HIMEHAJIME

「昴、ハッピーニューイヤー!」
「…そんなに大声で言わなくても聞こえてるよ、サニーサイド」
正月早々、騒がしい男だ…と僕は眉を顰める。
船上パーティーの翌日、前日の帰りが遅く着替えもせずに寝てしまった僕はアオザイ姿のままだった。
そこに朝早くからやってきたこの上司は思えば年中正月のような男だ。
「おせち、しめ飾り、鏡餅、お雑煮、羽根つきに日本の正月は情緒に溢れてていいよねぇ〜」
遠い日本に思いを馳せるかのようにしみじみと呟くサニーサイド。
勝手に持ってきたシャンパンを一人で開けて強引に乾杯させられたものの、僕はほとんど口をつけていなかった。
既に昨日、多すぎるくらいの量を飲んでいたはずというのにまだ飲めるこの男の胃袋には穴でも開いているのだろうか。
「随分詳しいな。君らしいけど」
呆れながらため息をついても、有頂天なサニーは当然ながら人の話など聞いて居よう筈もない。
「ところでさ、船上のニューイヤーパーティーでは絶対着物で来てくれると信じてたのに違ったし」
ちらりと僕の服を見ながらサニーが言う。
「……振袖は動きづらいからね。それにここは紐育だし」
「だからいいんじゃないか。紐育の空で見る東洋の神秘。まさにファンタスティック!」
というわけで今からでも着てくれない?と悪びれもせずにサニーは言う。
「…面倒くさい。第一、何で僕が君のためにわざわざ着物に着替えなきゃいけないんだ」
「昴はつれないなぁ〜。日本の正月といったら着物を着ておせちを食べて羽根つきをして初詣に行くものだろう」
「あいにく、紐育には神社もないしね」
「まぁ、その辺は無理だから諦めるとして。紐育でも日本の正月の習慣を実践出来るじゃないか」
にやりと笑うサニーに嫌な予感がして立ち上がろうとすると、背後から抱きすくめられた。
「わざわざ言葉があるという事は、日本では恒例の行事なんだろう?姫始めって言うんだっけ」
「恒例なわけあるか!」
「本当は着物姿の方が萌えるんだけど、何ならボクが着せてあげようか」
「…持ってない!離せ、サニーサイド」
手首を掴まれ、首筋に感じる吐息に背筋が震える。
「持ってない?そんな訳ないだろう、昴は衣装持ちなんだし」
事実、それは嘘だったが正直に言う気など毛頭ない。
…言えば絶対に着ろと言われるに決まっている。
それに着るだけならまだしも、それだけで済むはずがないのだ。
「第一、君に着付けなんて出来る訳ないだろう…んっ」
「出来るかどうか、試してみる?」

既に『その気』らしいサニーサイドは人の気などお構いなしに服の上から肌をさすり、うなじに口付ける。
さほど厚い生地で出来ているわけではないアオザイ越しに触れられると、くすぐったい。
何せ、身体のラインがくっきり見えるのが特徴の衣装だし。
誰がこの男に「姫始め」という言葉を吹き込んだのかは知らないが、その人物を恨みたくなった。
…大方、加山辺りだろうか。
「…っ…僕は、その気じゃない。新年早々、そんなこと…っ」
「そう?てっきりボクが来ると思って着替えないで居たのかと思ってたけど」
首筋から鎖骨へ、そして胸から腰へとアオザイの上から身体のラインをなぞるようにサニーの指が滑る。
「…疲れて着替えるのが面倒だっただけだ、誰が…君の為に……」
「脱がさないでも昴の身体のラインがよくわかるねぇ、この服。昴の平らな胸とか細い腰とか」
「……殴られたいのか」
鉄扇は視線の先、テーブルの上に置いたままだった。
「いや、遠慮するよ。それに別にけなしてるわけじゃないし。小さくても、ちゃんと感じればいいだろう」
そう言って服の上から薄い胸を持ち上げて円を描くように揉まれる。
「…や…んんっ」
その拍子に服で胸の先端を擦られて背筋が震えた。
こそばゆいのか、気持ちいいのか、よくわからない感覚。
