永遠の愛、叶わぬ愛


薄暗い室内にぴちゃぴちゃと卑猥な音だけが響く。
「……昴」
頭を撫でながらやんわりと行為の停止を促すと、昴は動きを止めて上目遣いでこちらを見る。
「…イきたければ、イってもいいよ…」
「うーん、それでもいいんだけどね。ボクも若くないからなぁ、二度目を出来る自信がなくて」
「………ふぅん」
嘲るような視線を向けながらたった今まで口に含んでいたものを白い指がなぞっていく。
「どうせならキミを悦ばしてあげたいしね」
少しだけ紅潮した頬に手を伸ばすと鬱陶しそうに払われる。
「…そうだね。せいぜい、楽しませて貰おうか」
言うなりネクタイを緩め、手馴れた手つきで服を地面に落としていく。
昴はいつも服を脱ぐときは決して触らせようとはしない。
…もしかしたら、服と一緒に普段の冷静沈着で凛とした仮面も脱いでいるのかもしれないと思う。
これからの昴は、普段の姿からは想像できないほどに淫らなのだから。
浮かび上がる、白い裸身。
落とした視線を再び絡めて、挑発的に昴は微笑む。
「…僕を満足させてくれよ?サニーサイド」


「……はっ…くぅ……んん…」
「昴…少しくらい慣らしてからにしてくれよ」
ボクをベッドに倒すなり、自分の秘部へペニスを導いて慣らしもせずに身体を落とす昴に苦笑する。
前戯もなしでいきなりでは昴とて痛かろうに。
「…別に、平気だよ。すぐに、慣れる……」
さきほどまでの口淫による唾液と秘部にまとわった潤みを潤滑液に、昴はゆっくりと体内に楔を埋め込む。
望むならばいくらでも前戯くらいするのに、昴はそれを嫌がる。
…まるで、わざと痛みを感じたがっているようだ。
「……ふぅ……」
奥まで全部飲み込んだのか、昴がゆっくりと息を吐く。
その姿を見ながら初めての夜の事を思い出す。


誘ったのは昴の方だった。
その日中にまとめなければならない仕事があり、支配人室で書類に目を通していた所にノックをされ
こんな夜更けに何の用だと思いつつも深く考えず部屋に招き入れる。
「こんばんは、失礼するよ。サニーサイド」
「こんばんは、昴。どうしたんだい?こんな夜遅くに」
書類に視線を落としたまま声だけで答えると、昴は後ろ手に支配人室の鍵をかけつつ言う。
「……こんな夜遅くまで仕事かい?大変だね」
「ああ…まぁね。だから手短に用件を済まして貰えると助かるかな」
「そうだね…仕事の邪魔をするのも悪いから手短に済ますよ」
すっと昴の姿が近づいてきても、何か渡すものでもあるのだろうかと思っていた。
それとも人には聞かれたくない話でも打ち明けられるのか。
とにかく、さほど気にしてなかったせいか、異変に気付いたときには顎に手をかけられて唇が重なっていた。
流石に予想外の行動に面食らったが、好意のあまりの抑えきれない行動…と言う割には昴は淡々とした表情をしている。
伏せられた長い睫毛を眺めながら、さてどうしたものか…と口付けをされたまま考える。
真意がわからない以上、下手な行動はとる気はなかった。
「……目を閉じるか抵抗するかくらい、したらどうだい…」
そっと顔を離した昴はボクを見て不愉快そうに呟く。
どうやらボクの態度が気に食わなかったらしい。まぁ、そうだろう。
あきらかに『せまっている』状況なのに否定とも肯定ともとれない態度をとられたら。
「いや、すまないね。つい驚いてしまってさ。うーん…キミの気持ちは嬉しいんだけどボクには恋人が…」
「知ってる。ラチェットだろう」
とりあえず当たり障りの無い逃げをうってみるが、昴の言葉に遮られる。
「なんだ、知ってたのかい。……その上でこの行動はどう解釈すればいいのかな?」
知っていたことにはいささか驚いたが、昴相手に隠しても無駄だろうとあっさり肯定し、逆に問う。
「別に、略奪愛なんかに興味は無いよサニーサイド。ただ、ラチェットが気に入った男に興味が湧いただけさ……」
チェアを自分の方に回すと、ボクの首に腕を回し片足で乗りかかるような姿勢のまま昴は囁く。
「なるほど。夜の遊び相手が欲しいというわけかい」
「まぁ、そうだね」
素直な感想は、気分は悪くないが困ったな、というところか。
昴の容姿は決して嫌いじゃない、というかむしろ好みの部類だが。
一つだけ確認せずにはいられない点があるのだ。
「……ところで、こういう誘いをしてくるということはキミは女性なのかい?昴」
「確かめてみればいいじゃないか。自分で」
そう、ボクは昴の性別を知らない。
特にそれで不都合もなく興味もなかったし、長い付き合いのはずのラチェットですら知らないのだから。
「確かめてやめるのもキミに失礼じゃないか」
「…随分と意気地なしなんだな」
さらりとかわされて困ったように笑うと、思いっきり冷ややかな視線を向けられる。
「いやぁ…今の所ボクには男とやる趣味はないからねぇ」
これで納得してくれたら助かったのだが、昴は煮え切らない態度に嫌気がさしたのか大胆な行動に出た。
「……別に確かめてから止めても構わないよ。それで気にするつもりもないしね」
カチャリと音がしてベルトが外され、昴のズボンのファスナーが下ろされる。
「そういう聞き方をするということは、興味くらいはあるんだろう?…僕の性別」
ふっ、と不敵な笑みを浮かべると、ボクの手を取り下着の中へ導く。
すぐに手に触れたのはやや小ぶりながらも自分のと同じ男性器。
男だったのか、と昴の目を見ると昴は笑みを崩さず言った。
「驚くのはまだ早いよ」
さらに奥へと導かれると当然あるべき袋はなく、その代わりに女性にあるはずのふっくらとした茂みが存在していた。
今度こそ驚いて思わず声を失ったボクの瞳を見つめて、昴は微笑んだ。
「……どう?興味を持ってくれた?」


