性春18禁きっぷ 1
「経費削減?」
大阪行きのスケジュールと内容が書かれた書類を手に、
真撰組副長の土方十四郎は声がした方向に目を向けた。
そこには監察の山崎が書類をめくりながら、向けられた目におびえつつ
伝えなければならない事を頭の中で必死にまとめていた。
「は、はい。大阪出張の際、いつもは新幹線の指定席だったんですが…」
「このところ、真撰組は経費を使いすぎると上から苦情が出てしまいまして。」
「伊東先生からも、もっとコストダウンしないと
資金調達にも差し障りが出ると…」
ちっ、またあの野郎が横やり入れてきたのか。
渋い顔をしながら土方は煙草を乱暴に消し、山崎を睨みつけた。
「江戸を始めとする、日本の国の治安を守るのが俺達の仕事だ。」
「それには金がかかるし、いちいちそんな事を気にしてたら仕事にならねぇ。」
「伊東の野郎はそれすらも判らねぇのか? 」
「そんな上の顔色ばかり気にしないと資金調達出来ねぇならいっその事
真撰組辞めて官僚になっちまえばいいんだ。」
土方は今までの不満を一気にまくし立てるが、山崎にとってはいい迷惑だ。
実は先ほども電話で伊東から、金に無頓着な土方に対する不満をぶつけられたばかりだった。
二人は本当に仲が悪いなぁとため息をつきながら、
与えられた使命を全うすべく言葉を続ける。
「大阪行きにはローカル電車で行ってもらいます。」
「ローカル!?鈍行列車で行けってか?どんだけ時間がかかると思ってんだ!」
「はい、乗換5回、朝9時に出発して夕方6時に到着します。正味9時間です。」
「冗談じゃねぇ!ただでさえ忙しいのに、
移動にそんな時間かけてたらやってられねぇよ!」
「すみません、もうチケットも手配してあるので変更不可でして…」
なるべく目を合わせないように、資料に目を向け淡々と説明する。
けっ!と舌打ちをしながらも、土方は山崎からそのチケットと
乗換案内の資料を受け取った。
受け取ったチケットには「青春18きっぷ」と書かれていた。
「何だこれ?初めて聞く切符だな。」
「青春18きっぷといって、これ一枚で一日日本全国のローカル列車乗り放題なんです。」
「一日で回れるなら、それこそ北海道から九州まで行くことも可能です。」
「5枚つづりで1万円なんです。5回乗っても5人で乗ってもいいという、
とてもお得な切符なんですよ。」
ほぉ、と資料をめくり、使用の注意に目をやった。
「日付が変わった最初の駅で無効になるのか。」
「はい。だから実質、北海道から九州は無理なんですけどね。」
「江戸から大阪までなら余裕でその切符1枚で行けます。」
「しかし、大阪には俺一人が行くのに、これだと往復で2枚しか使わない。」
「残り3枚がもったいなくねぇか?」
コスト削減といいながらもこの方法だと逆に削減にならない。
いや、確かに往復の新幹線代よりは浮くが、時間もかかる。
その分を差し引いたら、新幹線の方が効率良いんじゃないのか?
「時は金なり、ともいうじゃねぇか。1日棒に振って宿泊代がかかるより
新幹線で行って日帰りの方が安くなるんじゃねぇのか?」
核心をついた!と思ったその時、背後から聞きたくない声が聞こえてきた。
「どうせ大した用事じゃねぇんですから、黙ってお上のやる事に従ったらどうでぇ?」
一番隊隊長の沖田が、風船ガムを膨らませながら両手をポケットに
突っ込んだ姿で現れた。
傍から見たらとても警察官には見えない態度でもある。
「うるせぇな!大体お前が無茶な逮捕ばかりするからこういう目にあうんじゃねえか!」
「それは心外でさぁ。凶悪犯逮捕する際にちょこっと公共の建築物壊しただけじゃねぇですか。」
「公共の銀行一つと周囲の民家数軒を爆破させておいてよく言えるな!!」
数日前に銀行強盗発生の際、沖田は犯人が投降せず立て篭もったので、
得意のバズーカーで 犯人もろとも、周辺の建物を吹っ飛ばしたのだった。
その賠償金で近藤と伊東が四苦八苦したのは言うまでもない。
経費削減が厳しく問われるようになったのも、すべてこいつのせいといっても過言じゃねぇ。
そう思いながらもそこの言葉をぐっと飲み込み、視線を再び山崎へと向けた。
「で?さっきの俺の指摘はどうよ?」
「そう言われましても、俺は伊東先生の命令通りに
土方副長にチケットを渡して説明するだけでして。」
「ちっ。どいつもこいつも伊東の野郎の言いなりになりやがって。」
ぶつぶつ言いながら乗り換えの方法とタイムスケジュールを確認した。
江戸から出発して最初の乗り換えは熱海か…
次が掛川…そして豊橋。それから米原で乗り換えて最後に大阪か。
乗り換えの時間も含めて9時間。やはり長い。
「乗り換えるまでが平均1時間だな。」
「そうですね。」
「ローカル線だから普通の座席になるのか。腰が痛くなるなこれは。」
タイムスケジュールを見つめる土方の背後で、沖田が土方には見えない位置で
不敵な笑いを浮かべる。
「そうでさぁ。腰が痛くなりますぜぃ」
その表情には明らかに「欲情」が含まれていたが、
山崎も土方も気がつく事はなかった。
To be continues.
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久々にSS書き始めました!
かなりブランクがあるので無理かな〜と思ったけど結構すらすらいける、うん。
このネタは大阪にいる友人に会いに「青春18きっぷ」で行くよーと伝えるつもりが
「18禁切符で行くよー」と思わず行ってしまったところから話が盛り上がり…
3年越し?で描き始めました。
はい、3年前のネタです、これ。(苦笑)
最後までいければいいな〜
暫くのお付き合い宜しくお願いします。
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