私は、とある男性にプロポーズされた。
しかも、日数にして5日前です。
なんだかよくわかんないけど、惚れられちゃったらしい。
その人は、とある財閥グループの御曹司。
名前は、跡部景吾さん。
私が清掃員として働いている会社ビルの社長。
私よりも年下です。
このまま行けば、姉さん女房に…。
彼は容姿端麗で、モデルでもホストでもNO.1をやっていけそうな人。
噂でしか知らないが、仕事もかなり出来る人らしい。
お金持ちで、ルックスも良くて、仕事が出来るんだから、女性にさぞモテるんでしょうね……。
優しい人…だとは思うけど。
それ以上に、唯我独尊で強引だから、お付き合いするには……ちょっと辛いものがあるんですけど……。
というか、私…、彼とお付き合いと言うものをする前に婚約者になっちゃったんです……。
彼の強引さに押し切られて……。
まともに会話した回数、それ程多くない。
なのに、「好きだ、結婚してくれ」って………。
そもそも、何で彼が私を好きになったのかも解らない。
教えてくれなかったし……。
いずれ教えるっていわれたけどさ…。
まぁ、とにかく。
あれよあれよという間に、っていうか…プロポーズされたその日に…彼を両親に紹介する羽目になって………。
今日に至ります。
私の両親への挨拶が終わった直後、仕事の関係で会社に呼び出されて行っちゃった。
それから、5日。
ビルには顔を出してないみたい。
なんでも、仕事上のトラブルかなんかで、色んな所を巡り巡ってるらしい。
社長って大変だよねぇ…。
同じ、清掃員のおば様方が、麗しの社長の姿を拝見できず、寂しがっている。
ここでの、彼の人気は韓国タレント並だ。
おば様連中だけではなく、若い社員達にも人気はあるわね……。
あの容姿だ、無理もないけど……。
でも、ホント…そんな人が何で私を好きになったのか……。
正直わかんない。
だって、私は子持ちだよ?
未婚の母、シングルマザー。
3歳の娘が居る。
そんな女の何処に惚れられるんだろう……。
……物珍しいからからかわれてるんだろうか…。
そう思ったこともあるけどね……。
そうじゃないっぽい。
遊んでるなら、親に挨拶なんて行かないだろうし。
父と向き合っていた時の彼は本当に真剣だった……。
だから、彼の気持ちってのは本物…なんだと思う。
ホント、何処がよかったのかなぁ?
彼からプロポーズされて5日後の夜。
時間は10時も30分を回った所。
娘のはとっくにおねむで、寝室で眠ってる。
私は、リビングとしても使っている6畳のダイニングキッチンで、縫い物を終わらせていた。
の保育園に雑巾を提出しなきゃならないらしくて……。
暇がある時にやっといたほうが、いいので、この時間に。
終わったらすぐにでも眠れるようにパジャマ姿でやっている。
まぁ、100円ショップに行けば、雑巾なんて簡単に手に入るし楽だけど、もう使えないタオルがあったんで、それを雑巾にしてしまった方が…無駄なお金使わなくてもすむでしょ?
浮いた100円は食費になるでしょ?
時々、野菜を100円均一で売ってたりするし。
塩鮭だって運がよければ2枚買えるわ。
ほーら、100円だって無駄には出来ない。
って…なに、訳のわからない節約話をしてるんだ……。
まぁ、さておいて…。
3枚必要らしい雑巾の、全てを縫い終わったのが10時30分を回った頃で…。
そんな時、突然玄関のチャイムが鳴った。
……こんな時間に…誰だろ?
