The love which it isn't possible
to finish giving up


「おまえにいくら想われたところで、私は女性の方がよい。考えてみろ。もし、おまえに言い寄る男がいたらどうする?」

 追い討ちを掛けるように何を言い出すかと思えば…答えは決まっている。

「男にしろ女性にしろきっぱり断ります。俺には好きな相手がいますから」
「断り続けてもそれでも尚、相手が食い下がってきたら困ると思わぬか?」

 問い掛ける瞳が、困らないと言えまい?と意地悪く笑っている。

  クラヴィス様の例え話は、理解できる。
  俺だって…かなり困るだろう。
  相手に懇々と説得して諦めてもらうしかないかな?
  こう考えてハッとする。
  クラヴィス様も同じように説得を試みているわけか。

 次の言葉が吐けない俺にクラヴィス様は、とどめを刺す。

「男は、引き際が肝心と申すであろう?」

  引き際…今がそうだと仰りたいわけか。
  だが、目測を誤ればものにできるものを失ってしまう。
  俺には、今がそうだと思えない。
  だから、まだ諦めない…
  諦めきれないから拒絶されても足掻いてしまう。

 立直りの早さは、俺の得意。
深く沈んだ気を取り直すと、再びクラヴィス様と対峙する。

「…俺の想いがあなたにとって不快この上ない事は、重々承知しています。しかし、約束を破る事は如何なものでしょうね?」
「約束?何の事だ?」

 きっとおそらく、忘れているだろうと思いながら確認してみたが…やっぱり……

「……誕生日を一緒に過ごす事です。先日、空けておいて下さいとお願いしたでしょう?」
「あれか…だが、好きにしろと言いはしたが了承した覚えはない故、約束と言えぬであろう?」

  眉をひそめ俺を責める視線が痛い。
  確かな約束を取り付けておくんだった!
  早合点だったのか…毎年の事だから安心した俺が馬鹿だった…

「結局、俺とは誕生日を過ごして下さらないと?」
「約束を破れば、それこそアンジェリークに失礼であろう?」

  その半分の気遣いが俺にも欲しいですよ。
  お嬢ちゃんが…女性達が羨ましい……

「あなたも罪な方だ。純真な少女を…」
「人聞きの悪い…彼女は、女王候補だ。その程度わきまえている。第一まだ若過ぎるではないか。私の趣味ではない」
 趣味じゃない…か。その言葉に安堵するが…疑問が沸いた。

「では何故、彼女の誘いをお受けになったのですか?」
「決まっている。誘われたからだ。女性を無下にするは、非礼というのもの」

 しれっとした表情で飄々と答えるクラヴィス様は、かつてプレイボーイの名を欲しいままにした俺を思い出させた。

「……あなたは、来る者拒まずですか?その精神をぜひ俺にも適応して頂きたいものです」
「…男は、例外に決まっているではないか」

 俺の本音交じりの軽口にクラヴィス様は、呆れたような…うんざりしたような表情で、ぼやきにも似た呟きを洩らす。

  やはり無理もないと思いつつ、ふと浮かんだ妄想。
  もしも晴れて恋人になったところで……
  女性からアプローチされたクラヴィス様は、拒絶しなさそうだ。
  という事は…俺の気苦労も続くって事か……

 心の中で呟くつもりがつい口をつく。

「苦労してものにしても…すぐに浮気され…俺の安らぎってあるのだろうか…」

 言い終えた途端に、クラヴィス様が盛大な笑い声を上げる。

「そのような心配に及ばぬ。私がおまえのものになる事などありえぬからな」

  自信に溢れた笑みと口調に、さすがに挫折しそうだ。
  駄目だ!ここまで想い続けたからには、納得いくまで貫き通す!
  いつかこんな事もあったと笑って話せる日を信じて。
  あなたには、いい迷惑でしょうが付き合って頂きますよ。
  俺は、諦めの悪い男ですから。
  まずは、誕生日の計画を練らねば…
  お嬢ちゃんには悪いが、その日は俺に譲ってもらうぜ。


END



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