As You Like It

「やぁ、昴。コンバンワー」
陽気な挨拶をしながら彼が自分の部屋に来るのはいつものことだ。
「……こんばんは、サニーサイド。その紙袋は?」
サニーは手に大きな紙袋を下げていた。
ある程度の予想はつくが、念のために聞いてみる。
「あ、これ?まぁ、後で見せるよ。それよりも入れてくれないのかい?」
「用件は?」
「もちろん、恋人同士の逢瀬を重ねる為に決まっているだろう」
真面目な顔をしてそんな事を言うのに思わず苦笑する。
彼がそんな事を言っても冗談にしか聞こえないのは普段が普段だからか。
「…恋人同士の逢瀬、だって?僕に惚れたのかい、サニーサイド。残念ながら間に合ってるよ」
「おや、ちょっと来ない間に浮気かい?…昴にはたっぷりお仕置きが必要だな」
お仕置きと言いながら唇を塞がれたまま室内に押し込められる。
さて、今日はどんな『趣向』なのやら。
カチャリと鍵のかかる音を聞きながら僕はそんな事を思った。

「…っ…はぁ……」
最初のキスが長くて濃厚なのもサニーの癖。
相手の身体中が火照るほど長い長いキスをするのが好きらしい。
…まぁ、嫌いじゃないけど。
「このまま昴を押し倒して無理やり…っていうのもこの間やったしなぁ」
「冗談はよしてくれ。…アレはちょっと苦しかったんだ、今度同じことをしたら二度と部屋にいれない」
じろりと睨みつけるとサニーは曖昧に微笑む。
全く、何を考えているのか分からない。
「ごめんごめん、あの時の昴は湯上りで色っぽかったからね。ついつい嗜虐心がそそられてさ」
すまなかったね、と言うその口調には悪びれたところなど全くないのにムッとする。
悪いなどと思っているはずがないのだ、彼はそういう変わったシチュエーションが大好きなのだから。
「で、今日は僕に何をさせる気だい。バタフライと、戦闘服と、あと何を着させられたかな…」

