パーティー会場では、賑やかな喧騒が続いている。
「だから!クラヴィス!あんたが一発ガツンとジュリアスに言わなきゃ!ちゃんと聞いてる!?」
「…聞こえている」
「じゃあ、今から執務室へ乗り込むのよ!私と執務のどちらが大事かって!?ってね」
オリヴィエの意気揚揚な声を肴にクラヴィスは、相変わらずワインを飲んでいたが不意に、その手が止まった。
今…ジュリアスの声が……私を呼んだ?
胸が締め付けられるような…胸騒ぎがする……
まさか…ジュリアスに何かあったのか?
「…すまぬが退席させてもらう」
クラヴィスは、不安感を悟られないように無表情を装い、オリヴィエを見つめる。
「その気になったのね♪行っておいで。私達は、適当に楽しんでるからさ」
「他の者にもよろしく言っておいてくれ」
「OK♪その代わり首尾を聞かせてね♪」
普段ならば敏感なオリヴィエも酔っているせいか、クラヴィスの気持ちに気付く様子もなく、楽しげに手を振って見送った。
クラヴィスは、焦燥感に煽られるように聖殿へと急ぐ。だが、執務室にジュリアスは居らず、気を巡らせ光のサクリアを追った。
いつもならば存在感を誇示する光のサクリアが微弱になっている。次第にクラヴィスの表情が硬さを増した。
「聖殿にいる事は、間違いないようだ…何処にいる?何故…これほど弱まっているのだ…」
サクリアを最も強く感じる場所へ向ううちに、クラヴィスは、奥の間にと辿り着く。
「ジュリアス!」
名を呼びながら扉を開け放つと、床に倒れ伏すジュリアスの姿。
「…ジュリアス?……ジュリアス!!」
悲鳴のような声が室内に響き渡る。不安に震える身体、もつれそうな足取りで駆け寄った。
「ジュリアス!」
胸元に抱き起こしたジュリアスの息を確認すると、クラヴィスは、安堵の吐息を吐く。そして、周囲を見渡しスクリーンに気付いた。
「これは…」
映し出された映像には、あるべき惑星がない。瞬時に全てを悟った。
「…おまえは…一人で……馬鹿者…」
自分に対する想いが痛いほど伝わる行為。
『執務よりも私を選んで欲しい』と思った自分の浅はかさが情けない…クラヴィスの瞳に涙が滲む。
「今、私に出来ることは…」
ジュリアスの身体を強く抱きしめクラヴィスは、感謝と想いを込めて癒しのサクリアを注いだ。
ジュリアスの瞼が微かに震え、意識の覚醒を知らせる。薄く開いた瞳がクラヴィスを映し出すと、驚きに目を見開いた。
「クラヴィス……何故…ここに…」
「おまえに何かあって…気付かぬ私とでも思っているのか?」
責める口調と裏腹にクラヴィスの表情は、穏やかに笑みを浮かべている。
ジュリアスは、回復した力で自身の身体を起こすと悔やしげに唇を噛んだ。
「…そなただけには…気付かれたくなかったのだが……」
クラヴィスは、ジュリアスの首を抱くとそっと囁く。
「苦しみから逃れ、幸せの中に我が身を置こうと、おまえが共にいなければ何の意味もない。たとえどれほどつらいことであっても、二人一緒なら、きっと耐えていける。いつも、どんなときでも共にありたい…それがただ一つの私の願いだ」
「クラヴィス…すまなかった」
ジュリアスは、クラヴィスを抱きしめ口づけた。
私邸に帰り着き寝室の扉を開けた瞬間、クラヴィスは、眩しさに目を瞠る。部屋を満たすのは、光のサクリア。視覚的な眩さでなく、心の奥底から感じる光輝とあたたかさに溢れた空間が広がっていた。
「これは…」
驚き立ち竦むクラヴィスをジュリアスは、包み込むように背後から抱きしめる。
「驚いたか?約束の夜を一緒に過ごせぬなら、せめて光のサクリアに包み込んで眠らせたいと思った。そなたを包むことができるのはこの私だけ…そして私の全ては、いつもそなたと共にある」
「…ジュリアス」
クラヴィスは、ジュリアスの回された腕に手を添え振り返る。その表情は、愛に満たされた笑顔であった。
互いの想いを伝える合うように、幾度も肌を重ねる二人。
至福の時を過ごすクラヴィスの指には、淡い紫水晶とその周りを包むように、紺碧のラピスラズリが装飾された金の指輪が輝いている。
それは、永遠の愛を誓う恋人からの贈りもの。
END