今は昔の語り草。

それは・・真選組が出来る前・・。










「なぁ、今度来た土方ってさ・・」
「あぁ。知ってる」
「・・アイツ、絶対に・・」


ヒソヒソと数人の男達が噂する。

「お前達!一汗流すか!」

近藤が竹刀を手に背後から大声で話し掛けた。

一汗・・とは言うものの、それは近藤の場合だ。

相手にされたものはヘトヘト・フラフラになるほどの稽古・・。

打ち込みはもちろん、一対多数で掛かっても相手にならない。

彼らも決して弱くはないのだが。

「え・遠慮します・・」

その場から逃げ出すもの。

捕まって稽古の相手をさせられるもの。

喜んで稽古を受けるもの。

彼らもまた、様々だ。






噂の的になった土方は最近道場に流れ着いた。

近藤が拾ってきた・・と揶揄するものもあったが、
無口で何を考えているか解らない為、噂は多種多様なものが流れていた。




「あいつ等の噂など気にするな」

笑顔で言う近藤に、土方はフイッと顔を背けた。












噂の半分は当たっている。

道場の裏、土方は草むらに寝転がった。

目を瞑れば思い出せるほどの情事の数々。





「・・ほら、お前の身体は良く締まる・・」
「ゥ・・ぁ・・ハァ・・」

背後から耳に息を吹きかけられ、その度にゾクゾクした感覚が背中を走った。

全裸にされ、両手首に腰紐を結わえられ、天井の梁に括り付けられた。

    ギシッ・・

ビクンと身体が跳ねるたびに手首に紐が食い込んだ。

「クゥ・・痛!」

男は土方の胸にある小さな突起を、背後から廻した手で弄ぶ。

触れるかどうかほどに愛撫を加えたかと思うと、潰してしまうかもしれないほど強く指で摘む。

「ァアア!」

痛みと快感の狭間で翻弄され、土方の身体は小刻みに震えた。

「何?こういう痛いことがいいのかい?」
「・・」
「ククッ、可愛くないねぇ・・んじゃ、こっちはどうだろうね?」

男の手が胸から下方へ移動した。

臍の周囲を指の腹で弄り、すでに透明な液体を溢れさせている土方自身を優しく撫でる。

「ぁ・・ぁ・・」

男の手の動きに合わせ、土方の口から嬌声が漏れた。

「良い声で鳴くね、アンタ・・」

チュッ・・と背中に唇が触れる。

ヌラヌラとした別の生物のような舌が背中を這い回る。

「んん・・ぁ・・はぁ・・」

焦らされ続ける身体は痙攣のように震えていた。

膝立ち程度の姿勢に腕が疲れてくる。

「も・・ぅ・・ア・・ンァ!」

自身を強く握られ、思わず大きな声を上げた。

その口に、生臭いものが突っ込まれる・・。

「んむぅ・・ん・・んん」
「俺も気持ちよくしてもらいたいからね」

黒髪を捕まれ、前後に揺り動かされる。

奥に突き入れられるたびに吐き気を催すが自分ではどうすることもできない。

「おら、舌を使えよ」

仕方なく舌を絡ませた。

唾液が飲み込めなくて口端から滴り落ちる。

ジュッ・・ジュッ・・と律動に合わせて淫らな音が部屋に響いた。





「ハァ・・ハァ・・」

解放された口が大きく息を吸い込んだ。

満足気に男は土方の腰を持ち上げる。

チュ・・という音がして、男は土方の後孔に指を挿れた。

荒々しく内を掻き回される。

「ぅ・・ぁ・・ァア!」

一本だった指が二本に増やされ、更に奥を掻きまわす。

「すげぇ、アンタの内は吸い付くようだ」

男は勝手に興奮し、自身を押し当てると・・




「グッ!・・ァ・アアア!」

土方の口から悲鳴を上げさせ、一気にその身を押し沈めた。

内臓を押し上げられる不快感に吐き気が込み上げる。

だが、気持ちとは裏腹に全身を快楽の波が包み込んだ。

息を止めてしまうかと思うほどの苦痛・・。

肉が広げられ、更に男は欲望のままに腰を激しく動かし始めた。

「ぃ・・いい・・ぜ!アンタ・・最高・・だ」

苦悶の表情の土方をそのままに・・
男は腰を突き出し、自身を奥深くまで沈めると、熱いものを吐き出した。

内なる肉には感覚など無いのだろうが、
