面接会場で、あの子を見たときは、そりゃ驚きましたよ。
あの子って誰かって?
ちゃんですよ。
その当時、まだ中学生。
履歴書には、まだ、卒業見込みの文字。
一緒にいた主人もびっくりしてましたわ。

私は、日本屈指の大財閥、跡部家に長く仕える使用人。
名は沢木清音と申します。
私の夫も同じく、跡部家に仕える使用人で、沢木基之という名です。
景吾様が生まれる前から、跡部家の豪邸で働いておりました。

このほど、景吾様が慣れ親しんだ屋敷を離れて一人暮らしをなさるという事になり、私と夫は景吾様のお屋敷へついてゆく事になりましたの。
でも、私達夫婦だけでは人手が足りないだろうと、新しく使用人を雇う事に。
面接や合否、雇う人数については全て、景吾様から一任されたので、私達の思う通りに事を動かしたのでした。

年齢、性別、経験不問。
そんな条件だったからでしょう。
面接に、ちゃんがやってきたのです。

面接の中で、いろいろと話を聞くと、随分とわけありな子みたいで…。
ご両親は10歳の頃に他界。
今は児童養護施設に預けられているそうで…。
仕事をする理由を聞いて、もう、私は感心してしまいました。
彼女にはたった一人の家族である妹さんがいるらしいのだけれど。
その妹さんを大学まで進学させたい。
その学費を稼ぐ為に働きたいのだと。
なんて妹思いな子でしょう。
主人は、可哀相な子だといわんばかりの、同情の眼を向けていたけれど…。
それはちゃんに失礼な視線だわ。
だって、そうでしょう。
あの子、自分が不幸だなんてこれっぽっちも思っていない様子なんだもの。
なんていい子でしょう。
きっと、どんな仕事でも一生懸命働くわ。
だって、力が漲った眼をしているんだもの。
凄く強い女の子だってわかる。
私の勘はあたるのよ。
それにね、私、ちゃんを気に入っちゃったんですの。

面接終了後、ちゃんが面接会場を後にした後の事。
私は主人に言ったの。
「今の子、合格にしましょ!」って。
主人は「ちょっと子供過ぎやしないか?」と渋ったのだけれどね。
でも、私の勘があの子なら大丈夫だって告げてる事を伝えたら、主人はお前がそう言うのなら…って承諾してくれたの。
もしかしたら、景吾様にこの人選を考え直せって言われるかもしれないけれど、その時も押し通すつもりよ。
だって、景吾様は知ってるもの。
私の勘がどれだけあたるのか。

その後、ちゃんを採用するにあたって、懸念していた景吾様の反対は無かった。
お前達に任せたんだから好きにしていいとの事。
なので私は、彼女に連絡を取る。
履歴書にあった、児童養護施設へと……。
採用の旨を伝えた時のちゃんの嬉しそうな声。
私も嬉しくなって、頬がほころんだ。
ああ、ちゃんと一緒に働ける日が、待ち遠しいわ…。

 

そして、やってきた四月。
景吾様のお屋敷も完成して、今はいろいろと家具が運び込まれている所。
もちろん、全て新調したものばかり。
景吾様の指示の許で。
それでも、本格的に引っ越すまでには少し間が空いたので、ちゃんの研修をする事に。
研修場所は、今まで私達が働いてきた、跡部会長の豪邸。
私がちゃんへこれからの仕事の指導をする事に。
まあ、当たり前ですわよね。
とても頭の良い子で、要領もよいし、何より家事全般を得意としている子だったので、1を教えれば10を覚えてくれました。
本当に手の掛からない子だわ。
にこにこと笑顔の可愛い子で、人懐っこい。
誰とでも仲良くなれる、そんな子。
きっと、景吾様も気に入りますわ。
もちろん、その他の新人さん達だって景吾様が気に入るような人選ですわよ。
でもね、ちゃんはかなり別格。
だって、ちゃんを雇う事に渋っていた主人だって、今ではあの子を高く評価してるんですもの。
一緒に仕事をしたのは経った数日なんですのよ。
主人は仕事に甘い人ではありません。
どんなに子供でも、仕事は仕事ときっちり指導する人ですの。
どちらかと言えば、仕事には厳しいといえるかもしれないですわね。
そんな主人が評価してるんですのよ。
凄い子だと思いませんこと?
私、ちゃんを早く景吾様に会わせて差し上げたい……。
でも景吾様はドイツへ出張中で…。
結局、景吾様が帰ってきたのは引越し日前日の夜でした。
 

