない。
嫌だ…俺はもうこんな事をしたくないんだ。昔とは違う!
ペガサス!!
心の中でそう叫んでも、その声はペガサスには届かない。
瀬人は拳を握り締め、この状況をどう打破するのか必死で考えていた。
ペガサスがこの国に来るのは明後日…
To be continues.
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