永遠の恋人

‐クラヴィスサイド‐



 いつからであろう?私に付き従うあの者の瞳に別の感情を見出したのは…
 気が付けば、私の姿を追い求める狂おしいまでの想い。
 私には、ジュリアスがいる事を知っているからであろうか…
 あの者は、その気持ちを伝えようとはしない。
 もっとも、伝えられても応じてやることが出来ぬがな。

 私は、森の湖をぼんやりと眺めていた。いつもジュリアスと共に散策を楽しむが…近頃は、職務に忙しくゆっくりと語らう時間さえ持てぬ。

「クラヴィス様、こちらにいらしたのですか。お捜しましたよ、執務室にいないものですから」

 普段らしかぬ慌てたようなリュミエールの声。

「どうした?そのように慌てて、おまえらしくない」
「ジュリアス様がお捜しです。新しい惑星の闇のサクリアの要望についてだとか」
「ジュリアスが?そうか」

 ジュリアスの名に一瞬、口元に笑みを浮かべた。職務と言え、私を探してくれている…それがうれしかったのだ。

 私を見つめるリュミエールが、悲しげに立ち尽くしている事に気付いた。 思わずジュリアスの名に反応してしまった事が、悲しみを与えたのであろうな。
 だが、あえてその事には触れずに問い掛けた。

「リュミエール、今日はどうしたのだ。ぼんやりして」
「いいえ、何でもありません」

 リュミエールが慌てたように視線を逸らす。すまなく思いながらも、ジュリアスの元へ急ごうとした。

「クラヴィス様、少しかまいませんか?」

 震える声に呼び止められる。普段のリュミエールらしくない態度が心配でもあり、はやる気持ちを抑え応じた。

「先程はここで何を見てらしたのですか?遠くを見つめていらっしゃる御様子でした。私に聞かせて頂きたいのです。さしでがましいとは存じております。あなたにはジュリアス様が、いらっしゃる事は…」

 ジュリアスの名を出され胸騒ぎがしたが、問い掛けるリュミエールの真意がわからない。私は、木の側に座りながら答えた。

「そなたの気にしているような事は、何もない」
「私には、何も言う必要はないと」
「リュミエール、お前の言っている意味が解ら…」

 突然、唇に塞がれ、その先の言葉を続ける事が出来なかった。

「クラヴィス様、少しの間じっとしていてください。そうでなければ私は…」

 リュミエールは、ゆっくりと唇を外すと、私の顔にそっと手を伸ばした。 私を想う気持ちが悲しいほどに伝わる。その頬に流れ出した涙を見た時、その涙を指で拭い自然と唇を重ねていた。 気持ちに応える事は、出来ないが少しでも、癒してやりたかった。 ハープを奏で、私を癒そうとしてくれたように…
 あれほど尽くしてくれたおまえに、何も返せないのだな…すまぬ……


リュミエールが去っていくのを見送った後も、気が重くしばらく座り込んでいた。
「いつまで、そうしているつもりだ?」

 不意に背後から抱きしめられ、耳元に囁かれる恋人の声。

「ジュリアス!?おまえ…いつから……」

 肩越しに振り返ると同時に、唇が塞がれた。貪るような深い口づけに、眩暈がして 背後のジュリアスに身体を預ける。
 私の様子を楽しげに見つめ、悪戯っぽく笑うジュリアス。

「私が探しているのを、知りながら動こうとしなかった罰だ」
「おまえ…最初からいたであろう?」

 ジュリアスの態度と言葉に見られていたと、確信を抱いた。

「さあ?そなたが熱烈な告白を受けて、情に流された事など見ておらぬ」
「…性格の良い事だ…」
「あの程度の子供の戯れのような接吻などに、嫉妬はせぬ。あれ以上、そなたに何かしようものなら…許さなかったが」

 ジュリアスは、私とリュミエールを気遣って黙って見ていたのであろう。
 話しながら、一瞬、ジュリアスの瞳に剣呑な光がともる…おまえ……十分に嫉妬しているのではないか?

「何がおかしい?」

 いつの間にか、含み笑いを洩らしていたらしい。『何でもない』と私からジュリアスの唇を求めた。

 心の片隅には、リュミエールへの罪悪感が燻っていたが…聡い恋人は、それを許さないとばかりに、 激しい口づけを繰り返す。ジュリアスを抱きしめられながら、いつしか、甘い時間に溺れいった。
もう…ジュリアス以外は、私の心にいない……


END

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