私はちゃんを景吾様に紹介する事に。
私室で一心地ついていた景吾様にその旨を伝えると、景吾様はリビングにつれてくるよう指示をだされました。
景吾様らしい指示だと思いましたわ。
だって、景吾様は自分の気に入った人間以外は私室には入れないんですもの。
どうしても必要な時は入れてくださるけれど。
どうしても…と言う理由が無い時は、絶対に入れようとはなさいません。
入れるのは景吾様のご両親と私と主人だけ。
つまり、景吾様の私室の掃除だなんだといった仕事は全て私と主人の仕事だったのです。
あ、話が反れましたわね。
もとに路線変更。
そして、私はちゃんをつれて、リビングへと向かったのでした。

そのリビングでの事。
ちゃんを一目見た景吾様の目。
すぐに解りましたわ。
fall in loveしてしまわれたわ!って
あの目は、幼稚舎…小学校…時代の担任の先生に恋した時と同じ目だったんですもの。
景吾様の初恋だったんですのよ。
お約束のように、他の男性に嫁いでゆかれて、景吾様は失恋だった訳ですけれど……。
その後、景吾様は恋らしい恋をすることは無くて…。
美貌と賢さ、富を持つ景吾様を、女性達が捨て置く筈が無い。
景吾様は、それはそれはモテられて…。
思春期の頃には、入れ替わり立ち代り、彼女と呼ばれる存在が隣におりました。
けれども、恋をしたような瞳は景吾様には全くありませんでしたわ。
来る者拒まず…ではありませんでしたわね。
好みに合わない女性は相手に全くしませんでしたし。
けれど、付き合っていた女性と別れた後は、未練もなく切ってしまわれました。
去るものは追わない景吾様だったのです。
傍から見れば、派手な女性関係ではなかったでしょうか……。
大学を卒業してからは、仕事の多忙さで女性に構う暇がなくなったようで、女性関係が全く見えなくなってしまいましたけれど。
まぁ、一夜限りの関係…という女性関係はあるかもしれません。
なんとなく、勘ですが。

とまぁ、余計な話は置いといて。
この場にいない主人も解るんじゃないかしら。
景吾様の恋した目。
他に解るであろう人物は、後は景吾様のご両親くらいかしらねぇ…。
とにかく、景吾様は恋に落ちてしまわれたようなのです。
ちゃんに。
十も年下なのに?
そんな事、思うわけないでしょう。
だって、景吾様のお母様の絵瑠様と、お父様の景一様だって、年の差は十ですもの。
恋愛結婚でしたのよ。
だから、愛に年齢なんて関係ない、そう思えるのです。

え?
ロリコンが遺伝してる?
………それは言わないお約束ですわ。

ああ、これから先の生活はどんなものになるのでしょうか。
誰の生活?
私や主人だけでなく、景吾様やちゃんの生活ですわ。
楽しみでなりませんわ。

 

新しく雇い入れた使用人の一人、ちゃんに恋をしてしまった、我等がご主人の跡部景吾様。
もちろん、この事は主人に話しましたわよ。
景吾様に十数年ぶりの春が来たって事を。
主人が大喜びした事は、言うまでもありませんわね。
「これからは、皆で景吾様の恋をバックアップするぞ、清音」
そんなノリノリの主人の言葉に、私が大きく頷いた事も…懸命な方ならお解りでしょう。
景吾様直々に、ちゃんを景吾様付きの仕様人にするよう、指示もありましたし、大手を振って景吾様の恋をバックアップですわ!