サニーと男女の関係になったのは数ヶ月前。
紐育にも平和が訪れたせいだろうか。
大河は五輪曼陀羅のパートナーとして選んだジェミニとそのまま恋人同士になっている。
見ているこっちが恥ずかしくなるような初々しいカップル。
それを遠くから見つめていた僕の肩に手を置いて
「淋しいかい?君の後輩達がキミを置いて大人になってしまうのは」
意味深にそう言われたのが始まりだった。
「別に。彼らとて一人の人間だ。彼らがどうしようと勝手さ」
大河、ジェミニ。
どちらにもが思い入れがないわけじゃない。
懸命に頑張る姿がいじらしく、それなりに世話は焼いてきた。
彼らを見ていると、ついほっとけない何かを感じて。
正直、二人がくっつくのは至極当然の事と思われた。
家も近いし、大河が紐育に来た初期から一番仲が良かったのがジェミニだ。
友情が恋に変わることなど珍しくもない。
どちらも遠くから紐育にやってきたという共通点もある。
だが、手を握るだけでも頬を赤らめる二人を遠くから見つめていたのは僕だけではないらしい。
「キミもラチェットと似たような事を言うんだね。…流石は大人だ」
「ラチェットが?」
ふいに出てきたラチェットの名前に聞き返すとサニーは笑った。
「気付いてなかったのかい?彼女も大河くんの事が好きだったみたいだよ」
「……」
そう言われて必死に記憶の糸を手繰り寄せてみたが、そうは見えなかった。
自分が鈍いのか、ラチェットのアピールが控えめだったのか。
…単にラチェットが不器用だっただけかもしれない。
彼女も大人に見えて恋愛事には疎そうな気がするのは自分だけだろうか。
「まぁ、年上なのもあってラチェットは大っぴらにアピール出来なかったみたいだけどね」
まるで僕の心を読んだかのようにサニーが呟く。
「…何故それを僕に話す」
「昴がラチェットと同じ事を言ったからさ」
それだけだろうか。
サニーは食えない男だ。
それだけではない気がする。
「……だが、そういう事は軽々しく言わない方がいい。人の気持ちを他人にばらすのは、好ましくない」
「これは失礼。というか、てっきり気付いていると思っていたものでね。昴だし」
「人を万能みたいに言わないでくれないか。僕だって神じゃない、何でもわかるわけないだろう」
「ハハ…万能の天才もそこら辺の機微には疎いのか。じゃあさ、実はセックスとかも経験ないわけ?」
一応、周りを気にしたのか幾分トーンを落としながら耳元で囁かれる言葉にぎょっとした。
いきなり何を言い出すかと思えば。
「あ、図星?」
「…さぁ、どうだろうね。それよりも部下にそんな事を言うのは好ましくないな。サジータに訴えられるよ、サニーサイド」
「純粋な興味だよ。性別不明の天才の秘密を知っている人間がいるのか気になってね」
「………居るとしたら?」
ちらりと横目で見てもサニーの表情は変わらない。
「羨ましいなぁ。どう?ボクにばらしてみる気はない?…冬は人肌が恋しくなる季節だしね」
呆れた。
つまりは誘っているというわけか。
性別のわからない人間相手にそんな誘いをかけるのも、流石は『人生はエンターテイメント』な男。
「僕が男だったらどうするんだい?」
「その時はその時だろう。別に構わないよ、それくらいで止めたりしないし」
あっさりと言われて、深々とため息をつく。
「………君がバイセクシャルだとは知らなかったよ、サニーサイド。驚く気もないけど」
「じゃ、一晩どう?…気に入らなかったら、何でも昴の望みを聞いてあげるから」
「何でも?」
「ああ」
余裕綽々に笑う態度が気に食わない。
ちょっとくらい困らせてやろうか、という悪戯心が湧いた。
「随分余裕なんだな……僕が女性で初めてでも気持ちよくさせる自信があると?」
チラリと上目遣いで彼の反応を窺う。
「あ〜……それはやっぱり痛いだろうねぇ。まぁ別に挿れて気持ちよくさせるだけがセックスでもないし」
だが処女である可能性を示唆しても、躊躇うわけでもなく喜ぶわけでもなくさらりと流されてしまった。
これでは牽制にもなりはしない。
「ヴァージンを失いたくない?日本人て結婚まで純潔を守るというし。昴もやはり日本人なんだねぇ。うんうん」
「……あくまで例えとして言っただけだよ」
何やら勝手に納得されそうだったので釘を刺しておく。
さて、どうかわしたものかと考えあぐねて。
「まぁ、ちょっと強引だったかな。そうだな…こういう時に日本人だったらどう言えばいいのか大河くんにでも聞いてみるか」
「!!」
ぎょっとしてサニーを振り返ると、鬼の首をとったかのような笑みが待ち受けていた。
僕の反応を予想していたらしい表情にカチンときて視線を外す。
「大河じゃ参考にもならないよ。素直な彼にそんな事は聞くだけ無駄だ」
「そう?じゃあ昴が教えてくれない?日本人によるアメリカ人のための日本人の口説き方」
……なんで自分を口説こうとしている人間に口説き方など教えなければならないのか、と呆れそうになったが。
「そんなものはないよ」
にべもなく答えてもサニーは人の話など聞いていない。
「じゃあやっぱりボクの得意な方法で口説くしかないのか。……ベッドの上でね」
言いながら肩と腰に回される手を振りほどくのも面倒だった。
ここまで自信満々な鼻っ柱を折ってやりたい気持ちもあったのかもしれない。
もしくはこの満たされない気持ちの憂さを不健全な方法で晴らしてやろうとでも思ったのか。
「……気に入らなかったら、何でも僕の望みを聞いてくれるのかい?」
いずれにせよ不遜なこの男に吠え面をかかすのも一興か、と僕は身体の力を抜くとサニーに身を任せる。
「勿論。その気になってくれた?」
「どうだろうね……途中で気が変わるかもしれないよ」
寄り添いながらも僕の頭の中はサニーにどんな難題を吹っかけるかで一杯だった。