答え代わりに割れ目の中の蕾に指を入れると、くちゅりと音がする。震える蕾は既に濡れていた。
「んっ…ぁ…」
艶かしい声をあげて、昴が首に絡みつく。
「興味を持ってくれたようだね」
耳元で囁く、その声は嬉しそうだった。
興味を持たない人間が居たら見てみたい。
我ながら現金なことだと思うが、さっきまでの困った気分は何処へやらむしろ乗り気な自分に心の中で笑う。
「そうだね、かなり興味が湧いたかな」
膣口に入れたままの指を動かしながらスーツのボタンに手をかけようとすると、昴の手がそれを止める。
「……服くらい自分で脱げるよ。ちょっと待ってくれないか」
言うなり昴の身体が離れて、するすると服を脱ぎだす。
あまりの良い脱ぎっぷりに呆気に取られて見ていると、あっという間に一糸まとわぬ姿になった。
「…お待たせ。せいぜい楽しませてくれよ?サニーサイド」
ぎし…という音がして昴が再び首に手を回し、上に乗りかかってくる。
「……そうだね。満足してもらえるように頑張るよ」
舌を絡めながらほとんど膨らみのない胸の突起を指でつまむ。
「…ふぁ…はぁぁ…」
膨らんで無くても感度はあるんだな、などと思いつつさするように揉むとくねるように身体が動く。
その突起を舌先で突いたり、吸い上げる。軽く歯を立てると更に甘い声が漏れた。
「あ…っ…はぁ…ん…」
くたりと崩れ落ちそうな身体を腰に腕を回して支える。
これくらいで力が抜けてしまうようならこの姿勢では無い方がいいかもしれないと思い
机に向き直り無造作に置かれたスーツの上着を書類の上に敷くと、その上に昴を横たえた。
ほんのりと頬を染め、潤んだ瞳の昴と目が合う。
まるで誘うかのようにかすかに開いた唇からは、熱い吐息が漏れていた。
「…へぇ、ちゃんと勃つんだ」
「……まぁ、一応ね」
小さいながらも立派に上を向いている男性器を見ながら言うと、昴の頬が更に染まり顔を背けられる。
…気丈に振舞っているが、それなりに恥ずかしいらしい。
少し迷ったが、更に潤みを帯びた割れ目の中に指を入れつつその小さな男性器を口に含む。
「…んっ…な…何をしている!そんな事しなくていい!!」
昴が驚いたように抗議するが、舌で口の中のモノを弄びつつ柔らかな肉の中をちょっと強引に掻き回すとすぐに吐息に変わった。
「…っ…や…ん、んんっ……」
これが流石に自分と同じくらいの大きさがあったら躊躇っただろうが勃っても予想以上に小ぶりだったからだろうか。
むしろ、好奇心に負けたと言ってもいい。
「…あぁっ…いや…っくぅ……」
強引に掻き混ぜたのは抗議を遮る為だけだったので、その後はゆっくりと徐々に奥へ、そして指を増やしていく。
身体自体が華奢なせいもあって、昴のそこはかなり狭い。
昴が初めてなのかは知らないし自分のが特別大きいとは思わないが、じっくり慣らさないと辛いかもしれないと。
「はっ……あ…ぁ…ああっ!ダメっ…離せっ…」
しばらく舌と指で愛撫をしていると、急に昴が大きく身じろぎをして、力の入らない腕で引き剥がそうとする。
ほどなく、口の中のモノがびくびくと痙攣して昴が達したのだとわかった。