サニーの指は身体相応に大きくて、ただでさえ小柄な僕の突起を摘まれるのはたまに痛くて仕方がないのだけれど。
布越しのせいか、直に素肌に触れられるより刺激が少なくて丁度いいのかもしれない。
鎖骨から胸を通って腰へ、撫でるように愛撫を繰り返されると神経が刺激され身体に熱を帯びさせていく。
触れられれば触れられるほど感じる箇所は増え、ちょっとの刺激でも身体が敏感に反応する。
サニーは『昴は感じやすいねぇ。全身何処でも感じるようになるんじゃない?開発すれば』
と笑いながら言っていたが、こうも何処を触られても鳥肌の立つような震えを感じる自分は嫌だった。
結局、いつも触れられてるうちに言いくるめられて流されてしまうのだから。
今だってそう。
年上の余裕というかなんというか、サニーは決して貪るように僕を求めてこようとはしない。
僕がその気になるまでじっくり時間をかけて身体に触れ、我慢出来なくなるまで焦らすのが彼の楽しみ方。
どうせサニーにとっては僕の反応を楽しんでいるだけなのだろうが、こっちはたまったものではない。
「あっ……あぁ…サニーサイド…」
わかっているのにいつしか否定の声は悩ましげな喘ぎに変わって、サニーの愛撫に合わせて掠れた声が漏れる。
「どう?その気になってきた?」
僕の息遣いで、サニーにもわかるらしい。
「なってない…と言えば、やめるのか」
素直に認めるのは癪で、睨みつけながら強がってみても返されるのは曖昧な笑み。
「ボクの努力が足りないのかなぁ。ああ、そういえばキス一つしてなかったね。これは失礼」
くるりと身体を身体を反転させられ、強引に唇が重ねられる。
…微妙に酒臭い。
「じゃあ今日は正月サービスで昴にたっぷりサービスするとするか」
一年に一度しか出来ない姫始めだし、と意地の悪い笑いを浮かべながらサニーは僕のアオザイの下のズボンに手をかける。
姫始めという言葉に何故そこまで拘る必要があるのか、と問い詰めたくなったがそれどころではない。
「ちょ…待っ……サニーサイド!」
「上は着せたままでいてあげるよ。どうも、服越しに触れられるほうがいつもより気持ちいいみたいだし」
「……」
そんなことまで気付かれていたのがちょっと悔しいが。
手慣れた手つきで下着ごと脱がされて、今まで上半身を擦っていた手が足に伸びる。
「…せめて、ベッドルームまで連れて行ってくれ」
もう観念するしかないというか、どうせならとその手をつねりながらぽつりと囁くと軽々と抱えられた。
「やっとその気になってくれた?」
「…さぁ、どうだろうね」
本当は、ほんの少しその気になっていたけれど。

「ん、ぁっ…!はぁっ……っ」
ベッドの上まで連れてこられた後は、ひたすら足を愛撫された。
舌が、爪先を、指の股を、足の裏をなぞり、唇で軽く噛み付かれる。
「汚いからよせ!」と抗議したら「じゃあボクが綺麗にしてあげるよ」とさらりと言い返された。
実際、舐めたりしゃぶられたり、自分に同じ事が出来るかといわれればとてもじゃないが出来やしない。
人の足など舐めて何が楽しいのかと思うが、だが足先は神経の集中している所でもある。
そんな事をされれば、声を抑えようとしても与えられる刺激に自然と神経が昂る。
爪先から全身を駆け抜ける痺れるような高揚感に身体を捩らせながら喘ぐ僕を、サニーは嬉しそうに見つめていた。
「本当、昴は何処でも感じるねぇ」
からかうように笑われ、太股からふくらはぎを撫でられるそれにすらも感じてしまう。
触れられてもいないのにアオザイに隠された熱い蕾がその度に蜜を滴らせているのに気付いて僕は顔を赤らめた。
足を触られているだけで、そんな風に濡れているなど。
服を脱ぎたい所だが、そんな事を言ったら絶対に何を言われるかわかっている。