だが数時間後。
「………はぁっ、はぁ、はぁ……」
腰が抜けて立ち上がれないほどぐったりしていたのが僕の方だったのは、全くもって不本意な過去だ。
「……昴、平気かい?」
幾分息が弾んでいるあたり、サニーも疲れているらしいがどう見ても僕の方が瀕死の状況。
一体、何回イかされたのだろう……「君には×××で×××だね」くらい言ってやるつもりだったのに。
僕の性別を知っても「初めてだったらすまないね」の一言で驚きもしなかった。
本当に、どちらでも構わないと思っていたのやら……。
「気持ちよかった?」
聞かずとも僕の有様を見ればわかるだろうに、わざとらしく聞いてくるのが気に食わない。
シーツを握りしめながらそっぽを向いていると、耳元で囁かれた。
「まぁ、答えなくても態度でわかるけどさ。普段物静かな昴のあんな声とかこんな声も聞けたしね」
「!!」
火照りの収まりつつある顔にまた赤みが差す。
自分が何を言ったかなど、恥ずかしくて思い出したくもない。
ぎゅっと身を縮こませながら知らん顔をしているとひょいと目の前に何かをぶら下げられた。
「ボクは良かったよ。こんなに出たの、久しぶりだし」
それを見せられ、僕は眉を顰める。
真っ白な欲望の塊の詰まった避妊具など見せられて気分の良い人間などあまりいないだろう。
まして外側を伝う粘液の多さに自分の興奮具合を見せ付けられた気がして、それがまた僕の羞恥を煽った。
「量を快楽のバロメーターにするなど根拠に乏しい。そういうものは……個人差があるものだろう」
半ば自分に言い聞かせるように呟いても説得力のない言葉なのは十分承知の上だ。
「ま、そうなんだけどね。ちょっとたっぷり出過ぎちゃってもう一度ヤるのは無理そうだからさ」
その台詞に心なしかほっとしている自分がいる。正直なところ、しばらくは……立つのも遠慮したい。
「で、キミはどうだったの?満足した?」
「……、んっ!」
耳に息を吹きかけられ、甘噛みされただけなのに快楽の余韻冷めやらぬ身体は容易く反応してしまう。
「ぼ、僕は……」
「……そんな声で鳴かれるとゾクゾクするなぁ。ぴくりとも反応しないのが残念だよ」
その言葉にぞっとしたが背中から抱きしめられても確かに力を失ったものが元気を取り戻す様子はない。
「で、どうなの?」
「か…身体の相性は認め……ても、いい」
素直に満足したなど死んでも言えるか……!!
と心の中で叫びながら精一杯の強がりを吐く。
そうだ、これは僕のせいじゃなくてうっかり身体の相性がよかったからだと自分に言い訳をしながら。
「へぇ……認めてくれるんだ」
「あんな姿を晒しておいて認めるも認めないもないだろう!」
「嬉しいな、キミに認めてもらえるなんて」
「……っ」
話せば話すほど恥ずかしさが増す事に気付き、唇を噛みしめる。
「じゃあ昴に身体の相性のよさを認めて貰ったところで、改めて口説いてもいいのかな?」
「は……?」
一晩だけ付き合う約束じゃなかったのか。
その疑問を顔に出しながら振り向いてもサニーはとぼけた顔でこう答えた。
「こんなに身体の相性がいいのに一度だけなんて淋しいじゃないか。逆ならともかく」
「それは…僕と身体の関係を続けたいということか」
「う〜ん……ちょっと違うな。昴にもっと興味が湧いたから身体も含めてボクと付き合わない?って感じかな」
「………」
つまりは普通に「お付き合いしましょう」ということらしい。
「一度でも相手してくれればラッキーかな、と思ってたんだけど。一度きりにするのが惜しくなったよ。物凄くね」
「随分…自分勝手な言い草だな、身体目当てですと言われて、それで僕が承知すると思っているのかい?」
「だってボクが今更『ずっとキミが好きだったんだ!キミだけしか見えないんだ!』とか言ったら引くだろう?」
確かにそれは引く。
そんな事を言われたら鳥肌が立ちそうだ。
…想像するだけでぞっとしそうなので考えない事にする。
「本当は大切な隊員に手を出すなんて自分でも悪いなと思ってるんだけどね。昴ならそこら辺も理解してくれるかなと」
「……僕は後腐れなく遊べる相手だと?サニーサイド」
「逆さ。後腐れなく遊びたいなら娼婦でも買えばいい。気軽に扱えない相手だからこそこうして臆病にも慎重にもなる」
どの辺が臆病で慎重なのかと問い詰めたくなったが、ふとサニーの顔が険しくなる。
「秘密の共有というのは甘い媚薬だ。こういう他人に言えない職業をやってるとどうしても理解者を内に求めがちだしね」
暗に、大河とジェミニを揶揄しているのだろうか。
それとも、僕か、彼か。
僕はそんな思いを無意識に顔に出していたらしい。
「別に大河くんに限った事じゃない。大神の例で実証されている事だし、それで結束が固まるならボクも万々歳と思っていたしさ」
ただねぇ、とサニーは言う。
その表情も口調も天を仰がんばかりに自嘲的だ。
「大河くんや大神はともかくボクはマズいと思うんだよね。立場も違うし、いざとなったら非情にもならなきゃいけないし」
情に流されて判断を見誤る指揮官にはなりたくないんだよねぇ、とぶつぶつ言っているのは僕にというより独り言らしい。
「……結局、何が言いたいんだ。君は」
回りくどすぎて話の意図が見えない。
肝心な部分を言わないのはサニーらしいが、どうも歯切れが悪い会話内容だ。
「う〜ん……つまり、らしくもなく自分の立場も忘れてキミを慰めたくなっちゃったって事かな」
……そう言われてもやっぱりよくわからなかった。