「……すまない…」
「いや、いいよ。別にキミが気にすることじゃない」
口の中の精液を胸ポケットから出したハンカチに吐き出すと昴はふらふらした身体を起こして目を伏せる。
「まぁ、これはこれで滅多に出来る体験じゃないし。好きでやったのはボクだしね」
口の中に残る苦いようなざらざらした味は不快だったが、言葉に嘘はない。
「…しかし…」
「本当に気にしないでいいよ。それより、そろそろ挿れてもいいかい?」
尚も言葉を紡ごうとする昴の腕を掴んで机上にそっと倒す。
「……ああ」
手早くファスナーを下ろし、自分の性器を取り出す。
「挿れるよ。力、抜いてね」
耳元で囁くと入り口にあてがう。
昴の身体が一瞬強張ったが、すぐに深呼吸をしながら力を抜いたのを確認して、中へと挿入した。
「う……んっ…んんっ…」
昴の手首を押さえていたボクの腕を昴の指がぎゅっと掴む。
「…大丈夫かい?痛くない?」
思ったとおり、中は狭かった。
だが、まとわりつくような気持ちよさに思わず脳がくらりとする。
我を忘れて動きそうな自分を自制し、昴の反応を窺う。
「……平気だよ」
「それは良かった。ところで…初めて…じゃないよね?」
「ああ……」
今更聞くのもどうかと思ったが、念のために聞いておく。
「じゃあ楽しもうか、昴」
「……あっ…ひぁ…っ…んんっ!」
ゆっくりと奥まで入れると、ギリギリまで引いたり、一気に貫いたり昴の中を存分に楽しむ。
「はっ……はぁ…っ…ひっ…!」
一気に貫くと、一段と高い昴の嬌声が上がる。
声の度に締め付けられてイきそうになるのを必死に堪えつつ、動きを早めていく。
「や…ああっ……くっ…ぅ…あああっ!」
どうせなら、長く楽しもうと思っていた。
滅多に抱くことなど出来ない特異な身体。
じっくりと時間をかけて、喘がせて、鳴かせてみたい。
「…う……んっ…ぁ…あっ…」
いつも冷静沈着を絵に描いたような昴。
戦闘においても舞台においてもその才能をあますところなく発揮する天才。
それが自分の下であられもない声をあげている、何よりもその姿に欲情したのかもしれない。
「…くぅっ…んっ…はっ…あ、あ…あ……っ!!」
ぎゅっと足を閉じられて昴の中が一層きつく締まり、我慢の限界を感じた瞬間に咄嗟に自分自身を引き抜く。
自分のモノと、昴のモノ、両方から吐き出された白い欲望の塊がすべすべとした昴の腹を汚した。