私は不思議に思いながらも、玄関へと向かう。
流石に時間が時間なので、不安になって覗き穴でドアの向こうを確認。
そこには見覚えのある男性が。
景吾さん……。
スーツ姿の景吾さんだった。
私は慌ててドアを開ける。
「景吾さん…?」
「よぉ…、久しぶりだな」
景吾さんは私ににこりと笑みを向けてくれた。
「どうされたんですか、こんな時間に?」
私は景吾さんに問う。
「話があんだよ」
景吾さんがなんだか不機嫌な顔になって答える。
「えと…。とりあえず、中へ……」
私が言うと景吾さんに「当然だろ」って言われた。
だよね、こんな時間に玄関口で喋ってなんて居られないし…。
……ちょっと、パジャマ姿なのがすっごく恥ずかしいんだけどね…。
まぁ、いっか……。
結構 図太い私なのだった。
「は、もう寝てんのか?」
景吾さんはダイニングキッチンにある、寝室に通じるドアを眺めながら問うてくる。
「あ、はい…」
「そうか」
私が頷くと、景吾さんはそうとだけ答えて、勝手にその辺に座っちゃった。
「あ、お茶…出しますね」
私はそう言って、お茶の準備をする。
夏も近くなったので、暖かいものより冷たい物が良いだろう。
冷たいお茶を用意して、景吾さんに差し出すように小さなテーブルの上に置く。
そして、景吾さんと対面するように私も腰を落ち着けた。
景吾さんは、そのお茶を手にして一口 口を付ける。
「セイロン・ティンブラか?」
景吾さんが私を見ながら言う。
「あ、はい。よく解りましたね。のお気に入りなんですよ。簡単な水出し式ですけど…」
そう、景吾さんに出したお茶はアイスティー。
彼は、それに使った茶葉の銘柄を当てたのだ。
飲んだだけで解るなんて凄い…。
「舌が肥えてんだな」
景吾さんがフッと笑った。
「あと、それ以外で飲むのは100パーセントのオレンジジュースと牛乳…乳製品系くらいかな…。我侭で困っちゃう」
私はそう言いながら肩を竦める。
「別に、体に悪いもんじゃねぇし、いいんじゃねぇの?」
「そうかもしれませんけど…。お財布が困るんですよ、あの子の好きなものはどれも高価なものばかりだし…」
景吾さんの言葉に私は少しだけ顔をしかめて言葉を返す。
「んな事考えるのも、今日限りで終わりだぜ」
景吾さんはそう言うと、スーツの内ポケットからなにやら紙を2枚程 取り出した。
―――………。
えーっと………。
これは………。
「なんですか、コレ……」
そのウチの一枚をみて、私は思わずそう言ってしまった。
「見たまんまのもんだろ。お前の目はちゃんと見えてんのか、アーン?」
景吾さんが、不機嫌そうに私を見る。
ええ…、見たままの物ですね。
書いてありますもんね……。
『婚姻届』って………。
てぇ!
「ちょっと待って下さいっ!」
「アーン、何でだよ?」
私は思わず出した言葉に、景吾さんは平然とそう言葉を返す。
「だって…、コレ…婚姻届って……」
あわあわと私は言葉をつむぐ。
「で、こっちはの養子縁組届な。…特別養子縁組を申請したい所だが…時間がかかるからな、先にこちらを出す」
しれっともう一枚の紙の説明をする景吾さん。
そうでなくてですよ!
「展開が早過ぎだって言ってるんですっ!」
私は思わず大きな声で言った。
と、そこでやばい…と、口を塞ぐ。
………起きてこないよね?
ちらりと、寝室へのドアを見やる。
何の音沙汰もないし、寝てるかな?
「と…、とにかくですね。まだ、その…籍を入れるって言うのは抵抗があって…ですね……」
私は、声の大きさに注意して言葉をつむぐ。
「なんでだよ?もう、お前の両親には挨拶も済ませた、俺の所はまだだが…結婚に関して何の異論も反対もねぇし、何の問題もねぇだろ」
平然と…いや、むしろ私のほうがおかしいと言わんばかりに言葉を返す景吾さん。
何処まで強引なんですか、この人は……。
「流石に、の一生もかかってますし、そう簡単に出来る事じゃないです……」
私の困った様子が解ったのだろう。
景吾さんは二枚の書類をしまい始めた。
「……流石に、時期尚早すぎか……。解った、この件は先に延ばしといてやる」
言い方は偉そうだけれど、引いてくれて助かった。
と、思ったのも一瞬だけ。
「その代わり、近日中に仕事も辞めて このアパートを引き払えよ」
「はいぃ?」と私は驚きすぎて素っ頓狂な声を出す。
「ここじゃ、狭すぎて3人は住めねぇだろ。俺のマンションならそれなりの広さはある」
確かに、この家に3人住むのは…きついね……。
って…。
「3人で住む?!」
私は驚いて大きな声を出してしまった。
「が起きるぞ」
景吾さんがそう言いながら、ちらりと寝室の方に視線を向ける。
やば……。
私も寝室の方に視線を向け、その向こうの様子を伺う。
………静かね…大丈夫みたい。
「って、景吾さん、3人で住むって…それってつまり……」
「同棲ってヤツだな」
私の言葉に、景吾さんがさらりと言う。
「なんで?どうして、そんな話になるんです?」
籍入れないなら、同棲ってちょっと……。
「今まで…お前 に寂しい思いさせてきてんじゃねぇのか?」
景吾さんの言葉に、私は思わず「あ……」と声を上げる。
確かに…今まで、は随分寂しい思いをしてきたのよね……。
私が仕事で居ない間、保育園に預けられっぱなしで……。
一緒に居る時間は休みの日と、平日だと朝と夜のわずかな時間……。
「俺と一緒に住めば、生活全般全て俺で面倒を見る。お前は働く必要はない。 お前が仕事を辞めれば、保育園に預ける必要もねぇ。…幼稚園に通わせても良いけどよ」
一般的に、保育園で面倒を見てもらえるのは、保育されない状況にある子供。
つまり、親が働いていて面倒を見てくれる人が居ない場合、保育園に収容してもらえる。
ちなみに、幼稚園は保育園と違い、勉強の場…という意味合いが強いし、保育園ほど預かってくれる時間は長くない。
私が働くのを辞めれば、
は保育園に行く必要はなくなり、幼稚園に預けても今まで以上に
と触れ合う時間が増える。
「の…為って事ですか?」
私は景吾さんに問う。
「まぁ…、半分は……な………」
「半分?」
景吾さんの物言いに、私は再び質問を投げかける。
すると、景吾さんは照れくさそうな顔。
……なんだか可愛くみえる…こんな顔されると……。
「お前達に、傍に居て欲しいんだ…。誰も居ない家に帰るより…お前達が居る家に帰りたい……」
………景吾さん……もしかして…寂しいの…かな?