「で、君がらしくもなく僕を慰めたくなった本当のところは?」
「これ以上言わないとダメなのかい?昴に惚れてる以外にどんな理由があるっていうんだ」
真面目な顔をされるほど吹き出しそうになるのは、想像の斜め上をいく発言をされたからか。
「その艶やかな黒髪も切れ長の瞳も滑らかな肢体もボクの心を捉えて離さない……ってそこで笑わないでくれよ、昴」
「だって君が真面目な顔をしてそんな事を言うなんて思いもしなかったからね。笑う以外にどうしろと言うんだ」
まさかこちらも真面目に返せといわれたら丁重にお断り願うだろう。
そんな光景は不気味通り越してシュールすぎる。
「まぁ、嘘か本気かは昴が判断すればいい事さ。言ってる本人が胡散臭いと思ってるくらいだし」
「自覚はあるんだな」
「自分を冷静に分析したまでだよ」
そう答えるサニーの表情はいつもの飄々とした顔に戻っている。
ぽつりと弱音を漏らしたのが嘘のように。
だが、嘘か真かサニーの困った表情を見れたのはちょっと気分が良かった。
相手に自分の痴態を晒した後だけに尚更。
…まぁ、それすらもサニー演技なのかもしれないが。
「身体を許したくらいで心まで、なんて甘いよ」
「昴」
「それでも捕まえてみせる自信があるのなら好きにすればいい。無理だとは思うけど」
サニーはちょっと驚いたようだが、僕の言葉の意味を理解したのか後ろから抱きついてこう言った。
「そういう相手のほうが落とし甲斐があって楽しいね。心も、身体も、全部ボクのものにしてみたくなる」


こうして恋人と呼ぶには奇妙な逢瀬が始まったわけだが。
会って身体を重ねる事もあれば、話だけして帰っていったり食事に連れ出されたり。
それ自体はいたって普通なのだが、ちょっと普通じゃない事があるとすれば。
セックスの時に僕にあれを着ろこれを着ろとせがむことだろうか。サニー自身が着替えるときもある。
本人曰く「マンネリにならない為」らしいが、やる事自体は変わらないじゃないかと言ったら
「昴は萌えをわかっていない!」
と、さんざんまくしたてられたのでどうでもよくなった。
僕にはよくわからないが、サニーなりの独特の美学だが哲学だかがあるらしい。
まぁピンカートンとバタフライの気分になりきるのも、演技の参考にならないこともない―――――
などと考えるようになった辺り、僕も毒されたのかそれともペースに乗せられたのか。
自分でもいささか爛れていると思うしダイアナ辺りが知ったら…
「ダメですよ!ダメですよ!」と学級委員のようなことを言われるかもしれない。
でも何処か心地よいのはやはり身体の相性の良さ故か、秘密の共有という甘い媚薬に酔っているのか。
結局のところ、一言で言うならば『惰性』なのかもしれないとたまに自嘲的になる。
さりとて本気で求愛された所で僕が首を縦に振ることなどありえない。
適度に距離を保ちつつ、適度に気の置けない相手として重宝しているという点ではお互い様なのだろう。
口に出す事はないが、僕はサニーとの関係をそう分析していた。

「何、考えているんだい?」
ぼんやりしていたらしい。瞳の焦点を合わせると目の前には覗き込むようなサニーの顔があった。
「他の男の事だったら妬けるな。ボクというものがありながら」
そう軽口を叩いても本気で嫉妬しているわけでもなく言葉遊びにすぎない。
「違うよ……あの紙袋の中身を考えていた。いつもより、大きいからね」
「気になるかい?今日は昴に好きな方を選んでもらおうと思って二種類用意したんだよ」
そう言ってサニーは僕を解放するとごそごそと紙袋を漁る。
中から出てきた衣装を見た時点で何となく今日の趣向がわかってしまった気がしたが。
期待に目を輝かせるサニーの為に、どちらかを選ばなくてはならない。
逡巡しつつも僕が選んだのは…メイド服だった。

もう一つ、一体何処から手に入れたのやらスクール水着が見えたがそっちは見なかった事にして袋の底に押し込む。
何が悲しくて海やプールでもないのに水着など着なければいけないのか。