「……別に、中に出しても構わなかったのに」
乱れた呼吸を整えながら、昴はそんな事を言う。
「僕に、生殖機能なんてあるわけがないだろう………」
「まぁ、そうは思ったけど一応ね」
二人分の精液で汚れた昴の腹を拭きながら、言われてみるとそうだなと思う。
なんとなく悪い気がしてついつい直前で抜いてしまったのだ。
「……で、満足してもらえたかい?」
「そうだね…もっと下手かと思っていたけど思ったよりは良かったかな」
髪をかきあげながら、昴はむくりと上体を起こす。
「楽しんでもらえたなら光栄だよ」
ボクも楽しかったしね、と言うと昴は服を身につけながらふっと笑う。
「ふぅん……そんなに良かった?僕の身体は」
「ああ、とてもね」
それは素直な感想だった。
「ラチェットとどっちが良いかい?」
「……どちらも違う良さがあるからなんとも言えないなぁ」
非常に返答に困る質問だったので、適当な答えでかわす。まぁ、嘘でもないが。
…しかし抱いておいてこんな事を思うのもおかしい話だがいまいち解せないことがある。
自分の性別をばらしてまで一夜限りの遊び相手が欲しがるような性格には見えない。まして特殊な性なのだし。
何で昴がこんな事をしたのかどうにも理解できなかった。
自分の上司の恋人でなおかつ相手も自分の上司である人間との火遊びなんてリスクな事をするようには見えなかったが。
それは自分の思い過ごしだったのか。
理由は昴がぽつりと漏らした一言で判明した。
「ラチェットも…何で君みたいに恋人の部下に簡単に誘惑される男を選ぶのかな…馬鹿だ…」
よく、女の勘とは言うが男の勘というものもあるのだろうか。
その言葉にぴんと来た。
「昴、キミは…ラチェットが好きなのかい?」
「……っ。違う…」
びくりと動いた肩が、答えを物語っていた。
なるほど、と納得する。
だが、自分の好きな相手の恋人を色仕掛けで誘惑するとはまた思い切ったことをするものだ、と感心しつつ。
「…ラチェットにばらすのかい?ボクがキミに簡単に誘惑されて抱いたことを」
「言うわけがないだろう。こんな身体なのを、知られたくない」
からかうように問うと、きっとした瞳で睨み返された。
「ボクには知られてもラチェットには知られたくないんだ?…随分惚れてるねぇ」
「違うと言っているだろう…それに、別に君にばれたところで困りはしない。…他言するようなら、容赦はしない」
身支度を整えた昴がすっと鉄扇をボクの喉元に向ける。
「はっはっはっ…もちろん他言しないよ。その鉄扇でずたずたにされるのはご免だからね」
「じゃあ…僕はもう行く。仕事中を邪魔したね。それなりに楽しかったよ」
「昴」
身体が勝手に動いた、というべきかそういい残して去ろうとした昴の腕を思わず掴む。
「…まだ何か用?」
「……」
掴んだはいいものの、良い言葉が思い浮かばない。
悩んだ末に、出てきたのは安っぽい口説き文句のような台詞だった。
「…キミの事がもっと知りたいな」
「………」
昴は驚きで目を見開いたが、すぐに妖艶な微笑みを浮かべると返事の代わりに唇を重ねてきた。
「嬉しいな、僕もだよ。サニーサイド」


それから何度か昴を抱いた。
毎回支配人室でやるわけにはいかないので二度目からはホテルでだったが。
誘うのはほとんど昴からだった。
ラチェットに対する罪悪感がないわけじゃないが、昴への好奇心が勝った。
自分の恋人を思慕する両性の人間に興味を惹かれないわけがない。
人生はエンターテイメント。何事も楽しまねば、生きている意味が無いのだ。


自分がラチェットを好きな事がばれたのを開き直ったのか、むしろそれが目的だったのかは分からないが
二度目以降の昴は行為の度にボクと居る時のラチェットの事を聞きたがった。


『ラチェットがどんな事を言うのか』
『ラチェットがどんな表情や仕草をするのか』
『ラチェットと居る時にどんな事をするのか』
『ラチェットをどんな風に抱くのか』


睦言としては非常におかしいとは思うが、昴はラチェットの事ならどんな事でも知りたいらしい。
ちょっとした事でも熱心に聞いては笑ったり、ため息をついたり。
……その瞬間だけ、ボクを挑発する妖艶な瞳が無邪気な子供のように輝く。
恋は盲目というべきか、人を変えるというべきか。
想われているラチェットですらこんな昴は知らないんじゃないだろうか、と思うとそれなりに愉快な気分になる。
自分の私生活を暴露するのに多少の躊躇いがないわけじゃないが、ばれなければいいだろう。
ただ、ボクがラチェットをどんな風に抱くかと尋ねる時の昴は、少しだけ悲しそうな目でボクを見る。
無理もない。愛しいラチェットの事を知ると同時に、叶わぬ思いを痛感させられるのだから。
昴も、自分がどんな顔をしているのかわかっているのだろう、極力ボクの目を見ずに身体を預けてこう囁く。
「僕も…ラチェットと…同じように…して……」
そう言われればもちろん応じる。
自分の好きな相手の恋人に恋人と同じように抱け、というのは酷く倒錯的だったが、両性である昴らしいのかもしれない。
「……ああ…んっ…サニーサイド……」
甘い声で自分の名前を呼ばれるのは好きだった。
けれど、恍惚で閉じられた瞼の奥ではきっと昴はラチェットの名前を呼んで、彼女を想像しているのだろう。
それが、ラチェットを抱くボクに自分を重ねているのか、ボクに抱かれるラチェットに自分を重ねているのかは分からないが。
たまに聞いてみたくなるが、きっと昴は答えてはくれないだろうと口にすることはない。
お互い、余計な詮索などする気はないところが、気に入っているのだから。