「……んぅ…っ…あ……くぅ…ぅ…」
「…足だけで満足出来そう?そんなわけないよね、他に触って欲しい所は無いの?」
わざとらしく視線を投げかけながらサニーの手は足を擦り、舌と唇は徐々に爪先から上へ上へと滑るようになぞっていく。
「あぁ……っ…ぅ、ん……ふぁ…はぁぁっ!」
いずれは隠された花園も顕にされるのだという羞恥と期待で、それだけで達してしまいそうなほど。
いつしか僕の声は普段より高く、呼吸は乱れていた。
「しかし、キミは罪作りだよね」
太股に頬を摺り寄せながら、サニーは呟く。
「な、何が……何のことだ」
「キミの性別を知らない人間でも、こんな足をおしげもなく晒されれば目の毒だよ」
「…っ。僕が、どんな格好をしようと…僕の、自由だ…、っ」
「まぁ、キミなら襲われたところで撃退出来るだろうしね。それとも、挑発してる?襲えるものなら襲ってみろと」
こんな風に、とサニーの唇が吸い付くように触れる。
指がくすぐるように太股の裏側を撫でて、僕はこそばゆさに逃れようともがいたが当然離してなどもらえない。
「でも、いざ襲われたら言いなりになっちゃう?」
「馬鹿言うな!…そんなわけ、あるか…、んっ…」
「じゃあボクが特別なわけ?それはちょっと嬉しいなぁ」
「ち…違う…!そうじゃな……ぁっ」
そんな押し問答をしているうちにサニーの指がアオザイの端に触れ、身体がぴくりと反応する。
既に溢れんばかりにとろとろに蕩けた秘所が、期待におののきながら震えたのが自分の心情を表しているかのようで。
そのままめくられるのかと緊張で脈打つ鼓動と裏腹に、指はそのままアオザイの上から僕の身体を撫でただけだった。
「…っ!!」
思わず、ぎゅっと閉じていた目を見開きサニーの顔を見る。
「どうしたんだい、昴。びっくりした顔をして」
「……」
唇を噛む。
この男の底意地の悪さは今に始まったことじゃない。
わかっていたのに期待した自分が馬鹿だっただけだ。
「触れて欲しいならちゃんと言わなきゃ。言っただろう?他に触って欲しい所は無いの?って」
「んうぅっ!あぁっ」
喉の奥で笑いながら、サニーは焦らすような動きでそっと僕の下腹部、そして恥部に指を這わせる。
アオザイの上から軽く指で触れられただけなのに、今まで待ち望んでも刺激が与えられなかったからだろうか。
痺れが走るような快感が全身を伝い、甲高い声が悲鳴のようにあがった。
「おやおや、そんなに興奮してどうしちゃったの?」
「…サニーサイド……」
あくまで、僕が言わないとこれ以上の事はする気が無いらしい。手がぴたりと止まる。
そうして焦らして、焦らして、僕が我慢出来なくなるまで自分からは何もしようとしないのもいつもの事だけれど。
「昴は強情だよねぇ。素直に一言『欲しい』って言えば済むのにさ」
「そんなこと…言えるわけないだろう……」
「何で?」
サングラス越しの瞳に覗き込まれて、ぷいと視線を逸らせながら僕はぼそっと呟いた。
「……恥ずかしいに決まっている」
「ハハ、流石は恥も文化の日本人だ。キミのそういう慎み深い所も日本人たる所以なんだろうね」
なんだか誉められてる気がしないのは気のせいだろうか。
「でもわざわざ新年早々のセックスに名前をつけるほど実は好きなんだよね。日本人は奥が深いなぁ」
「ち…違う!第一、姫始めは…そういう行為のみを言う言葉じゃない!」
「え、違うの?」
首を傾げるサニーにため息をつきつつ、必死に意味を思い出す。
「…君に教えた人物はその意味だけしか教えなかったようだけれど、意味には諸説ある」
「へぇ〜」
「例えば、正月にやわらかくたいた飯を食べ始める日とか、女が洗濯や洗い張りを始める日とか」
なんで僕がこんな事を説明しなければいけないのだろうと思ったが、サニーはしきりに感心し頷きながら聞いている。
…本当に日本好きの男だ。
