「オスカー、心配を掛けて済まなかった」
「こうして、あなたが目覚めて下さったのだから、よしとしましょう」
俺は、クラヴィス様の額に口づけ、体を起こそうとしたがクラヴィス様は、俺を抱きしめたまま離そうとしない。
「暫くこうしていてくれ。おまえのぬくもりに触れていたい」
「危険ですよ? あなたに関しては、俺の自制心が持たないのは、ご存知でしょう?」
「…私は、病み上がりだが?」
「申し訳ありません。俺には、意味がないようです」
俺の台詞にクラヴィス様が苦笑を洩らす。
「おまえと言う奴は……」
「あなたに負担を掛けないように、努力します」
「すでに…その気か? せめて、シャワーを浴びたいのだが」
「毎日、俺が拭いて差し上げていましたよ」
「そのような事までしていたのか? マメな事だ」
「あなたに関してだけです」
俺は、答えながらクラヴィス様の首筋に唇を押し当てた。
クラヴィス様の胸を、肩を、頬を、耳朶を、執拗に嘗め尽くしては、互いの舌を絡め、強く吸う。滑らかな肌を、軽くついばむように触れては離れる。白い肌が、ほんのりと熱を帯びて、艶っぽく輝きだす。
「あぁ…」
微かに乱れ始めた息と一緒に、吐き出された甘い声。胸の突起を舌でころがし、強く吸う。その度にクラヴィス様の身体がわななき、陶器のように透き通った肌がしっとりと潤っていく。
「う…ん。ああ……」
クラヴィス様が切ない喘ぎ声を洩らすたびに、俺の愛撫は、さらに激しさを増した。俺は、クラヴィス様の片足を持ち上げ、まだ、固さの残る奥に指を這わせた。内壁をくすぐるように突き刺していく。
「はぁーうぅ……」
クラヴィス様から耐え切れず洩れる嗚咽。
「オスカー……おまえが欲しい」
「俺もです」
無意識に逃げをうつクラヴィス様の腰を絡めとり、引き寄せ、俺の怒張した雄をあてがった。
「クラヴィス様、愛しています」
「オスカー」
ゆっくりと、いたわるように、侵入を始めた。それでも、クラヴィス様の眉が苦痛に歪み、息を殺して耐える身体が、弓なりに反る。肌に浮かぶ汗、冷たかったその肌が、鮮やかに染まり、その中は、燃えるように熱く激しく俺を締め付ける。
「あっ…ああ」
切れ切れに聞こえる、俺を酔わせる悶え狂うクラヴィス様の喘ぎ。重なり合う肢体、濡れそぼった唇が俺を誘い、むさぼるように触れては離れ、重なる唇と舌。
「クラヴィス様……クラヴィス様」
グンと大きく突き上げると、クラヴィス様の身体が大きく仰け反る。
「あああーー」
絶頂の叫びを上げ、大きく足を開かせ組み敷いたクラヴィス様の手が、覆い被さる俺の背中をかきむしる。俺は、激しく身体を動かし、突き上げ、引き抜き、また貫く。その度に、クラヴィス様は、深々と穿たれ、背中を弓なりに反らし、喘ぎ乱れ、歓喜の声を上げる。
「はあ…ああ……いい」
淡い月明かりの中で、白い身体が揺れる。淫らに、艶やかに、美しく。滴る汗を輝やかせながら、悦楽の踊りを舞うクラヴィス様を、俺は、うっとりと見つめた。
俺の腕の中に、クラヴィス様がいる。言葉で伝えきれない想いを、身体で補うように俺達は、果てなく求め合った。
「オスカー!」
翌朝、突然の大声に、驚いて目が覚めた。目の前には、鬼の形相のオリヴィエ。クラヴィス様に腕枕をしていただけとは、誤魔化しきれないシーツの乱れを即座に気付かれていた。
「あんたってば、何でそう節操がないの!? いくら、あんたが恋人でも眠ったままのクラヴィスを!」
眠ったままのクラヴィス様? いくら俺でも意識のないクラヴィス様を抱くはずが、ないだろう…それ程信頼がないって事か? オリヴィエの大声に、俺の腕の中のクラヴィス様が微かに身動ぎ、目を開けられた。
「クラヴィス!? 目が覚めたのね!」
「心配をかけたようだな。すまぬ」
「いいのよ! あんたが目覚めてくれりゃ、それで万事OKよ」
オリヴィエが満面に笑みを浮かべ、クラヴィス様を見る。しかし、『でも』と言いながら俺を見る目には、怒りが込められていた。
「あんたってばクラヴィスの目が覚めたら覚めたで、何ですぐに言わないのよ!どれだけ皆が心配してるかわかってるでしょう!」
「すまん! しかし、クラヴィス様が目覚められたのも遅かった事だし」
「言い訳無用! 遅い割には、やることやってるじゃない!! まだ、寝惚けてるクラヴィスを襲ったんでしょう!? 最低だね!」
オリヴィエの矢継ぎ早の非難に、俺は、言い返す隙も与えられなかった。
「オリヴィエ、誤解だ。オスカーだけを責めるな」
見かねたクラヴィス様が援護して下さったが、オリヴィエは、まったく、聞く耳をもたない。
「クラヴィスは、何にも言わなくてもいいのよ。可哀想に……こんなのを恋人にしたのが間違いだよねぇ。オスカーあんたは、クラヴィスが完全に回復するまで立ち入り禁止よ!」
「おい!! それは、あんまりだぜ。せっかくクラヴィス様が」
「お黙り! あんたが何もしない保証なんて、どこにもないのよ! むしろその逆の保証がありありと」
結局、俺は、オリヴィエに押し切られ(ジュリアス様に報告すると脅され)立ち入り禁止を受け入れる事になってしまった。
しかし、夜には、こっそりと忍んで行くつもりだ。愛する人をこの手に抱いて眠るために。
END