メイド服の方はというと 落ち着いた紫色のワンピースに白いエプロン、エプロンとお揃いの白いカチューシャにカフスまで揃っている。
「サイズは気にしなくてもいいよ。その辺にぬかりはないから」
……そういう問題じゃない。
「何ならボクが着替えさせてあげ……」
「着替えてくる」
サニーの発言は無視し、衣装を手にさっさとクローゼットに逃げ込む。
趣味に付き合うのは慣れたとはいえ、着替えの最中にまでちょっかいを出されるのはちょっと鬱陶しい。
シックなデザインのメイド服に袖を通すとエプロンを羽織りカフスを手首につけ。
エプロンと襟元のリボンを蝶の形に結んで頭にカチューシャをすればメイドの完成だ。
サイズはサニーの言ったとおり申し分ない。
まさか杏里に作らせたんじゃないだろうな…と勘繰りつつも寝室で待つサニーの元へ戻ると。
「ファンタスティック!いやぁ、よく似合う。まるで生まれながらのメイドみたいだよ」
大興奮のサニーに出迎えられた。
あまり褒められた気がしないのは気のせいだろうか……。
「で、僕にこんなものを着せてどうする気だい」
手を引かれるままベッドに腰掛けながら問うと、サニーはよくぞ聞いてくれましたとばかりに破顔した。
「そりゃあ当然!メイドと言ったら昼も夜も主人に奉仕するものと決まっているだろう」
「奉仕……」
「というわけでご奉仕してくれるかい?ボクのメイドさん。もちろん、性的な意味で」
促すように落とされた視線を辿れば、いつの間にやらスラックスの股間部分が膨らみかけている。
「これをどうすればいいのかな、サニーサイド…」
聞くまでもない事はわかっているが、それを取り出しつつ訊ねると早速サニーがダメだしをしてきた。
「昴。メイドだったらそこは『様』付けだろう」
「はぁ…サニー…サイド、様」
やる気なく呼んでもサニーは上機嫌だ。
仕方ない、こうなったら身も心もメイドになりきって奉仕することにしよう。
今宵一夜の僕のご主人様、サニーサイドに。

「…ん、ぅっ…ふぁ……んむ」
「……そうそう、上手だよ。昴」
とりあえずはとたっぷりの唾液を含ませた舌で丁寧に舐めあげると、サニーは僕の髪やカチューシャを弄びながら微笑む。
真っ直ぐな幹に浮き出る血管をなぞるように幾度か全体を唾液で湿らせてから、唇で側面を挟み込んだりと動きにも変化をつけると。
触れてもいないのにぴくぴくと物欲しそうに震える先っぽが横目で見えたが、触れることはしない。
より先端の方が敏感な事くらいは知っているが、だからこそ無視したくなる。
「ふ…ぅん……は、ぁ……」
暴れるモノを手で押さえつけながらもう片方の手で陰嚢へも優しく『ご奉仕』する。
サニー本人から教えられた通りにやっているだけだが、サニーによると筋がいい…らしい。
「流石は天才だね。飲み込みが早い」と言われてもちっとも嬉しくなかったが。
そんなこんなで焦らしながらも愛撫を続けているうちに先端から興奮の証が滲み出てきたのを見計らって。
僕は敏感な部分へ唇と舌を這わせた。
「……っ」
労わるように優しく僕の背中を撫でていたサニーの手が一瞬止まり喉の奥でかすかに呻く声が聞こえると、してやったりという気分になる。
「気持ちいいかい?サニーサイド……様」
じろりと凝視されて慌てて敬称をつけつつもサニーの様子を窺うと、熱い吐息を漏らす彼と目が合った。
「ああ……たまらないよ。食べられてしまいそうだ」
それは感想というより要望なのだろう。
「そう?じゃあお望みどおりに……食べてあげるよ」
唇を開き、口内にサニーの分身を招き入れると苦さが口の中に広がったが、逆にそれを舌に絡めて柔らかい部分全体になすりつける。
裏も、表も、ひっかかりのある部分も丹念に舐め、突き、歯を立てないように気をつけながら軽く食む真似までしてみたり。
手と口の中でサニーがむくむく膨張するのを感じながら、いずれはこれで貫かれるのかと思うと陶酔にも似た甘い痺れが脳を溶かす。
僕も、だんだんその気になってきたらしい。
更に追い詰めるべくピストン運動を開始しようとしたら…
「……んっ!サニー…!!」
横に跪く格好で居た僕のスカートの中にサニーの手が伸びてきたのを感じ、思わず顔をあげる。
「ボクばかりじゃ悪いだろう?キミにもサービスしてあげるよ、昴」
そう言ってサニーはベッドに横たわると僕に下半身をこちらに向けろと言った。
「……」
それは、つまり……。
「どうしたんだい?ほら、遠慮しなくてもいいよ」
遠慮ではなく羞恥からだったが、そうは言われてもすぐに実行に移す気になどなれない。
そんな事、今までした事がないのだから。
「あ〜…もう。じれったいなぁ」
「!?」
がしっと腰をつかまれ、軽々と持ち上げられたと思ったら次の瞬間にはサニーの上に四つん這いにさせられていた。
その際、ついでにとばかりに僕の下着を脱がすのも忘れてはいない。
何て手際のいい…と感心している場合ではなかった。
「んっ!あっ……サニーっ……」
「続きは?」
スカートをまくられ、剥き出しになった僕の秘所をサニーの指が撫でる。
一方的に奉仕していただけなのに、僕の其処は既に潤みを帯びていた。
「上手に出来たらご褒美をあげよう。キミのココにね」
つぷ、と指が差し入れられて軽く動かされただけでも。
「あ、あ……は、んぅ……」
僕の意識はついそっちに向かってしまう。
「怠けている子にはお仕置きだけど」
「……はぅっ!!」
見せしめのように指が抜かれ、代わりにぺちんと尻を叩かれる。
痛みを与えるためではないのか音の割に痛くはなかったが、それでも予想もしない衝撃に身体が跳ねた。
「さぁ……ご褒美が欲しければどうすればいいのか、昴はわかっているよね?」
気味が悪いくらいの猫撫で声で囁いたサニーは次の瞬間には打った場所を優しく撫でる。
「…わかっている。ちょっと、驚いただけだ」
そう言って恥ずかしさを紛らわせるように、奉仕行為を再開してはみたものの。
……当然ながら集中出来ない。
サニーは僕の双丘を掴み、ゆっくり円を描くようにして揉んでいる。
大して肉付きが良いわけではない僕の尻を熱心に揉んで何がそんなに楽しいのかと思うが。
閉じたり開かれたりする襞の立てるぴちゃぴちゃした音が僕の耳元まで聞こえて頬が朱に染まる。
いつもなら絶対に
「凄い音だよ、ほら聞こえる?」だの「咥えるだけでこんなに濡れるなんて昴はいやらしいね」だの
僕を貶めるような台詞の一つでも吐きそうなものなのに、サニーは一言も言葉を発しようとしない。
「……ん、ふ、……ぁっ…む……」
でも、見えなくても視線を感じる―――――。
ときおり手を止め、入り口を左右に目一杯広げられたり息を吹きかけられたりする度にそれを実感する。
相手の目の前に自分の恥ずかしい場所があるという……その状況に知らず動悸も早くなって。
僕は火照った頬だけでなく体内もじわじわと熱くなって濡れてくるような感覚が、した。