だが、次の言葉を聞いたとき、彼の目はキラリと輝いた。
「あとは、馬の乗り初めの日とか…」
「ワンダフル!馬乗りになってセックスする日なんだね。流石は神秘の国、日本だ。そこまで決まってるとは」
「は…!?」
何処でどう意味を取り違えたのか。
どうやら非常に都合よく解釈されてしまったらしい。
…しかし、後の祭りだ。
「じゃあ、昴。遠慮なく乗っていいよ。僕はじっとしてるから」
「……」
ひょいと身体を起こされたと思ったら、入れ替わるようにサニーがベッドの上に横たわる。
そそり立つ彼の分身を見ると、誘うようにぴくぴくと蠢いていた。
だが、そう言われてもそのまま行動に移す事など到底出来るはずもない。
「ん?どうしたんだい、昴」
「そ…そんな事、出来るわけない……だろう」
「ああ、そうだね。慣らしもせずには苦しいか。…でも、もう随分濡れてるみたいだけど」
「んっ!…あ……はっ…ぅ…ぅうん」
深いスリットの入ったアオザイの隙間から入り込んできた指が、潤みをまとって中に侵入してくる。
ぐちゅぐちゅと聞こえるように抜き差しする音を立てられて、頬が染まった。
「これだけ濡れてれば、平気かな。さぁ、おいで昴」
軽く上体を起こしたサニーに口付けられ、導かれるようにしてその上に乗りかかると正面から目が合う。
やっぱり、恥ずかしい。
「キミが上になるのって初めてだっけ?まぁ、やり方はわかるでしょ。それとも手伝おうか?」
にやにや笑いながら言われるのが癇に障り、彼の助けは借りないとばかりに恥ずかしさを堪えて挿入を試みるが。
「…うっ……ん、っ…」
見えないせいか、先端はつるつると秘部を滑るばかりで中々入らない。
その刺激は刺激で気持ちよいけれど、何故入らないのだろうという疑問と焦りが顔に出てしまったのか。
「昴」
苦笑しながらサニーが下腹部についていた僕の手を取る。
「素直に手を使ったらどうだい?それとも、これも慣らしのうちなのかな。そんなに怖がらなくても平気だよ」
「い…言われなくてもそのつもりだよ、サニーサイド」
仕方なく、ぴくぴく蠢く陰茎を掴んで、入り口へと宛がう。
「…んっ……んんっ」
内部を押し広げる圧迫感を感じながらゆっくりと腰を落としていく。
ようやく待ち望んだものを受け入れられる悦びで、全身が総毛だった。
ちらりとサニーを見ると、余裕そうな表情でそんな僕を見ている。
「はぁ……はぁ……ふぅ…」
「入った?」
そう問われてこくりと頷く。
「どう?自分が上になる感想は。女性によっては男を支配した気分になれる所が好きらしいけど」
「そ、そういうものなのか…?」
確かに、上から見下ろす格好だからそう思わなくも無い。
「昴にはぴったりじゃない?じゃあ、好きに動いていいよ。キミが気持ちいいようにね」
「………」
サニーの視線を感じ、やや視線を逸らして俯きながらぎこちなく腰を動かす。
「ぅ…んっ……あ、っ……」
気持ちよくないわけじゃないけれど恥ずかしさの方が上で行為に集中出来ない。
もっと激しく腰を動かせばいいのかもしれないけれど、膝立ちの状態では動きにも限度がある。
そんな僕を見ても、サニーは僕の腕をさすったり、足をさすったりで一向に動く気配が無い。
余裕綽々の表情は気持ち良いのかそうでないのかも定かでなく。
とても性行為の最中とも思えないそのくつろぎっぷりに、ついイラついて睨みながら腹筋に爪を立ててしまったらしい。
「…っ。昴、言いたい事があるならはっきり言ってくれないか。爪を立てるなんて酷いじゃないか」
酷いのはどっちだ。
僕が、こんなに恥ずかしい目に合いながらも必死になっているというのに…。
「別に…あっ!ああっ!」
いきなり腰を掴まれ、下から突き上げられて身体が仰け反る。
自分で動くのとは比べ物にならないほどの刺激に、目の前が眩んだ。