でも、それを言っても、景吾さんにはそうじゃないって言われそうだから…、あえて何も言わないけど……。
私と、結婚したいって言ってるのは…、ずっと傍らに居る人が欲しいから……。
……そうだとしたら……。
「景吾さんが…私を好きになった理由…教えてください。どうして…私なのか……。教えてくれたら、同棲の話…考えても良いです」
私は、景吾さんを見据えて言った。
景吾さんも、私を見つめ返す。
そして…、景吾さんが……全てを…語ってくれた………。
全てを聞いて、私はどれだけ彼に想われていたのかを知った。
そして、に対する想いも……彼は一緒に語ってくれて……。
横暴さとか、俺様な所とか…そういうのは息を潜めて、真剣に語ってくれた景吾さん。
「ここ数日、逢えなかったろ…。その間も、お前達に逢いたくてしょうがなかったんだぜ?」
だから、こんな時間にもかかわらず、家に来たの?
色々と、考える事はまだある。
でも、景吾さんの気持ちが真剣だって事が、多分私の心を動かしたんだと思う。
私は「不束者ですが、娘共々よろしくお願いします」と頭を下げた。
同棲に関しては…よろしくお願いしますと言ったけど……。
籍を入れるまでは、まだ考えさせて欲しいとは伝えた。
景吾さんは、それでも構わないと、にっこりと笑ったの。
本当に、嬉しそうに……。
これから先、彼との生活にどんな事が起こるのか……。
それはその時になってみないと、解らない事……。
そんなこんなの話が終わった後、景吾さんに求められたんだけど……。
丁度、生理 真っ只中だったので、ごめんなさい しました。
そうしたら景吾さん…。
「終わったら、たっぷり可愛がってやるから覚悟しとけよ」
なんて言葉を、妖艶な笑みを浮かべて言うの。
私の顔が、一気に赤面したのは……言うまでもないよね。
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コメント:
ありえないほど、トントン拍子…。
ヒロインも、結婚の意志はないけれど、跡部自身に好意はあると思います。
あ、ヒロインは紅茶を入れるのが趣味で、玄人はだしな設定…。
ちなみに、跡部が言った『養子縁組』についてですが…。
婚姻届を出しても、ヒロインの娘、の戸籍はあくまで、ヒロインの娘。
跡部の娘にはならないんだそうで。
が、跡部の娘になるのに必要なのが『養子縁組』なんです。
これで、は跡部の娘とも戸籍上に反映されます。
が…、戸籍上は結局、養女…。
なんで、『特別養子縁組』なんて言葉が跡部から出た訳です。
『特別養子縁組』になると、戸籍上は完全に跡部の長女(現在この表記はされてないらしいですが)となることが可能で、実子と同じ扱いになります。
養子と実子の権利の違いは、難しすぎてわからないのですけれど…。
跡部が、『特別養子縁組』を持ち出したのは、の実父、浦川コウとの縁を完全に遮断したいという理由があります。
『特別養子縁組』をすると、と浦川コウとの戸籍上の親子関係は全て消えます。
浦川コウがの親権を主張しても、完全却下になるかどうかは解りませんが、なかなか認められないでしょう。
跡部はを浦川コウに渡す気は更々ないので、こうやって主張をしても認められにくい状態にしてしまいたいのです。
子連れ婚での『特別養子縁組』はなかなか、裁判所の許可が下りないので、本来なら難しいですが…。
の置かれていた状況などを考慮すると、許可が下りる可能性も……ある筈です。
まぁ、の親権、戸籍の問題は、確実に裁判沙汰になるでしょうね…。
そこまで深くは書くには勉強が足りないので、無理ですが……。
詳しく『特別養子縁組』に付いて知りたい人は、自力で調べてください^^;
実際は、親に恵まれない子、子に恵まれない親、の為の制度だったりします。
『特別養子縁組』を跡部に言わせたのは、跡部がどれだけを思っているのかを浮き立たせたかったんです。
……え?
表現が難しすぎる?
あはwwww
気にしないでwwwww
つか、気付いたけど……。
ヒロインの名前変換が全くないwwwwwwwwwwwwwwwwwww
娘のだけですね; |