「…はっ……は、ぁ……っ」
そのうち出し入れするたびに唇の端から漏れる音と、僕の下半身が立てる音が似ているのに重なり合うリズムで気付いた。
僕が意識してやっているわけではない。
サニーがわざとやっているのだろう。
彼が何故一言も発せずにいるのかようやく理解した気がした。
「…んむ、ぅ……っ……ん、は…っ」
確かに、同じようなリズムで聞かされると聴覚刺激効果は二倍になり興奮の度合いも増す。
秘裂への抜き差しが、サニーの分身であるかのような錯覚に陥りそうなほど。
ただでさえ相手の性器を弄りながら自分の性器のみを露出するという、視覚的にも恥ずかしい姿なのに。
けれど、いかに興奮や快感を感じても相手から刺激を受ければ当然そっちに意識がいってしまうからだろうか。
「ぁ、あっ……はぁっ!……んっ」
サニーから刺激を受けると、つい動きが止まってしまう。
自分が感じることと、相手を感じさせることを同時に行うのがこんなに難しいとは思わなかった。
「どうしたの?ちょっと触っただけでおクチの動きが止まってるよ」
「それは……君が…っ!」
「ボクが、何?」
「……っ」
「ボクをイかせる事も出来ないのに自分は気持ちよくなりたいなんてワガママだなぁ。ちょっとお仕置きが必要だね」
「ち、違っ……ん…あっ……んうぅっ!!」
緩やかな抜き差しを繰り返していた指を奥までねじ込まれ、内部を抉るようにして掻き回される。
今まで触れられなかった肉芽を抓まれ、たっぷりの愛液で擦られると僕の喉からはくぐもった悲鳴が漏れた。
お仕置き、と言われたけれど僕にとっては待ち望んでようやく与えられた快楽に過ぎず。
特に子宮の手前をグリグリ擦られると眩暈のしそうなほど気持ち良くて、それまで羞恥にせき止められていた理性は容易く弾け飛んだ。
身を捩ると赤黒い光沢を放つ陰茎が顔に触れて、僕は夢中になってそれを頬張る。
考えるより先に身体が動いた、という表現が正しいのかもしれない。
「…っ、……ふっ……は……ん、はっ……あっ」
気持ちいい……という感情を爆発させるように、何も考えられない頭でも本能で相手がどうすれば気持ちいいのかはわかるらしい。
唇をすぼめ、舌で扱くとそれに応えるようにサニーの腰が揺れる。
頭の中も、口の中も、熱い体内もぐちゃぐちゃに掻き回されて脳の奥まで痺れそうだった。
羞恥をかなぐり捨て、淫らに腰を振って肉棒にしゃぶりつく姿など普段の自分が見たら顔を背けるに違いないが。
「……ん、ん…ふぁ……は、っ………んんんっ!」
でも…もしかしたら、本当の僕はそういう人間なのかもしれない。
サニーとこうなってからはそんな事を思うようになった。