「何?やっぱりボクに動かれる方がいいのかい?」
そのまま抜き差しをされる度に身体が跳ねて、ベッドのスプリングがぎしぎしと音を立てる。
「あ、あっ…んぅっ……はっ…ぁ…ふ……っ」
下からとも思えないほど全身を貫く衝撃に僕の小柄な身体は容易く翻弄され、ともすれば崩れ落ちそうなほどだ。
サニーの下腹部に両手をついて支えようとしたら逆に両手首を掴まれ腕を開かされて、身体が大きく仰け反る。
「…いっ…うぅっ……はぁっ…やぁっ……くっ……ぅ…」
手首を掴まれてしまうと僕の身体は身動きが取れず、貫かれる衝撃を軽減する事もできない。
腰を打ち付けられるたびに脳天まで突き抜けるような快楽が身体の隅々まで支配して、膝ががくがくと震えた。
「サニー…ん、んっ……や…あ……あぁ…」
「下から見る昴もいいなぁ。ベッドの上で黒い糸のように広がる姿も綺麗だけど、そうやって髪を振り乱す姿もね」
快楽に閉じた瞼を開くとサニーは嬉しそうに僕を見ている。
ふと、動きが止まり手が頬に伸びてきた。
髪をかきあげられ、耳にかけられる。
「キミは?気持ちいい?」
かすかに頷くと、サニーは満足そうに口の端を歪めて熱い吐息の漏れる僕の口の中に親指を忍び込ませた。
舌に、切り揃えられた爪が触れる。
「知ってる?昔はこれが男性器だったって説があるらしいよ」
「……?」
「こんなのじゃ昴のここは満足出来ないだろうけどね」
「…ひゅ…ふぁっ!んぁ…」
嘲るように笑われギリギリまで腰を引かれたと思ったら遠慮なしに根元まで深々と挿れられて、思わず指を噛む。
くぐもった悲鳴のような声が、喉に絡まった。
「まぁ、昔は女性もここじゃなくて脇の下が女性器だったらしいよ、その説によると」
だから同じような体毛なんだってさ、とサニーは言う。
…僕の陰部はほとんど毛も生えていないから、よくわからないけれど。
身体を揺すぶられる度に、わざとなのかサニーの指が口内で抜き差しされる。
舌が舐めるように動き、唾液が指に絡みつく。
サニーの言う説で行くならば、僕は昔の男性器を舐めている事になる。
彼は僕に口での奉仕を求めてくる事はないので本物の男性器を口に含んだ事などないが、こんな感じなのだろうか。
想像すると見た目の卑猥さも相まって、僕は顔を赤らめていたらしい。
「恥ずかしい?」
そう聞かれてかすかに首を傾けると指が引き抜かれた。
ほっとしたのも束の間、腿の内側をひょいと掴まれて膝立ちの状態から膝を立たせられる。
「なっ…何を…」
「そろそろこの姿勢にも飽きてきたんじゃない?角度を変えれば感じる箇所も違うしね」
「んっ…!んん、あっ……や…はっ…くぅっ……」
内側に閉じていた足を開かされた事で、より深くまで入り込む楔が僕を貫く。
「ほら、もう片方も上げて」
否定する暇も与えられぬままもう片方の足も立たされ抽挿を繰り返されると、更に強い刺激が襲ってくる。
でも、これじゃまるで…。
「凄い格好だね、カエルみたいだよ」
「っ…!!」
恥ずかしさに睨みつけても当然効果などない。
「でも気持ちいいでしょ?奥深くまで入るし。昴は、奥を突かれるのが大好きだからねぇ」
「そ…そういう…ぁっ…ことを……言うな…んっ」
足を開いた事で根元まで咥え込んでいるのは自覚があったが、いちいち口に出されると恥ずかしくてたまらない。
けれど、さきほどの膝立ちの姿勢よりも動きやすくて、気がつけば僕は自分も腰をくねらせサニーの動きに合わせていた。
サニーから与えられる刺激と自分の快楽を求める動きが合うと、より一層の快感が全身を走る。
「はぁっ…くっ……ぅ、うんっ……あぁ…気持ちいい…」
だが、いきなりぴたりと動きを止められそれに気づくのが遅れた僕だけがサニーの上で腰を振っているのに気付き。
「…サ、サニーサイド!」