先ずは、ちゃんの仕事内容を変更ですわね。
裏方仕事をちゃんにはやらせていたのですが、今日からは表のお仕事をやってもらいますわ。
景吾様の起床を促すのも、景吾様のお部屋のベッドの天蓋を開けるのも、カーテンを開けるのも、景吾様のロードワークのお見送りも…今日明日は筋トレマシーンがないので、日課の一つの筋トレは出来ないのです…。
筋トレのときはそのまま付き添っていただくことになるんですが。
景吾様が居る時のお世話の一切は、ちゃんに任せてしまいましょう。
その内、お洋服を選ぶというお仕事も覚えてもらいますわ。
景吾様の事だから、ちゃんが選んだ服ならどんなコーディネートでも喜んで着るでしょうね。
突然、仕事内容が変わって、ちゃんも困ってしまうでしょうけど、頑張っていただきますわ。
ちゃん、玉の輿が目の前に迫ってるのですから、しっかりと景吾様のお世話をしてくださいね。
心の中でそんな事を思いつつ、私はちゃんに新しい仕事を教えるのでした。

景吾様のお世話はいろいろとあります。
先ほど述べたのはほんの一部。
しかも、朝のお世話の…と言う言葉が付きます。
景吾様がロードワークに行かれている間に、景吾様のお着替えを選んで、景吾様の私室にあるハンガーにご用意しておいたり、景吾様がお帰りになった時は、お出迎えして、スポーツタオルとスポーツドリンクをお渡ししたり……。
その後は、シャワーから戻られた景吾様のお着替えが終わった後はダイニングルームで景吾様のご朝食ですので、その間、ダイニングルームの隅で控えていてもらうことになりますわね。
夜になれば別の仕事がありますが、ちゃんが混乱してしまうでしょうから、その時に教える事にしましょう。
まぁ、ちゃんは賢明な子ですから、仕事をあっという間に覚えてこなしてくれるでしょうね。
あら、私達夫妻のお仕事が減ってとても楽になりますわね。
景吾様が新居に移られたら、私達は新居での家事仕事一切を仕切る事になるので、多忙になると思っていたんですが…。
思ったより、のんびりと出来そうですわ。
それもこれも、ちゃんの存在のおかげ。
雇って正解でしたわね。

景吾様が朝食を終えた後、ちゃんが今後の仕事内容を聞きに私のところへやってきた。
今日は、景吾様のお仕事はお休み。
新居には昼過ぎからの移動予定です。
ですから、後のちゃんの行動は景吾様のお言葉次第。
景吾様の私室で控えてもらう事にしましょう。
その事を伝えると、ちゃんは「はい」と頷いて、景吾様のお部屋へと向かったのでした。

その後は、私も主人も、お引越しで忙しくしておりましたので、景吾様のお部屋には寄り付きませんでしたわ。
つまり、景吾様とちゃんの二人きりの時間が長くあったという事です。
その時、ちゃんの淹れたコーヒーがとても美味しかったそうで…。
これから、食後のコーヒーはちゃんに淹れさせるようにと、景吾様からのご指示が来ましたわ。
あの、舌の肥えた景吾様が美味しいと仰るのは、愛のなせる業なのか、本当に美味しいのか、その時は解りかねましたが、その後、ちゃんの淹れたコーヒーを飲む機会に恵まれて解りました。
ちゃんの淹れたコーヒーは絶品だったんですの!
彼女が喫茶店を開いたら、大人気のお店になる事間違い無しですわ!
景吾様がお気に入りになるのも無理はありませんでしたわね。
コーヒーだけでなく、紅茶も緑茶も、絶品の美味しさだと知ったのも、その後すぐの事でしたわ。

本当に、よく出来た子ですわ。
こんな良い子なんですもの。
景吾様には何が何でもゲットしていただかなければ!
景吾様の幸せの為にも。
それに、ちゃんだって景吾様と結ばれた方が幸せになれるに決まってますわ。
ここだけの話ですけれどね。
唯我独尊な性格の景吾様ですが、好きな女性には尽くす人なんですのよ。
景吾様の初恋の時に、その事を私や主人は知りました。
ですからね、ちゃん、早く景吾様のものになっちゃってくださいな。
苦労の無い幸せな世界が待っていますわよ。
 

   


<あとがき>
清音さん視点でござります。
勘のいいおばちゃま、清音さん。
いい人ですよ。
いい人の集まりですよ。
こんな風に、ほのぼのストーリー?
清音さんの勘は100%当たります。

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