「おや、イっちゃった?お仕置きじゃなくてご褒美だねぇ。これじゃ」
僕が達したのに気付き、サニーは膣内から指を引き抜く。
ごぼっという濁った音に、膣口から愛液が滴り落ちそうな気がして自分でも無意識に足を閉じようとすると。
さっきよりも足を開かされて腰を高く掲げさせられた。
「ダメだよ、閉じちゃ。開いてくれないと、挿れられないだろう?」
「え……?待っ…、サニーサイド……、っ」
まさか、このまま挿れるつもりなのか……。
確かに挿入するには十分なほど濡れてもいるし、僕だって大分身体の疼きを感じてはいたが。
未だ僕もサニーも服を着たままで、下手をすれば汚れてしまう。
「まだ、服が……」
後ろを振り向くと何故かサニーはベッドの端に立っていた。
長身のサニーにこんな姿勢のまま見下ろされるとぎょっとする。
咄嗟に逃げようとしたら手首を掴まれ、耳元でこう囁かれた。
「ヤだよ。着たままだから興奮するんじゃない」
「変態……!」
「それ、誉めてるつもりかい?」
サニーを睨みつけ、罵ってみても全く動じない。
観念して次に来るであろう衝撃を少しでもやり過ごす為に身を縮こませる。
指で目一杯開かされた場所に少しひんやりとした感触が触れたと思ったのは一瞬で。
「やっ……ぁあっ!」
一瞬前に冷たく感じたのが嘘のような熱い塊が内壁を掻き分けて入ってきた。
入り口が裂けるかと思うほどのぐっと拡げられる感覚と、電流のような痺れが背筋を駆け抜ける。
「……はぁっ……っ…サ、ニー………っ!」
奥まで入ったとは思わない。でも、少し入れられただけでも下腹部に圧し掛かられているような息苦しさを感じ僕は呻く。
他の体位と比べ物にならないほどの圧迫感に唇を噛みしめてじっと身を屈めているとサニーが顔を近づけてきた。
「……苦しい?昴」
「少し……、苦しい」
「奥に当たる?ちょっと深すぎたかな」
……抜いてはくれないのか、と思ったがサニーが胎内から抜け出るのを感じて心の中で安堵のため息をつく。
だがあと少しで全部抜けるという時に入り口付近にひっかかるような刺激に僕は苦しさとは違う声で喘いだ。
「……ん、あうっ!!」
「昴?」
どうしたの?という風に問いかけられても僕は呼吸を整えるのに必死で言葉が出てこない。
「もしかして……入り口を擦られるのが気持ちイイ?」
浅く沈められた先端に擦られるとさっきのムズムズするような感覚がまた襲ってきて自然に腰がくねる。
「……ん、んんっ…」
奥を突かれるのではなく入り口を擦られるならそれなりに感じられるらしい。
何度も頷くとサニーは嬉しそうに鼻を鳴らした。
「本当だ。中から…凄い、出てきたね。下も、ゆっくり味わいたい?」
そう笑いながらゆっくり腰を振られると、ねちゃねちゃとした粘着質な水音が擦れ合う場所から漏れ出た。
「……あっ…ぁ……はっ…あ」
ぬるぬると滑らせながらサニーが出し入れする度にめくれあがる襞がいやらしくひくひくと揺れているのが自分でもわかる。
口を開きながら男根にねっとりと絡み付いて奥へ吸い込もうとするそれはなさがらもう一つの唇だった。
「ぅ……あ……っ!?」
「でもこれだけじゃボクは物足りないなぁ。……重かったらゴメンね」
ベッドの端に膝をついたサニーの身体が折り重なってくる。
と、思ったら左手は陰核を、右手はエプロンの隙間から胸を弄り、唇は首筋を舐められた。
「ん、重っ……!う、あぁぁっ……」
重みにベッドに沈み込む僕の頭上でサニーの嗤う声が聞こえる。
一気に、刺激される場所が増えた。
首筋を舐められると背筋がぞくりと粟立ち、胸を弄る手が服越しに突起を探り当てられると抓まれる刺激に心臓が跳ね上がる。
腫れ上がった芽は既に愛液でどろどろになっていて、抜き差しと一緒に弄られると強い快感におかしくなりそうだった。
「あぅっ……あ、あ、んっ……んぅ……んっ!」
快楽から逃れようとしても、揺すぶられる身体が前にずり上がらないようにとシーツを握りしめる事しか出来ない。
全身を支配されているような被虐心も手伝って、ほどなくして僕は四肢が震えさせるとまた達してしまった。
「……昴」
呼ばれて振り向くとサニーの顔があって、誘うように舌が出されたのが目に入り。
「……ん、はっ……ふぁ」
必死に自分も舌を伸ばすと舌先がちょっとだけ触れ合ったが、すぐに息苦しくなって顔を背ける。
達した直後の息が整わない状況で首を捻らせるのはちょっと無理がある。
サニーは気分を害した様子も見せず、ぺろりと唇を舐めふふっと笑うと上体を起こす。
のしかかっていた重みが消えた事にほっとしていると。
「失敗したな。最後にとっておけば良かった。後ろからだとやっぱ締まりが良すぎて……搾り取られそうだなぁ」
眺めも興奮するしね、と言われて後ろの孔にサニーの指先がそっと触れる。
「…ひっ!」
くすぐったいような感触とそんな所に触れられたという恥ずかしさで思わず背中が仰け反った。
驚きの眼差しでサニーを振り返っても当然ながら少しも悪びれた様子などない。
「やっ…馬鹿!何処を触ってるんだ……!」
「だってこっちも触って欲しそうにしてるしさ」
「そんなことあるわけないだろう!!」
彼の言う通り、その部分が身体の動きに合わせて収縮をしているのは気付いていたし見られているんだろうなとは思っていたが。
触れられるなどとは思っていなかっただけについ羞恥と焦りで声を荒げてしまう。
「本当?」
「……蹴られたいのか!」
「うーん、足で奉仕されるのならともかく蹴られて喜ぶ趣味はないなぁ」
「とにかく…僕は冗談じゃない」
これ以上この姿勢で居る事に危機感を感じて身体を捻ると、サニーの分身がずるりと抜け出た。
「残念。まあ、次回のお楽しみにしておくか」
サニーは悪びれた様子も見せず抜けたペニスをゆっくりと、しかしさきほどより深い結合を目指して潜りこませてくる。
彼の恥骨が僕の尾てい骨に当たると、奥まで入ったんだとぼんやりした頭で思った。
「まだ……苦しい?」
「ぁ、あっ……!なんとか……平気」
もう、苦しくはない。
「それは良かった」
嬉しそうに言うと、サニーは緩やかに動き出す。
「……!!ん、ぁ、っ……は、んっ、んんっ」
やっぱり……入り口付近が擦れて気持ちいい。
でも、心情的には少し釈然としないものも感じる。
すっかり忘れていたが、性器だけを露出して相手に見られているのはさっきと変わらないのだ。
いつもだったら、手を伸ばせばサニーの身体の何処かしらがあって。
繋がっている部分だけじゃなくて全身で相手の存在を感じる事が出来るのだけれど。
後ろからだと本当に貫かれている部分だけでしか感じられないというか…見知らぬ人間に犯されているような気分というか。