それでも土方の身体はビクンと跳ね上がり、更に小刻みに痙攣した。







「・・これで・・借りはなし・・だからな」
「あぁ。むしろ、これを置いてくぜ」


男は僅かだが金を置いていった。

思った以上に満足したのだろう。















目を開け、空を見る土方は自分の身体に残る情事の跡に触れた。

左の胸の突起付近に残る、小さな薄紫のアザ。

別の男にキツク吸われた跡。

・・ったく、跡なんて残しやがって・・

世話になった者に、借りを作ったままは嫌だから・・と、土方は己の身体を差し出していた。

・・ここも、そろそろだな・・

近藤に拾われて、すでに数日が過ぎていた。


ゆっくりと身体を起こし、道場に向かう。



今日は近藤しか残らない筈だ。








― 夜

「今日は二人っきりだな」

いつものように笑顔で飯を食う。

何を考えているのか解らない・・。

それでも・・と土方は思った。

・・他の奴らと、同じだろうさ・・




「こうやって布団を並べてみると、子供時代みたいで面白いもんだ」

なんと、近藤が布団を敷いていた。

・・ま、いっか・・

パサッと上着を脱いだ。

「!?」

近藤は土方の行動が理解できない。

今から寝ようとしているのに、どうして着物を脱ぐのだろう?

瞬きをして土方を見つめる近藤は、本当に悩んだ様子で・・

「お前、何してるんだ?」

と、呟いた。

「何って、夜のお相手」

当たり前だろう?という口調で告げると、土方は近藤の首に腕を廻し、そのまま抱きついた。

やり場の困った近藤の両手は空をもがく様に動く。

「抱きしめればいいだろ?」

背中にくるだろう両手は、なかなか来ない。

「えっと・・その・・」
「何?まさか初めて?」
「いや、初めてじゃないって言うか・・」

近藤の顔は真っ赤に染まっていた。

それほど土方は綺麗に見えたのだ。

女子よりも端整な顔立ち。

鼻を擽る香りも。

噂を聞いて想像しなかったわけではない。

もしかしたら・・と思った時点で、近藤の自身に血液が集中した。

だが、人の弱みに付け込んで自分の欲望を満たす行為は・・自分が許せなかった。



グリッ・・と土方は大腿を寄せた。

近藤自身が固さを増している事を確認する。




他の男共と変わりない。

皆、一緒だ・・。

我慢するのは、せいぜい始めだけ。




そんな冷めた考えが土方の頭に渦巻いた。

「我慢するなよ。俺が自分で出来る恩返しだ」

近藤の耳に囁き掛けた瞬間、

土方は両肩を捕まれ、身体を引き離された。

「・・え?」

見れば、近藤は真っ赤な顔で俯いている。

「はぁ」

大きく深呼吸をして、近藤はゆっくりと顔を上げた。

その瞳は少しだけ潤んでいるようで、澄んだ瞳だった。

「お前の気持ちに水を差して悪いが・・俺はお前を抱けない」

それはとても困ったような表情・・。

「いや、その・・お前は魅力的だし、正直言って・・俺は抱きたいと思ったこともある」
「だったら・・」
「だからこそ!」

土方の言葉を遮って大声を上げる。

「俺は、お前の気持ちを・・お前の心を・・踏み躙りたくないんだ」




畳の上に捨て置かれた上着を拾い、近藤は土方に掛ける。



「俺、お前が好きだ。なんて言うか・・人として・・だな」
「敵わねぇな」

フッと漏らした言葉。



こんな自分を好きだと言ってくれる。
こんな自分を大事にしてくれる。



土方は負けを認めた。

・・近藤に・・いや、近藤さんには敵わない・・



「俺、マジに近藤さんに惚れそうだよ」

その言葉に照れて、近藤は更に真っ赤になった。



「トシって呼んでいいか?」
「あぁ。アンタになら何と呼ばれても構わない」



今は昔の物語。

近藤勲の為になら命を掛けると決めた瞬間。





bakc


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