一度、どうしても気になって昴に聞いてみたことがある。
「ラチェットのどこが好きなんだい?」
「……人に何かを尋ねる時は自分から言えと教わらなかったのか?サニーサイド」
眉間に皺を寄せてむっとした表情で昴は言った。
「これは失礼。…そうだなぁ、顔も体も性格も全部好きだよ。しっかりしてるように見えて意外とぬけてる所も可愛いし」
ボクの言葉に満足したのか、まるで自分が誉められたかのように嬉しそうに昴は微笑む。
「そうか…。僕は…自分には持ってないものを持っているところ、かな」
「意味深だね」
「深い意味は無いよ」
人は自分と同じものを持っている人間、もしくは持っていない人間に惹かれるとどこかで聞いた覚えがする。
ラチェットが持っていて昴が持っていないもの…すぐに思い浮かんだのは女性としての豊満な肉体だったが
昴がそれを欲しがっているようにも思えなかったので、考えるのをやめた。


「そういえば…昴。一つ聞いていいかい?」
「……は…っ…何…?」
ボクの上で身体をくねらせる昴に合わせて腰を動かしつつ呟く。
「キミが初めて訪ねて来た晩…何であの日だったんだい?」
過去を思い出すうちに、ふと気にかかったことを言っただけなのだが、昴は唇を噛みしめて下を向く。
「それは……」
「いや、ごめん。言いたくないならいいよ」
まさかそんな顔をされるとは思っていなかったのでしまったと思いつつ、お詫びを兼ねて胸の突起を口に含むと舌で転がす。
「…ふぁ……ラチェットが…舞台の稽古のあとに…うたた寝をしていて…」
弓のように身体をのけぞらせて、昴は囁く。
「起こそうと……ん…思ったら…首筋、に…キスマークが……っ…見えて…」
心の中で舌打ちをした。確かに、前日につけた覚えがある。見えないだろうと思ったのだが…甘かったか。
「昴。もういい」
突起に軽く歯を立てて昴に黙るように促すが、昴は呟くのを止めない。
「…ぅ……あっ…!…君と…付き合ってるのは…知ってた…けど…何だか…自分でも…よく…わからないうちに…」
「昴」
立ち上がった男性器をぎゅっと握りしめると身体がびくんと震え、悲鳴が上がった。
黙らせるには、こっちの方が効果的かもしれない。
「…やっ…!…っくぅ…ん…」
同時に膣の中を締め付けられる。
相変わらずくらりと蕩けるような感覚を紛らわせる為に、身体を起こし逆に昴を下に組み敷く。
「あんまり聞き分けがないと、優しくしてあげないよ?」
「いいよ…別に。そうだね、今日は何だかぐちゃぐちゃにされたい気分かもしれないな…」
潤んだ瞳でボクを見上げながら昴は笑う。
「では昴のお望みどおりに」
両足を高々と持ち上げて奥まで入るようにしてから、細い腰を掴んで激しく動かす。
「…ああっ…!ん…っ…もっと…もっと…っ…僕を…ぐちゃぐちゃに……っ!!」
犯して、と昴の声が聞こえた。
いつもなら瞼の裏にはラチェットが居るのだろうが、それすらも考えられないように。
他に昴を慰める術など知らない。
「……はぁっ…はっ…あぁ…サニー…サイド…っ…ん、んっ……ああああっ!!」
昴の腕が首に絡みつき、動きが一瞬止まる。一際高い声が上がったのは、達したのか。
「昴…っ」
「…サニーっ…っ……ぁ…サニー…サニーっ…!!」
狂ったかのようにボクの名前を繰り返す昴の声を聞きながら、昴の中へ、欲望を吐き出した。


それからもしばらく、昴との関係は続いた。
相変わらず昴はラチェットの事を聞きながらボクに抱かれる。
終わるきっかけは大河新次郎…彼が現れたことだった。
昴は彼に興味を持ったらしい。
「大河くんと昴…何だかいい感じね。ね、サニーもそう思わない?」
どことなく嬉しそうに笑いながら、ラチェットが呟く。
「そうだね…」
「昴は欧州星組からの仲間だから…幸せになって欲しいわ」
昴がその台詞を聞いたらどう思うのだろう。
そんな事を思いながら、ラチェットの肩を抱き寄せる。
「サ、サニー…」
「ボクはキミと居れて幸せだよ、ラチェット」
「サニー…」
目を閉じながら、瞼の裏で昴の幸せを願う。
瞼の裏の昴は、微笑みながらこう言った。
「ラチェットを不幸にしたら…許さないよ、サニーサイド」

END



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