「サニー……っ」
「ん?」
「……」
思わず呼びかけてみたものの、なんと言えばいいのかわからない。
まさか体位を変えたいなどとは言い出す事も出来ず、僕の口から洩れたのは自分でも意外な言葉だった。
「君に…触れたい」
「……昴」
サニーにとっても予想外の言葉だったらしい。
見開いた瞳がすぐ嬉しそうに細められ、口の端に笑みが浮かぶ。
「嬉しいな、昴がそう言ってくれるなんて」
「僕は……っ、ただ……」
「いいよ、どうしたい?」
「正面から……、君と……」
恥ずかしさに口ごもりながらやっとの思いでそう呟くと、僕の意図を理解したようにベッドの上に座るサニーと目があった。
「おいで」
誘われるまま、その首に腕をからませゆっくりと腰を落とす。
「…ん、はぁっ……!」
「これでいいの?」
素直に頷く。
サニーの体温、息遣い、匂い。
服越しではあってもそれらを全身で感じて快楽だけでない心地よさに安心する。
やっぱり、こっちの方がいい。
「サニーサイド…」
ねだる様に上目遣いで舌を差し出すと、熱い舌が絡まりあった。
「ん、っ…ふ……ふぁっ……は……ぁ…」
深い口付けを交わしながら、互いに腰を揺すって最後の一瞬に近づいていく。
サニーもお喋りを止めて、部屋に僕たちの荒い息遣いと粘膜の擦れる音だけが響き渡る中。
「……っ!もうっ……あ、あぁっ、んうぅっ!!」
頭が真っ白になる恍惚感に全身の力を籠めてサニーサイドにしがみつく。
「…っ」
サニーも激しかった動きが止まり、息を詰めるような声が耳元で聞こえる。
直後、僕の中で彼の分身が脈打つのがわかってサニーも達したのだと身体の奥で感じた。

「……はぁ…はぁっ…」
「昴」
「んっ……!」
まだ息が整いきらない内に口付けられ、ちょっと息苦しい。
「ありがとう、楽しかったよ」
「それは良かったな…」
「じゃあ、次はスクール水着を着て貰おうかな」
「はぁ!?」
「いや、今日の昴はいつも以上にいやらしかったからもう一回出来るかなと思って」
…いつの間にか紙袋から出した水着を手に微笑むサニーサイドを見ながら思った。
僕には、彼の萌えだか哲学だかを理解出来る日は永遠に来そうにない、と。


END


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