二人の夜は…



 クラヴィス様の腰を抱きかかえ、緩慢な動きを繰り返す。徐々に速度を上げ、時に両脚を大きく広げ抉るように楔を打ちつけた。その度に叫ぶような喘ぎ、大きく反り返る肢体、背中に回された指先が爪を立て、俺を更に煽る。

「オスカー…オスカー…」

 痛みにか快感にか紅く染まった潤んだ瞳が、戦慄く唇が途切れ途切れに名を呼ぶ。それだけで、俺の雄が一段と硬さを増し、欲望が膨れ上がる。

「最高に気持ちいいですよ…あなたの中は」

 声を掛ける俺の声も上擦っていた。こんなに快感を得るのは、初めてだ…

「ああ…私も…と言ってやりたいが…やはり痛いぞ」

 眉間に皺を寄せ掠れた声で軽く抗議するクラヴィス様。苦痛と快感の狭間ってところか? 本格的に快感を得るのは、まだまだ遠そうだ。俺だけが気持ち良くてもつまらん…一緒に快楽を味わいたいのに。

「俺一人いい思いをしているようですね…申し訳ありません」
「謝るな…そのうちに慣れる…だろう」
「早く共に快感を得られるように精進しますので」

 動きを止めると、クラヴィス様の頬に指を滑らせながら唇を寄せた。応えてくれる舌を甘噛みしながら、労わるように深く浅く口づける。
 誘うように細い指先が俺の背を這い、投げ出していた脚が俺の腰に絡む。我慢できず口づけたまま動きを再開した。

 身体の動きに合わせ擦れるクラヴィス様の雄が勢いづく。俺は、上体を起すと片手にその雄を握り愛撫しながら腰だけを前後に動かした。

「気持ちいいですか?」
「聞く…な。あっ……あぁ…」

 明らかな快感の吐息と喘ぎが耳元を通り過ぎる。
 やっぱり二人一緒にってのが理想だよな。
 絶頂を目指して、鼓動を合わせリズムを作りながらその時を迎えた。

「達く…」
「あっ…ああーーー」

 奥底へ迸る流れと同時に、一際高い嬌声を上げ、俺の手の中へ白い蜜を溢れ出す。


 至福の時間が過ぎ去った。
 名残惜しさに抱き合ったまま息を整える。クラヴィス様は、ため息を吐きながら汗で額に張り付いた前髪を掻き上げた。その仕草が色っぽい…それに上気した頬、濡れた唇が何とも……

「何をにやついている? 気味の悪い」
「気味が悪いって…それはないでしょう?」
「鏡を見てみろ。薄気味悪いぞ」

 表情に気付かれ、早々に悪態をつかれた。さっきまで愛し合った仲なのに…
 抱かれたからとこの方の性格は、変わりそうにない。悔しいような嬉しいような複雑な心境だ。尤も、途端に変わられたらある意味怖いか…

「おまえは、先程から何を考えている?コロコロと表情を変えて…」
「もちろんあなたの事です。クラヴィス様」
「どんな事を思っていたやら…無気味な考えならやめろ」

 相変わらずの口の悪さだが、声を出すのも億劫そうで疲れた様子は隠せないようだ。俺は、ゆっくりと楔を抜くと身体を離し枕を背に座る。

「クラヴィス様、大丈夫ですか? やはりきつかったですよね?」
「心配いらぬ。疲れただけだ。それよりも」

 言いながらクラヴィス様が上目遣いに俺を見る。何を言われるのか緊張が走った。

「オスカー…様は、いらぬ。プライベートでは、使用禁止にする」
「クラヴィス様…いえ、クラヴィスとお呼びしろと?」

 意外な提案と言うか…命令だよな。聖地に来て以来『クラヴィス様』と呼び続けてきたものを急に変えろと言われても…

「ついでに敬語も使うな。対等な立場に思えぬからな」

 敬語も禁止か…戸惑いはあるが、対等な立場を言葉遣いから修正するのは、いいかもしれない。しかし…対等な立場と言っても、きっとクラヴィス様の言うがままになりそうな予感がする。惚れた弱みってやつだな。

「分かりました。以後、プライベートでは使いません」
「言ってるそばから、直っておらぬようだが?」

 笑いを含んだ声で指摘され、変える事の難しさを思い知る。

「慣れる必要がありますね。即座に対応できませんよ」
「そのうちに言い慣れるだろう。私がおまえに抱かれる事に慣れた頃には…」
「その頃には、きっと」

 互いに笑みを湛え、覆い被さるように抱きしめると自然に口づけを交わす。まずい…また欲しくなってきた…
 疲れているのがわかっているから、一度だけにしようと思っていたのに…口づけでその気になるとは…
 拒否されるのを覚悟でクラヴィス様の耳元で囁いてみた。

「クラヴィス…もう一度欲しい。いいか?」

 言葉を変えた俺に驚いたように凝視される。自分が変えろって言ったじゃないですか…咄嗟に言葉が出ない程びっくりしなくても…

「新鮮なものだな…驚いた。もう一度は…遠慮したいところだが、おまえの誕生日だ。好きにしろ。但し、ジュリアスへの言い訳は任せたぞ」

 許可をもらったはいいが、そうか…間もなく夜明け…遅刻の可能性大。この方の負担を考えれば執務どころじゃないだろう。執務と欲望のどちらを選ぶか…本来なら執務を選ぶべきなんだろうが…今夜は特別だ。
 俺は、クラヴィス様に微笑み掛けた。

「共犯なんだから、一緒に考えましょうよ」
「知らぬ。考えつかねばやめておけ」

 つれない返事を返しながらも俺の首を抱く腕は、解かない。要するにあなたもその気になっている?でも、俺だけに罪を押し付けるんですね…
 何ともやっかいな相手に惚れぬいたものだ。
 これも自業自得って言うのだろうか?

「後でじっくり考え事は、するとして…今は」

 続く言葉は、飲み込んでもう一度二人で快楽の波に酔いしれ始めた。


END




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