抗議の声をあげるとサニーは首を傾げて笑った。
「なんでやめちゃうの?」
「だ、だって…」
「昴は我侭だなぁ。動いて欲しいくせに自分からは言わないし。その癖にやめたら怒るし」
「あっ、あっ、ああっ……んぅぅっ!…やぁんっ…」
「ほら、ボクが動いてあげるからキミも動いていいよ。と、言っても…動ける?」
「やっ…はぁっ…はっ……ぅ…んっ…はぅぅっ!」
いつもは体勢的に逆だから僕が動く必要はあまりないし、身体の力が抜けたとて支障はないのだが。
慣れない姿勢で激しく動いたせいで僕の呼吸はいつもより荒く、肩で息をしていたからだろうか。
「あんまり…はぁ……動けない…かも……」
「だろうねぇ。じゃあほら、掴まってて」
言うなりサニーは動きを早める。
僕の疲労を感じたからか、彼の限界が近いかわからないが、どうやら終わりが近いらしい。
「あぅっ…あ、はぁっ…待っ……ま…んぅぅぅっ」
慌てて自分の身体を揺り動かすサニーの腕を掴んで、力の入らない肢体を支える。
限界が近いのはサニーだけではない。僕も、そうだった。
「だめっ…ダメ……もぅダメ…ん、んんっ…やぁぁっ…あぁぁっ!!」
やがて最後の時は、やっと訪れて。
僕はぴんと背筋を伸ばし、天を仰ぎながらぎゅっと目を閉じて身体を駆け抜けるような恍惚感を受け止める。
この瞬間はいつも意識も身体も飛んで行ってしまいそうな気がして、サニーの腕を強く掴むのは僕の癖だった。
ほどなくして、絶頂の後に軽くやった意識が戻ってサニーを見下ろすと。
「どうだった?紐育での姫始めは」
僕に促されて達したらしいサニーがいつもの余裕の表情で僕に笑いかける。
「……さぁね」
どっと溢れ出す気だるさに、上半身をサニーの身体に重ねて頭をサニーの首筋にもたれかけさせると髪を撫でられた。
こうされるのは、嫌いじゃない。
「…それと、もう一つ言い忘れたけど」
サニーの頭とは反対方向を向きながらぼそりと囁く。
「姫始めは基本的に夫婦が初めて正月に交わるのを言う言葉だ。だから、僕と君のは姫始めとは言わない」
「おや、そうなのかい?」
「……間違った日本知識を教えたのが誰だか知らないが、訂正しておくよ」
「つまり、今からボクがキミにプロポーズしてからすればそれが姫始めになるんだね」
「は!?何でそうなるんだ…!」
サニーは僕の背中に手を回すと、僕の身体ごと上体を起こす。
呆然とする僕の顔を覗き込み、サニーは僕の額に口付けた。
「え、昴はそうされたくて言ったんじゃないの?」
「違う!」
「とにかく、ボクに間違った姫始めを教えてくれた人物には昴から正しい意味を教わったと伝えておくよ」
「待て……!」
そんな事を言われたら『やりました』と言うようなものだ。
「いやぁ〜神秘の国、日本は奥が深いなぁ。あ〜あとさ、四十八手っていうのもあるんだって?」
「な、何でそんな事まで…」
愕然とする。
サニーが次に言い出すであろう台詞は嫌でも想像できるからだ。
「凄いよねぇ〜。あ、ばっちり絵つきで解説が載ったのを手に入れたから今から試してみようか、昴」
「や…いやだ…冗談じゃない!」
予想にたがわぬ台詞に慌てて逃げようとする間もなく、のしかかるようにして押し倒された。
「えーと…今のが『茶臼』だっけ?この姿勢だったらやりやすそうなのは『松葉くずし』かなぁ」
「馬鹿!よせ!」
「随分とアクロバティックなのもあるみたいだけど、昴は身体が柔らかいから大丈夫だね」
大丈夫なものか…!という僕の悲鳴は彼の高笑いにかき消される。
僕は深々とため息をつきながら、正月早々日本文化にご執心なサニーに余計な事を教えた人物を必ず白状させて躾ける事を心に誓った。

END

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